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トップ>Hakumonちゅうおう【2009年秋季特別号】>【竜楽のおじゃまします!】格差社会の歩き方―得意分野を作ろう―

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竜楽のおじゃまします!

格差社会の歩き方
―得意分野を作ろう―

三遊亭竜楽 落語家三遊亭竜楽 落語家
さんゆうてい・りゅうらく 1982年中央大学法学部卒。85年三遊亭円楽に入門、93年真打昇進。日本放送作家協会会員。中央大学では、学員講師として各地で講演を行う。朝日新聞夕刊で「らくごよみ」連載中。
山田昌弘 教授山田昌弘 教授
やまだ・まさひろ 1957年東京都生まれ。86年東京大学大学院社会学研究科博士課程終了。東京学芸大学教育学部教授を経て2008年度から中央大学文学部社会学専攻教授。専門は家族社会学。パラサイトシングル、格差社会、婚活の名付け親でもある。

竜楽 本日のゲストは山田昌弘先生です。肩書きは家族社会学者ということでよろしいでしょうか。今、テレビでも大活躍ですし、「格差社会」という言葉で流行語大賞もお取りになられました。落語にも「家族」がテーマの噺が多いものですから、そんなことを結び付けて。

山田 そうですね、私も好きな噺は多いです。

竜楽 初めに今の学問とのご縁のようなこと、大学に入られてから今に至るまでをお伺いしたいと思います。

山田 いつの間にか社会学の中で、家族に関する「家族社会学」というものをやり始めました。私が大学に入った76年ぐらいは家族は安定していて、あまり人気がなかったのですが、80年代、90年代と段々と。こんなことを言うのも何ですが、社会問題が起きると需要が増えて、安定しているとお呼びがかからないのです。

竜楽 今はあまりいい状況ではないということですか。

山田 そうですね。つまり私が大学に入った頃は、みんな25歳ぐらいまでに結婚していて、離婚も少なくて、すごく安定していたのです。私が研究し始めてから結婚したくてもできない人が増え、最近はまた格差が広がり。だから私が活躍しないほうが、私の出番がないほうが、社会は安定して平和なんです(笑)。社会学というのは、何か社会に出てきた新たな問題を見つけ出して研究するところがあって、たまたま家族を専攻していたら家族に関していろいろな問題が起き始めたので、それを解釈する人が必要になってきた感じです。私は早く引退して、落語を聴いて暮らしたいです。

竜楽 いや、いや。

山田 いえ、本当に(笑)。

落語家は昔から婚活!?

竜楽 婚活ということで、先生の本も拝読させていただきました。そういう点で言うと、落語家もずっと婚活なんですね。つまり安定した処遇ではなくて、先に何があるかわからない。ポツンと地方から出てきて、基盤もなく暮らしている人が多いものですからね。そのうえ男性社会ですから、先に行けば行くほど選択肢が狭まっていく状況があるのです。先生の本にも、営業活動のしゃべりと恋愛のしゃべりとは違うというようなものがありましたが、しゃべりが商売なのに意外にふだんは無口な人が多い。

山田 今の大学院の状況も、専門職であればあるほどそうなっています。大学の先生になれる人は博士を取った人の3分の1です。3分の2は定職に就けずに一生を終わる状況になってきたので。落語家的な状況が、あらゆる若者に広がってきてしまったのが今の状況なんです。

竜楽 私が卒業した頃は、4人に1人は課長にはなれるという感じでしたね。

山田 そうですね。大卒だったら、ほぼすべての人がなれたという時代ではないでしょうか。つまり、ここ15年ぐらいの間に、安定した社会から不安定な社会に変わってしまった。

竜楽 婚活の話にかけて申し上げますと、落語の場合だと必ず大家さんが世話をしたり、間に入って口をきく人が登場します。

山田 この前、聴いたのですが、借金を返すために妊娠した女性をもらう噺、何でしたっけ。

竜楽 『持参金』ですね。実際にあんなこともあったんでしょうね(笑)。

山田 あっさりと、借金を返せるなら誰でもいいやと。昭和30年ぐらいまではそういう状況だったんですよね。

 とにかく生活できればいいやと結婚してたのが、状況が少し変わってきましたね。

竜楽 それだけ選択肢が増える、自由ということの不自由さというようなこともあるのでしょうか。

山田 昔は制約があって不自由だったから、恋愛に燃えたという点はあったでしょうね。今は逆に自由すぎてしまって、どれが本当の恋愛かわからなくなったり、こっちが好きだと、あっちが好きじゃなかったりとか、いろいろ出てきましたので。

