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トップ>Hakumonちゅうおう【2009年秋季特別号】>【創立125周年に向けて】初の附属中学校が来年4月、開校中央大学の基幹学生の育成目指す

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創立125周年に向けて

初の附属中学校が来年4月、開校中央大学の基幹学生の育成目指す

附属中学校設立準備室長・附属高等学校長 三枝幸雄 法学部教授に聞く

 中央大学は創立125周年を迎える来年4月、初の附属中学校を開校する。中大附属高等学校(東京・小金井市)に併設される附属中学は、6年間の中高一貫教育で「中央大学の基幹学生の育成」を目指す。附属中学では、どのような教育が行われるのか―。附属高校長で附属中学設立準備室長の三枝幸雄・法学部教授に聞いた。(聞き手:編集長 伊藤博)

―― 中央大学附属中学校の来年(2010年)4月開校に向けた準備状況はいかがですか。

三枝幸雄校長

三枝幸雄校長

三枝 9月11日に東京都の私学審議会の代表の方々が来校され、中学校校舎や設備などを視察されました。それを受けて9月17日開催の私学審議会において、東京都に対して、附属中学校の設置認可を適当と認める旨の答申が出されました。予定どおり2010年4月に開校となります。

来年2月1日、4日に入試

―― 開校までに残された課題はなんですか。

三枝 来年の2月1日と4日に入試(国語、算数、理科、社会の4科目)を実施することが決まりました。これからは、中学校に関心を持って下さる皆さんに、カリキュラム、学校行事、クラブ活動、入試等に関する詳しい情報を提供していくということが大きな仕事です。

―― 附属中学校への受験生と保護者の方々の関心は高いですね。

三枝 学校説明会は5月から始まって、11月まで計6回行いますが、1回目は約1300人、2回目は600人ぐらい。3回目は800人を少し超える来場者数でした。私たちが予想していた以上の多くの反響をいただいています。

 それと、いろいろな塾に教員を派遣して説明会をしています。規模の大きな塾だと他の多くの学校の説明会と兼ねて合同で行うんですけれども、私たちの中学校のブースにはとても長い列ができるという報告を受けています。ありがたいことだと思っています。

―― 中央大学は附属高校が3校ありますが、附属中学校は初めてです。附属中学を開校する狙い、目的は何ですか。

三枝 ご存知のとおり、少子化の傾向を背景に、一貫教育に対する関心が高まっています。中央大学にとっても、早い段階から優秀な生徒を受け入れ、中・高・大の一貫教育によっていい人材を育て、社会に輩出することが急務になったということです。

 また、来年に創立125周年を迎える中央大学は、教育・研究の水準を高めるためのキャンパス整備や教育改革に取り組み、次の時代に十分プレゼンスを示せる大学に生まれ変わろうとしています。そういう中で、創立125周年記念事業の一環として附属中学校を開設し、大学の基幹学生を育成するための初めての中高一貫教育を開始するという決断をしたのだと思います。

 3つ附属高があるのに、どうして小金井の中大附属に附属中が併設されるのかということですが、附属高の隣接地に約1万㎡という大きな土地を取得することが可能になり、より優れた環境の中で、中高一貫教育を展開する条件が整ったということです。

附属中学の外観

附属中学の外観

生活上の基本的ルール学ぶ

―― 附属中学の校風は。

三枝 基本的には中央大学の校風(「質実剛健」、「家族的情味」)が前提です。附属3高校の中大高校、中大杉並、それに小金井の中大附属は、中大の基幹学生を育成するという共通の目標を掲げていますが、アプローチは各校で異なり、それぞれの高校がその伝統を踏まえ努力してきたと思います。

 中大附属の場合は「自主・自治・自律」を教育方針にしています。自分で考えて、自分で判断して、それが社会の中で容認されるのか、応援してもらえるのかということを考えた上で、行動しなさいと教えています。それが将来に渡って、自分が身を処していく基本的な能力の育成につながるという考えです。

 それから時々ご批判を受けることもあるのですけれども、中附には制服がありません。他の附属2校にはなかなかスマートな制服があります。中附は、生徒が自分で考えて決められる範囲であれば、昔からの伝統の「自由な校風」の中で自分の判断で、中附生に相応しい振る舞いをするという形でやっています。

―― そうしますと、小金井の附属高校に併設される附属中学も「自由な校風」ということでしょうか。

三枝 原則的にはそのとおりです。しかし、常識的に考えて小学校6年生を終えたばかりの子供が、自分の頭で考えて、自分で判断するといっても、判断する基準となる世の中の仕組みなどについて、それほど知っているわけではありません。

 だから中学では、社会の仕組みや生活上のルールをしっかりと学ぶ必要があると考えました。制服導入については、実際には、先生方の間にいろいろな意見がありましたが、最終的に中学は制服の方がいいだろうという判断をしました。

コーディネイトできる制服

―― どんな制服ですか?

