トップ>Hakumonちゅうおう【2009年秋季特別号】>【学生記者の多摩ぶらり散歩】聖蹟桜ヶ丘
中央大学の周辺には、さまざまな史跡をはじめ、豊かな自然やお楽しみスポットが数多くある。でも、意外と気づいていなかったり、知っていてもなかなか行くチャンスがなくて、いつも素通りという人が多いのではないだろうか。そこで学生記者がお薦めスポットを紹介する。題して『学生記者の多摩ぶらり散歩』。はたして、何やら新発見がありますでしょうか―。
中央にサクラの植え込みがあるロータリー
京王線・聖蹟桜ヶ丘駅―。駅周辺に桜の名所が多いことからくる地名の「桜ケ丘」と、明治天皇のお狩り場があったことからくる「聖跡」が合わさってできたとされるこの駅名。なんともロマンチックな響きを感じる。駅周辺には、ショッピングビルやオフィスビル、マンションが立ち並び、少し歩くと緑豊かな公園や丘陵もある。近代的な住宅・商業地と自然とが一体となった洗練された街並みが広がっている。
駅の住所地は多摩市関戸だが、この地名より「聖蹟桜ヶ丘」という名で、この街を知っている人が多いのではないだろうか。
耳をすませばモデル地案内マップ
街は、美しい景観から、TVドラマや映画のロケ地にもなっている。なかでも、その名を一躍有名にしたのが、1995年に公開され、大ヒットを記録したスタジオジブリ製作のアニメ映画『耳をすませば』だ。 映画は、中学3年生の女の子、「月島雫」が、同級生との恋や、自らの将来について悩みながらも成長していく姿を描いた物語。聖蹟桜ヶ丘はその舞台となっているのである。大のジブリファンでもある記者は、夏休みの1日、映画の世界を体感しようと、『耳をすませば』の街、聖蹟桜ヶ丘を訪れた。 映画にも登場した駅のホームに降り立つと、早くも物語の中にいるような気持ちになってくる。買い物客で賑わう駅構内を抜け、西口横にある広場へ来てみると、ロボットのような形をした建物があった。多摩中央警察署桜ヶ丘駅前交番だ。その印象的な外観から広場のシンボルにもなっている。
交番横に、お目当ての「耳をすませばモデル地案内マップ」を発見した。案内板には、駅から、街外れにある丘までの道が、映画のモデルとなった場所とともに紹介されている。このルートは、劇中、雫が猫を追い駆け、アンティークショップ『地球屋』まで行く道筋と重なっており、映画のモデル地を散策するにはうってつけのコースだ。記者も案内板に従い、街を歩いてみることにした。
急なカーブが続くいろは坂
広場の前の大きな交差点が、第1の「耳すま」スポット。映画の中に、雫が交差点で信号を待つ間に、猫を見失ってしまうシーンがある。それがこの交差点だ。なるほど、交通量も多く、猫を見失うのもうなずける。
交差点を渡り、雫が図書館へと向かうシーンに登場する「さくら通り」を抜けると、橋が見えてきた。橋を渡ると「いろは坂」だ。散策コースは、ここから小高い丘陵地へ入って行く。「いろは坂」は、急なカーブが続く坂道で、周囲に樹木が生い茂り、緑が多く残っている。歩いていると、心持ち暑さも和らいでくるようだ。よく映画のファンが、地図を見たり、携帯電話で周りの風景を写したりしながら、坂を登る姿が見られる。この日も、2,3人のファンと出会った。
街を見下ろす素敵なロケーションを楽しみながら坂を登っていくと、「いろは坂桜公園」があった。映画ではこの場所に図書館がある設定になっているが、実際にはない。フェンスに遮られ、少し見通しは悪いものの、市街地が一望できる。坂を登り疲れた記者も、ここでひと休み。街の眺めに疲れを癒した。
「さくら通り」といい、「いろは坂桜公園」といい、駅周辺には、その名の通り、「サクラ」と名がつく場所が数多くある。通りや公園など、街の様々な場所に桜の木が植えられており、春先には桜の花で彩られる。
公園を後にして、さらに坂道を登っていくと、次第に路肩の木々が繁くなり、昼間だというのに、だんだんと辺りが薄暗くなってきた。道がつづら折りになっているところまで来ると、曲がりくねった道を縦につなぐように、路傍の崖に、手摺のある急な階段があった。この階段にも見覚えがある。『地球屋』からの帰りに、「いいとこ見つけちゃった」と、雫が嬉しそうに階段を駆け降りるシーンがある。まさにその階段にそっくりなのだ。
林の中にある小さなお堂
映画の中では、階段から街が見渡せるのだが、この階段からは、樹木に遮られて街はほとんど見えなかった。モデル地は、あくまで映画のモデルとなった場所である。映画の風景そのままではない。
階段を登り切ると、左手の林の中に、小さな鳥居が見えた。テニスコートほどの広さの境内に、小さなお堂が一つ。雫が、同じクラスの男子から告白を受ける神社である。映画の中に登場する神社とほとんど同じだ。辺りの静けさとも相まって、小さいながらも神聖な雰囲気が感じられる。
洋菓子店「ノア」
丘の上の住宅地をしばらく歩くと、見えてきたのは、「桜ヶ丘ロータリー」だ。劇中、『地球屋』があるロータリーのモデルとなっている。ファンならずとも、雫と聖司(雫の同級生)が語り合い、素敵な猫の置物や心優しい老主人が登場する、この『地球屋』のシーンは記憶にあるのではないか。
実際には『地球屋』という店は存在しないが、中央に桜の植え込みのあるロータリーを眺めていると、本当に物語の住人になったような気がしてくる。
散策の最後に、ロータリー近くにある、洋菓子店「ノア」に立ち寄った。「耳すま」ファンが多く訪れることで有名なこのお店。店内には映画のモデル地の写真がたくさん飾られ、BGMには映画の主題歌『カントリーロード』が流れていた。
店長さんの話では、今でも、全国から、1日に10組程のファンが店を訪れるという。映画が公開されてから約15年、その魅力は未だ色あせていない。
「耳すま」ノート
店には、訪れたファンがメッセージを書き込む「耳すま思い出ノート」があり、ファンの想いが綴られている。05年に始まったノートも今では21冊目。店頭にある、味わい深い木のテーブルに腰をかけ、映画に因んだお菓子、『耳すまロータリークッキー』を食べながら、記者も1日の旅の想いでをノートに書き込む。
帰ろうとすると、「耳すま」ファンだという若いカップルが店に入ってきた。本当にファンの訪れが絶えない。きょう1日、映画の世界に浸ることができて、大いに満足した記者は、二人の邪魔をしないようにと、そっと店を後にした。
来るたびに新しい発見と素敵な出会いがある聖蹟桜ヶ丘。今回は映画のモデル地を巡る散策だったが、もちろん、それ以外にも楽しめる場所はたくさんある。「耳すま」が好きな人も、そうでない人も、ぜひ一度、この街を訪れてみてはいかがだろうか。
学生記者 廣瀬功一(文学部2年)