竜楽 携帯電話が普及すると、今、別れた人とすぐ話ができるという状況ですよね。前は別れたら、いつ会えるかわからないとか、電話をかけて親が出たらどうしようということもありましたけど。

山田 そうなんですね。電話でコミュニケーションをする前に、相手の状況はどうだということを考えなければいけなかったのですが、今は考える必要もない。少し前に学生に「携帯電話がなかったとき、どうやって待ち合わせてたんですか」と聞かれたのです。今は待ち合わせで待つという体験自体がなくなってしまったのです。携帯電話で連絡し合えば、遅れるにしても「何分後に着くよ」と入るので。昔は本当に来るのか、来ないのかとか、ドキドキしながら待っていました。失われたものも多いですね。

竜楽 携帯でいちばん恩恵を被っているのは我々の業界なのです。つまり、寄席というのは、誰かが出ているときに次の演者が来ていないことがあるんです。その時は、座布団に座るとすぐ羽織を脱いでポーンと舞台そでの出入口に放ります。次の演者が楽屋入りすると、戸をそっと開けて羽織を持って行く。それを見て、「あ、次が来たな」ということで安心してストーリーに入るのです。

 ところが今は「3分後に着くよ」というのがすぐ楽屋に入りますから、前座が非常に楽なのです。何分延ばせばいいとか。

山田 なるほど、あらかじめわかるわけですね。

竜楽 私も1回ありましたが、次がいなくて延々しゃべり続けなければならないという辛さといったら(笑)。

 先生もご記憶だと思いますが、『呼び出し電話』という落語がありました。うちに電話がなくて隣の家で借りるという。

山田 それは昭和30年ぐらいまでは十分ありましたね。

竜楽 そういうふうにいろいろな文明の機器が進歩してくると、人と人との触れ合いは弱くなってきますね。

山田 形態は変わっていますよね。

 私は弟子と一緒に単身赴任の研究をしているのですが、最近の単身赴任は全然、悲惨ではないんです。昔は電話するにも長距離でお金がかかったし、生活も不便だったからすごく悲惨な話とか、単身赴任は日本の企業の悪い風習だとか言われましたが、単身赴任を調査すると、「単身赴任をしたおかげで夫婦仲がよくなった」「単身赴任をしているほうが夫婦間のコミュニケーションが取れた」とか。単身赴任をしていないときは、夜帰ってもほとんどしゃべらずにいたけれども、単身赴任をしたら連絡を取ったついでに日常の細々としたことも話すようになって、むしろ仲よくなったとか。

本当の豊かさとは?

竜楽 そういう状況になっているんですか。

 家族というものが、戦後から今に至るまで、決定的に変わってきたのはいつぐらいですか。

山田 やはりここ15年ぐらいですか。結局、結婚できない人が増えたことが大きいわけです。とにかく昔は、生活が豊かになることが家族の喜びだったわけです。昭和30年代にはテレビが手に入り、みんなで出かけるファミリーカーが手に入る。そうやって家族の生活が豊かになることによって、家族がまとまっていた時代があったのです。

 それが1980年ぐらいから崩れ始めるのです。豊かになり、家族で買うものがもうなくなってしまった人たちがいることが一つ。あとはコストが高くなり、経済的にやっていけない人が出てきて、結婚ができなくなるというのが一つですよね。

竜楽 昔のほうが豊かなんですか。

山田 人間の豊かさというのは、正確に言えば昨日と今日、今日と明日の差で計るのです。昭和30年代、40年代というのは、昨日より今日が豊かで、今日より明日が豊かになると決まっていましたから、そういう意味で豊かでした。今は物質的には豊かですけれども。子どもに「昔はケーキなんて誕生日しか食べられなかったんだよ」と言っても「えっ?」という顔をしていますよね。あるのが当たり前になってしまうと、プラス・アルファによって豊かさを感じることが難しくなるわけです。