中附スタイルの制服

中附スタイルの制服

三枝 制服はあるけれども、自分でよく考えて、自分に合った服装をしなさいということで、コーディネイトできる制服ということにしました。

―― パンフレットには校訓として「明るく、強く、正しく」とあります。

三枝 それは中学、高校に共通です。基本的には、教育目標とか理念も附属高校と同じです。ただ、中学では服装や学校生活、あるいは勉強についても、何でも自分で考えて決めていいということではなくて、中学は中学なりの教え方があるわけです。

 中附の高校生として、然るべき学業生活を送るために必要なルールやマナーは、中学でしっかり教えるということです。高校では自由にのびのびと勉強して、そして勉強だけではなく、いろいろな活動を体験して中央大学に進学し、そこで持ち前の元気なところを活かして、社会の中核となる人材になってもらおうというわけです。

―― 中高一貫教育の良さは何だとお考えですか。

三枝 一番は、中高6年間、あるいは大学まで10年間一貫して学ぶことで、自分の学習スタイルが確立でき、それが思う存分に活かせるということだと思います。

 大学附属の中高一貫校の場合は、2種類あって、ほとんどの生徒がそのまま大学に進学する学校と、受験校として活路を見出している学校があります。私たちの場合は間違いなく最初のほうですので、基本的には、中央大学でぜひ学びたいという生徒さんが中学段階、高校段階で入ってきてくださるという前提でやっています。

「全科目主義」で自分探し

―― 高校受験、大学受験はなくなりますね。

三枝 そうですね。大学附属の一貫校の特徴はまず受験にとらわれることなく勉強できるということです。こういう言い方をすると、受験勉強をすごくネガティブなイメージでとらえているように思われるかも知れませんが、そうではありません。受験を経験することで競争することを覚えた、自分の目標を達成できたということは、その後の人生においてもとても大切な財産になりますから、受験勉強の意義を否定する気はありません。

 ただ、受験勉強にとらわれる必要がないからこそできる学習スタイルというものも、当然あるわけです。中附の場合には、それを「全科目主義」と呼んでいます。これは、受験は関係ないので、全科目についてきちっと取り組みましょう。その中から、将来自分の資質を活かせる、あるいは自分の興味や適性に合った道が見つかるはずだから、全教科・全科目について興味を持って勉強してみようというのが、「全科目主義」なんです。

―― そうすると、中高一貫の6年間を目線に置いて、目的を持たせるということが重要になってくるということですか。

三枝 そうですね。いろいろな科目を勉強することで知識を蓄え教養を高めると同時に、将来にわたって必要な、ものを学ぶ時の基本的な学習作法とでもいうべきものを身に付けてほしいと願っています。僕はアカデミックリテラシーという言葉を使っているんですが、それは専門的な勉強をするために必要な基本的な能力といった意味です。大学であれば、専門課程の勉強をするときに、自分で課題を設定して、その課題についてどんなことが問題になっているかを調べる能力がなければ、どうしようもないですよね。ただ手元にある本を読んで、その内容を鵜呑みにして論じているようではどうにもならないわけで、まずはリサーチ能力です。

 そしてリサーチして文献資料が集まっても、その文献資料を読む段階で、非常に独善的な読み方をしたのでは具合が悪い。たとえば、10まで知らなければいけないことでも、学生、生徒によっては、5まで知れば分かったという人もいるんです。あるいは、10まで知るべきものがあって9まで知っているのに、最後の一つで「いや、だめだ。自分は理解できていない」と悩み落ち込む人もいるんです。

一貫教育でアカデミックリテラシー

―― どちらがいいのでしょうか。

三枝 難しい質問ですね。一般的には多くを理解したほうがいいんでしょうが、9まで獲得しながら、いつもくよくよしているよりは、5か6しか分かっていなくても、それをもとに自分のアイデアをまとめていく方がいいということもあると思うんです。どちらがいいかは文献資料を読む目的によります。まあ、今お話ししている状況では、対象となる文献資料をできるだけ正確に読解する能力が必要ということです。

校舎の中庭

校舎の中庭

 ちょっと話が逸れましたが、集めた文献資料を過不足なく理解して、そして自分が蓄えた知識と照らし合わせて、自分はこの課題、この問題についてどう考えるかということをちゃんとまとめる。そして、それをレポートとか論文、あるいはプレゼンテーションという形で、他者に対して発表する能力を身に付ける。これがアカデミックリテラシーの基本なんです。

―― なるほど。

三枝 例えば、「アメリカの1950年代のメジャーリーガーでこういう選手がいるのでどのような選手だったか調べて報告しなさい」と課題を出すとします。今はパソコンでキーワード検索できますけど、ちょっと前までは、リサーチ能力のある学生は、図書館のどこのコーナーに行けば取っ掛かりがあるかということがすぐに分かったわけです。だから、そうした学生は半日あればレポートが出せるけれども、検索手順が身に付いていない人は、漠然と人に聞いたりして、聞く人を間違えたりしたら、2・3日かけても適切な情報が得られないこともあるでしょう。

