トップ>Hakumonちゅうおう【2010年125周年記念号】>【創立125周年記念行事】多摩キャンパスに蘇る湧水池 環境再生し、生態系の復元図る
緑溢れる多摩丘陵に抱かれた中央大学多摩キャンパス。豊かな生物多様性に欠かせない水質の良い湧水が、キャンパス内に何箇所か見られるが、そのなかから、かつてあった湧水池が蘇ろうとしている。
湧き水でできた小さな池
湧水池の“復元”に取り組んでいるのは、経済学部の「湧水を中心とした多摩キャンパスの生態系保全とビオトープの確立」実行委員会で、創立125周年記念行事として昨年に立ち上げられ、秋頃から活動を始めた。キャンパス内の自然の湧水に着目し、ビオトープとして保全・再生することで、生態系の復元を図ろうという「多摩キャンパス内の環境再生」が目的だ。
実行委員長の黒須詩子・経済学部教授は「生物多様性を維持することは、私たちの存亡に関わっています」と企画の重要性を強調する。
「人間の経済活動は生物多様性による恩恵、すなわち『生態系サービス』に支えられています。そして、生物多様性を支えるのは『水』です。キャンパス内に潜在的に存在する湧水を活かすことで得られる経済効果は絶大なものと考えています」
一般的に、湧水は高低差のある丘陵地に豊富に存在し、雨水が山にしみこみ、ゆっくりと浸透していくことで水はろ過され、美しく非常に冷たい水として地上にあふれ出てくる。
かつて多摩丘陵一帯は水資源が豊富で、生活用水や灌漑農業に利用されていた。そんな丘陵地を切り崩して中央大学多摩キャンパスは建設されたが、校舎完成後も湧き水は出続けた。その湧水や山から流れ来る水が集積し、多摩キャンパスの北門近くには直径4~5mの湿地帯が存在し、カエルなどの両生類が繁殖し、30種を超える野鳥が毎年、飛来していたという。
桜広場の一角にできる湧水を指差す黒須教授
しかし、1980年代前半に、大学の下に水が流れ込んでしまっているという理由で、湿地帯にできた池は埋め立てられてしまった。それにより、おたまじゃくしなど水辺の生き物は激減し、飛来していた野鳥はいつの間にかいなくなってしまった。
だが、水質が悪くなったわけではない。キャンパス内の何箇所かでは今も非常に水質のよい湧き水が見られ、その周辺では絶滅が危惧されている生き物や植物が細々と生きている。「身近な自然に関心をち、生物多様性を守って行くことは、私たちの利益につながるのです」と黒須教授は訴える。
サッカー場とテニスコート脇の湧水池候補地
黒須教授ら実行委員会が候補地にしている湧水池は、桜広場の奥の一角と、サッカー場に隣接したテニスコート脇上方にある林の中の二箇所。それぞれ直径3m、深さ30~50cmほどを予定し、計画では年内完成を目指している。
「池は深くする必要はなく、むしろ深いと魚などの両生類の天敵が入り込む」という。また、多くの人が常に関心を持たないと、忘れ去られ、落ち葉ですぐに池が埋まってしまう。なお、テニスコート脇上方は危険な場所にあるため一般公開はしない。
実行委員会は、この活動の一環として『多摩丘陵の自然保護、これまでとこれからの展望』をテーマに3回にわたって連続シンポジウムを開催。それぞれ多摩丘陵の自然保護に関わり続けた人が講師として講演を行った。
(学生記者 中野由優季=法学部1年)