竜楽 落語の『だくだく』という噺が面白いですね。何もなくなった男が、絵のうまい人を呼んで部屋の中に絵を描いてもらって、そのものがあるつもりで生活しようという。

山田 思い出しました。泥棒が入ってきてというやつですね(笑)。覚えてます、その噺。

竜楽 泥棒も見たら紙に描いてあって盗めない。「何だ、あるつもりで生きてるのか。じゃあ、おれもそのつもりでやってやろう」というのでこう盗んで。

山田 盗んだつもり(笑)。

竜楽 槍があって、槍でプスッと突いたつもり、こっちも突かれたつもり、えぐったつもり、だくだくと血が出たつもりというオチですよね。

山田 私、好きです、あれ。

竜楽 あれなんか本当に何もなくても、気持ち一つで豊かになれるという噺ですよね。

山田 最初はつもりであっても、いつかは手に入れるということであれば希望ではないですか。逆に、今あるものがなくなるかもしれないと思うと、いくら今あっても豊かな気持ちでなくなるということですね。今の状況がそうで、30、40年前には考えられなかったような豊かな生活をしているのですが、将来続かないかもしれないと思えば不安になります。

竜楽 日々実感できることが大事だということですか。ステップアップしているという。

山田 昔はそれがうまくいっていたということですね。今、新しい本(『幸せの方程式』)を書いているのですが、そのテーマもそれなんです。昔は家族の中で、ものが増えていくことに喜びを見いだしていたけれども、それが限界に来ているので、別の形の喜びを見つけなければいけない。ものは普通にあれば、落語にはまる人は毎日落語を聴けるのが幸せだとか、「そういう方向にだんだん変わっていかなければいけないよ」みたいな話もありますね。

家族関係にも格差

竜楽 家族間のコミュニケーションはどうですか。

山田 昔に比べて、家族間のコミュニケーションは思ったよりも増えているんです。庶民の落語ではけっこうコミュニケーションしていますけれども、例えば小津安二郎の映画などを見ていると、黙ってみんなで食べていて、家族間の会話なんてほとんどないんです。最近は格差が出てきましたね。すごく仲よくいっぱいしゃべっている家族もあれば、あまりそうではない家族もある。仲のいい家族はコミュニケーションが取れて、ますます仲がいいんですけれども、逆に「嫌だ」というのも増えています。いろいろなところで「新平等社会の二極化」と言っていますけれど、格差拡大が起きていますよね。

竜楽 親に依存しているわけでもないんですか。

山田 私は「パラサイト・シングル」という言葉をつくったのですが、やはり依存はしていますよね。精神的依存というわけではないので、昔に比べて悪くなっているわけではないですね。むしろ私よりも上の全共闘世代のほうが、親子で価値観がすごく対立していましたよね。

竜楽 それは健全なところもあるんじゃないですか。

山田 逆にそうで、親に反発して新しい社会を作ろうとか、自立しようというエネルギーになったんですが、今は変に仲がいいので、まあ、自立しなくてもいいんじゃないかみたいな感じになっていますね。

竜楽 私も親が望まない展開になった最たる者ですが(笑)、子どもが親の思うとおりになっているということは、あまりいい状況ではないですよね。極端な例はともかくとしまして。

山田 社会的にもそうだし、子どもの将来を考えると私もそうは思うのですが、反発して、対立すればいいというものではないですが、日本の社会はなかなか自立というものに価値を置かないので。

竜楽 昔からそうなんですか。

山田 昔は家の跡を継いで、お父さんの職業を継ぐという感じだったわけですけれども。戦後から高度成長期にかけては一人暮らしが多かったのですが、今は未婚の8割は親と同居していますし、子どもの数も少なくなりましたから。昔は4人いたのが今は2人ですから、親と仲よくなる確率は増えますよね。

安定・安全志向の若者達

竜楽 今の学生さんを見て、先生もその中で教えてこられて、やはりここ10年くらいですか。

山田 20年前と比べれば、ここ10年ぐらいで相当変わってきました。

竜楽 親と仲がいいというのはちょっと意外でしたね。

山田 昔から日本は娘と母親は仲がよかったのですが、最近は息子と母親も仲がいいみたいで。

竜楽 すべてが「格差」となってしまうと今後どうしていくかというのは、国の力も必要になってきますね。

山田 アメリカでは、国は何もしてないのですけれども、20歳くらいになれば親も放り出すわけです。だからとにかく自分で何とかしなければいけないという意識がすごく強いわけで、若い人は必死になるのです。

 日本社会だと、お金に余裕のある家の子どもは安心してしまい、お金に余裕がないところの子どもはあきらめてしまう傾向があります。日本のような状況だと国がいろいろな形で下支えをしたり、自立を促したりしなければ難しいと思います。アメリカのように厳しくて、一生懸命仕事をしなければ生き残れないのがいいかどうかはともかくとして、日本の若者はのんびりして安定・安全志向という感じですね。

竜楽 税の問題にしても累進課税みたいなものをもっと推し進めるとか、そういう手当が必要だと先生のご意見の中にもありましたね。

山田 実を言うと、日本というのはあまり金持ちがいない国なのです。累進課税は必要だと思いますが、累進課税の分だとあまり影響しないのです。イチローを見ればわかりますが、アメリカだと年収10億円、100億円がいっぱいいます。日本は宣伝されたほどには、それほどいないのです。

竜楽 アメリカは数パーセントが富の大半を握っているというのがありますね。

山田 ええ、すごい国ですから。日本は格差拡大と言って、拡大しているのは下に落ちていっている人ばかりという悲しい状況があって。だから、中ぐらいの人が貧しい人を支える。特にお年寄りがいっぱいお金を持っているのに、不安だから抱え込んでしまっている。だから「オレオレ詐欺」に引っかかってしまうわけです。

竜楽 10年たつとかなりの割合の人がお亡くなりになりますが、どうなりますか。

山田 そこでパラサイトをしていた独身の人たちが、ちょっと大変になってくると思っています。35歳から44歳までで親と同居している独身の人が今、260万人以上います。1割がニートで、1割がフリーターなんです。たぶん親の年金に依存して生活している中年の人が、50万人から60万人はいるのです。親が亡くなったときは、その人たちは放り出されてしまう。

女性の婚活は宝くじ??

竜楽 そのぐらいになっていると、その人たちはほとんど結婚しないんですか。

山田 しないですね。しないというか、相手がいないので。男性の場合は収入が低いから、結婚しないで親元にいるわけです。調査に行くと40歳で結婚活動をしている人がいて、月収が8万円ぐらいだったものが、この不況で週休4日になって5万円ぐらいに減ると言うのです。「結婚できると思いますか」と聞いてしまった人がいて、「愛があれば、おれと一緒に苦労して親の面倒も全部見てくれるはずだ」と言って、愛を夢見ている人がいました。

 調査をして、30歳、40歳の女性のフリーターの人に「将来どうですか」と聞くと、「収入の高い人と結婚して専業主婦になりたい」と言うのです。待っていれば自分を好きになってくれる、収入が高くて、ハンサムで、優しくて、浮気しない人が現れると信じているんですよね(笑)。だから『「婚活」時代』にも書いてあるのですが、待っていれば自分に都合のいい人が自然と出てきて、うまくいくはずだと思いながら年を取っていくのです。

竜楽 全然、現実離れしているんですね。

山田 専業主夫の調査もやっていて、女性が働いて、男性が家事をするというものですが。落語家さんにもいませんか。

竜楽 現実的にそういう状況になっている人はおりますね。

山田 研究者もけっこういますけど。そういう男性はけっこう格好いいですよね。

竜楽 どうですかね。我々のほうは、そういう点でいうと、ものすごい格差ですから。

山田 その格差が今の若い人にも、同じような状況になっているんですよね。正社員になれた人と、派遣切りに遭っている人と、男性の格差がありますから。

竜楽 でも夢を見られるというのが我々の救いかもしれません。最後に一発当てるというわけのわからない夢を見られますから。

山田 落語家さんは、上がっていくので、わりと見えやすいではないですか。

竜楽 段階もありますけどね。

山田 30歳ぐらいのロックスター志望のフリーターの男性に、40歳になったらどうしているかと聞いたら、売れているか、死んでいるかと言われてしまいました。

竜楽 でも、落語家もステップアップで階級は上がっていきますけれども、収入は上がっていきませんから。

山田 でも、出るとランクによって出演料が。

竜楽 そうなんですが、そのランクになって、それだけの仕事ができなければ出演箇所が極端に減っていくわけです。

山田 なるほど。ランクがあがっても、お呼びがかからなくなる。

竜楽 逆にランクが邪魔になる場合だってあり得るわけです。昔は生涯前座という人がいたみたいですね。そうすると寄席から最低限の給金が出ますので。

 前座、二つ目、真打ちという階級がありますが、ご存じのように真打ちはトリを取るから真打ちです。その日の収入を寄席と四分六とか折半とかで分けて、トリの人がまず全部取る。そこから他の演者にその日の出演料を払います。たくさん呼べる人は、残りを全部もらえますが、呼べない人は持ち出しになってしまうので、真打ちになるとますます貧乏になる場合もあるんです。

山田 なるほど、もうけが少なくなるわけですね。

竜楽 ですから、私はずっと前座でいますというような60歳過ぎの前座とか。師匠の円楽が入った頃は、そういう人ががけっこういたらしいですね。

山田 逆に安定収入が常に見込める感じですね。

竜楽 そうです。増えてはいかないですけれども、副業みたいなことをやったりすればというようなことはあったみたいです。

山田 ただ、実力と市場価値で計られるではないですか。でもフリーターとか、そういう人が狙う一発逆転というのは、訓練の結果として成功があるのではなく、宝くじに似ているのです。特に女性の婚活は宝くじに似ていますね。どこかに行けば、キャリアウーマンを逆転できるに違いないという感じですよね。

竜楽 それはフリーターの人が多いですか。

山田 フリーターの女性はそうですね。フリーターの女性は高収入の人と出会って結婚すること以外に、自分の人生の逆転はないと思っていますので。

竜楽 フリーターであり続ける限りは。

山田 逆転はないですね。

竜楽 そういう点で言えば、どんな仕事でも熟練していけば上がっていくというか、何か大きなものがつかめるということではない社会に。

山田 そうなりつつありますね。正社員であれば会社も責任をもって、とりあえずステップは上がらせてくれますが、そうではない人が増えてしまいました。

竜楽 そんなことを言ってはあれですけれど、そういう人ばかりをインタビューをしていると大変ではないですか。まず聞くこと自体が困難だし、かなりストレスがたまるのでは……。

山田 それは社会学の基本というか、逆に言えばインタビューしやすい人にインタビューするのだったら、学問的価値はあまりないんです。だから、私は離婚経験者へのインタビュー調査をしたのですが、離婚されたほうは応じてくれなくて、もう二度とつらい経験を話したくないという感じで。自分から離婚したほうは、ぺらぺらよくしゃべってくれるのですが。離婚したほうの話でもつらい話がけっこう多いですが、なかなか離婚されたほうは……。

竜楽 人に話してもらうのは相当難しいと思いますね。

山田 十数年前に高齢者の夫婦関係の調査をやったのですが、結婚して40年、50年の70歳、80歳の人に聞くのです。高齢者はとにかく話したがって、私は夫婦関係のことを聞きたいのに関係ない自分のこととか(笑)。

竜楽 過去の歴史みたいなものですか。

山田 過去の歴史ならいいですが、今、私はどんなに病気で苦しんでいるのかみたいな話を延々と。聞きたいのはそんなことではないのに、でも話を折ってしまったら聞かせてくれないので何時間も付き合ったことがありました。この仕事をしているといろいろあります。

得意分野を作ろう!!

竜楽 今の学生さんのことと、もう一つは中央大学でやるべきことのお話を伺いたいと思います。中央大学に限らずに学生さんについて。

山田 安全・安定志向が本当に強まってきた感じがするので、何とか打破できないかと思うんですけどね。『南甲』という雑誌でもインタビューを受けてしゃべったのですが、新卒一括採用システムがある限り、安定志向は止まらないと思いますね。

竜楽 私たちのときでも、とにかく生保だとか何か言っていましたね。30年ぐらい前からそうですから、その状況は基本的には変わってないということですかね。

山田 変わっていないですが、20年前ぐらいのほうが、例えば、1年ぶらついていてもいいやとか、リスクを取ってベンチャーに行くとかという意識がまだあったと思います。最近は全く見えませんね。とにかく安定・安全が第一ですね。将来出世してやろうというのではなくて、とにかく生活費が一生稼ぎ出せるようなところにまず行く。あと、貯金が趣味という学生が現れましたよ。とにかくお金を使わないんです。師匠はだいたいバブルの頃ですよね。

竜楽 私は先生と同じぐらいですから、就職はわりとよかった頃です。

山田 私も大学に就職したぐらいのときは、一流ホテルで卒業パーティをやっていましたね。今から考えると、それは将来の心配がないから安心して、いろいろなことや消費に手を出せたと思うのです。

 今は将来が不安なので、とにかくお金を貯めておこう、そして安定したところに就職する。堅実ですけれども、面白みがないのです。ベンチャーに行って一旗揚げようという人がいれば、頑張れよと言うところなんですが。

竜楽 噺の世界でもそうで、入ることが目的、なることが目的で、あとはふわふわ生きていければいいみたいな。

山田 こんなことを言うのもあれですが、大学の研究者の世界もそうなってきています。私の頃は、どんなことを研究したいかということがまず問われた。就職はいずれできるものだと思っていたから、好き勝手なことを言って、偉い先生にも反発して。

 今の大学院生はおとなしくて、先生に言われたことしかやらないし、先生に逆らうと就職できないと思っていますから。就職するためには、どういう研究をしたらいいかということを聞いてくるわけです。それは本末転倒だろうと思うんですが、でも現実を考えると就職できない人が大半なので、好きなことをやっていたら就職できない。

就職できそうな研究をするというふうに変わってきていますね。

竜楽 逆転ですね。学問が好きということとは全然、別のところになっていますね。

山田 そうなんですよ。こんなことを言うのも何ですが、私、安泰なんですよ。私に反する学説とか、新しい説を提起する若手が減ってきているものですから、私が10年、20年、第一線でやっていられるのです。

竜楽 例えば答案などを見てもそうですか。

山田 まあ、無難ですね。

竜楽 今はどこの大学の個性ということもないと思いますけれども、中央大学はちょっと違うというところはありますか。

山田 こんなことを言うのも何ですが、普通ですね(笑)。バンカラでもなく、何か危ないことに手を出すわけでもなく、羽目を外すこともなく。といって、すごくファッショナブルでおしゃれというわけでもなく、地味でもなく。カラーがないのがカラーなのかよくわからないのですが、普通でまじめで先生としてはすごくいいですね。

竜楽 やりやすいですか。

山田 教えやすいし、言われたことはちゃんとやってくるし。

竜楽 もともとまじめで、どちらかというと堅くて、どちらかというと実学派の人たちが多い。

山田 そうでしょうね、資格に興味があって。

竜楽 中央大学は非常に芸人が少なくて、中央大学を出た落語家は、私が入るまで1人しかいませんでした。私のあとも15年ぐらいいなかったのです。6、7年前に中央大学の落研出身の人が初めて入って、もう1人入ったぐらいです。あと三平君がいますが、ちょっと別枠ですから。

山田 新三平。

竜楽 中央大学なんです。皆さん堅実で、まじめな人が多いですね。

山田 平均的に見れば、そんな感じがしましたね。

竜楽 先生のご本でも、ただワードとかツールを知っているだけでは、本当に自分を発揮できる仕事に就けないという話がありました。そうでない人を養成するためには。

山田 プラス・アルファの能力が必要になってきたのですが、それをどうやって身に付けさせるかというノウハウはあまりないので。とにかく得意分野とか、誇れるものをつくれとは言っています。はまるものというのですか、落語にはまっても構わないわけですし。

竜楽 はまること自体が少ないということですかね。

山田 今の学生を見ているとそんな感じですね。

竜楽 ある時期、何かに夢中になって全然、勉強しなかったりということは少ないんですかね。もともとそういうエネルギーがないはずはないと思うんです。何となく押さえつけられて、出さないようにしているのでしょうか。

山田 それは中央大学だけの問題ではなくて、日本社会全体が将来に対する不安というものに覆われてしまっています。特にここ1、2年はそうです。不安を解消するためにこつこつまじめにやって、安定した道を探し求めるしかないということになっているのが、日本社会の不幸ではないかと思います。

 この前、テレビの取材に同行してオランダに行ったのですが、失業者もあっけらかんとしているのです。オランダは新卒一括採用ではないので、ある失業した人にインタビューしたら、大学を出て1年間は世界を放浪してきたと言うのです。オランダでは、それは異様なことではなくて、帰ってきて5年間働いて、クビにされたけれども、また見つかるだろうという感じでした。前向きというか、いろいろなことにチャレンジしながら、30歳ぐらいまでに将来の職を決めればいいというような話をするわけです。今、そういう社会のほうが強みを発揮している気がしますね。

 昔、企業社会の時代は新卒一括採用で会社に入ってしまえば、こつこつ順番に上がっていくということでよかったと思うのですが、これからは新しいアイデアやコミュニケーション能力や、まさに美的センスみたいなものが必要になってきているのに、なかなかそれにチャレンジしようとする人がいないのは、若いうちにそれを評価する大人社会がないということだと思います。

 落語が好きでこの世界に入って、数年してまた会社に戻っていくということがあってもいいと思うのです。私ももっと若ければ師匠に入門して(笑)。

竜楽 いえいえ、そんな。

山田 若くなくてもいいんですけれども。私も落語を見ながら、講演でこういうふうに笑わせればいいなとか、多少は考えながら楽しんで見ています。

竜楽 ありがとうございます。

山田 竜楽さんの噺も参考にさせていただきます。

竜楽 家族が崩壊している、例えばイタリアは家族や地縁で結ばれていて、そこがかなり守ってくれるから格差が気にならないということがあったように思ったのですが。

山田 日本も近いところがありますが、あまり活性化した社会ではないですね。安心はできるのだけれども、活性化はしないという感じがしますね。アメリカや北欧、イギリスでは、とにかく新しいことをやっていかないと生き残れないという圧力がかかる。かかりすぎてしまっている社会ということですね。

竜楽 それは、多少は必要でもあるということですか。

山田 そうですね、日本は今、安心が失われかけているので。安心もなければ活性化する気配もなく、活性化した人に対する評価システムもあまりできていない。となると学生たちは残り少ない安心に殺到している感じなので、今の若い人を見ていると、こういう社会状況ではかわいそうだと思います。

竜楽 最後に大学ができることということでまとめたいと思います。

山田 個々の先生方がいろいろな意味で自覚して、学生の新しい能力を引き出してあげることが必要だと思います。これも婚活と一緒ですが、今までは放っておいても就職できたから、放っておいても自分でリスクを取って、いろいろはまるものを見つけ出してくれていたのですが、今度は大学なり先生がもう少し個々人を丁寧に見ながら、眠っている能力を引き出す努力をしていかなければいけないと思いますね。とにかく私は一人ひとりの先生が、ただ単に授業をするというのではなく、個々の学生を見ながら能力を引き出すということをしなければいけないと思っているんです。

竜楽 これは大学のPR誌でもあるので、大学のいいところがもしございましたら。

山田 なぜ中央大学を選んだかと聞かれたら、半分冗談ですが、トイレがきれいだった(笑)。国立大学は予算がないので、トイレにまで回せなくてあまりきれいではないのです。快適な環境が整っているという意味では、私はいいと思います。

 あと私は、眺めのいいところが好きなんです。外を見ると緑が多くて、ごちゃごちゃしていなくていいんですよね。勉強し、研究する環境としては、すごくいいところだと思いますね。

竜楽 ありがとうございます。トイレの話できれいにまとめていただきました(笑)。

対談を終えて

 時代の最先端を行く山田先生との対談。内容の素晴らしさはもちろん、語り口の上手さに感服いたしました。

 昨今の結婚事情は修行中の落語家にとって別の意味で深刻です。披露宴の司会という大事な収入源が断たれてしまいますから……。

 久しぶりに仕事が入った若手噺家。とどこおりなく進行役を務め、無事ウェディングケーキ入刀を迎えます。最大の山場に一段と声を張り――。

 「緊張するのも無理はございません。お二人とも初めての!」

 と盛り上げたところで、ご両人ともバツイチという周知の事実に気がつきました。

 「初めての!……再婚でございます」

 再チャレンジは若さの特権。婚活も就活も失敗を恐れず大胆に挑戦しましょう。