 そういう作業をこなすための前提となる基本的なスキルは何かということが分かっているような学生を育てることが、我々の使命だと思います。そういう意味で、アカデミックリテラシーを、中学、高校、大学を通じて、無理なく徐々に獲得させていくことが大切です。それは一貫教育だとより効果的にできると思います。

中学では60冊の課題図書指定

―― 中高一貫教育のねらいは、アカデミックリテラシーということですか。

三枝 そうです。法曹になろうが、理工系に行こうが、ジャーナリストになろうが、すべてにおいて今言ったような基本的なスキル、アカデミックリテラシーは必要です。それを身に付けることが、さらに高度な能力の獲得につながっていくのだと思います。

 現在、附属高校では、3年間で100冊の課題図書を読んで、そして8000字の卒業論文を提出することを義務づけています。これは附属高校を卒業する要件です。中学でも同様に、60冊の課題図書を指定して読ませることにしています。適切な指導のもとでこうした課題をクリアしていくことで基本的なスキルが身に付いてくると思います。

―― 中学では、60冊の本を読んでもらう。

三枝 そうです。中学では自由な雰囲気の中でいろいろなことにチャレンジしてほしいと思っていますので、時間的にも60冊読むのは大変でしょうけれども、是非読書の楽しさを経験しながら、将来につながるような学習作法を身に付けて欲しいと思っています。

―― もう一つは、国際コミュニケーション能力を掲げていますね。

三枝 それも一つの柱にしたいと思ってやっています。いろいろな能力や可能性のある子供たちを預かるので、少なくとも国際的な舞台で自分の能力を活かして仕事する上で必要となる基本的な道具は備えてあげなければいけないと思うんです。

 私は英語教師ですので、今までの英語教育に対する批判は承知していますけれども、今までの英語教育でやってきたことが、まるで無駄などということはないわけです。ただ一定レベルの英語によるコミュニケーション能力が足りないということですから、今までの英語教育で欠けていたものを付加し、有機的につなげることによって、国際舞台で仕事する上で必要なコミュニケーション能力の基礎をきちっと身に付けさせたいということなんです。

国際コミュニケーション能力も

―― 具体的に英語の授業時間が多くなるのですか。

三枝 英語の時間は、他の時間数の多い学校と比べて同等、あるいは少し多いと思います。2・3年生では選択科目の時間を英語にあてるというような配慮をして英語の時間数を多く取っています。

 英語の授業の一番の特長は、通常の英語の授業と並行して「プロジェクト・イン・イングリッシュ」というプログラムを導入することです。1年生の段階からネイティブ・スピーカー担当の英語による授業を設置します。この授業では、たとえば附属中学について英語で紹介したり、あるいは、小金井で起こっている地域の問題とか、もう少し大きく、地球温暖化の問題とか、中学生が興味ありそうな話題を設定して、グループで調べたり発表したりします。

 2年生で習う表現、3年生で習う構文といったこととは関係なく、これは習っていないけれどもこう言うんだというように、どんどん自由に一つの問題について話せるような授業を行います。早い段階からネイティブ・スピーカーの授業を受けることで、英語を使う楽しさを体験させることもねらいのひとつです。

―― 数学では、習熟度別クラスを導入しますね。

三枝 はい。習熟度別クラスについては、高校では英語と数学について導入しています。附属中学では、英語は少人数教育で時間もかけてやるので、習熟度別にしなくても対応できる。ただ数学については、1、2年でつまずくと先の方で響くであろうということで、早い段階から進度に合わせてきめ細かく教えていくことにしました。

 進んでいる人はより伸ばそう。ちょっと遅れ気味の人は、完全に遅れることのないようにサポートしよう。それが習熟度別クラスです。

 理系についてですが、附属高校には実験室が6室あります。中学にもふたつあって、両方合わせて8つの立派な実験室があり、施設は整っています。私は、中学、高校の段階は、理系も文系も混在していて、互いに刺激し合う。それが学校の活力につながると思いますから、ぜひ理系が得意な人にも入学してもらい、伸び伸びと勉強してほしいと願っています。

環境測定など科学する心も養う

―― 「プロジェクト・イン・サイエンス」も言われていますが。

三枝 「プロジェクト・イン・サイエンス」というのは、科学する心を養ってもらおうと導入するプログラムです。新しい中学校の屋上にいろいろな気象データを数値で集められるような装置を設定してあるんですよ。風速とか雨量だけではなくて。

―― 気象観測ですか。

三枝 そうです。体育館の屋上に設置したグリーンテラスと呼ばれる屋上庭園に環境測定システムを設置し、そのデータをパソコンで集積して、分析できるようになっています。プロジェクト・イン・サイエンスでは、野外での自然観察や調査研究、わくわくするような実験を取り入れていきたいと思っています。これは3年生で導入するプログラムです。このプログラムをより効果的なものにするために、可能な限り中央大学の理工学部と連携し、理系に進む学生の学習環境を整えていきたいと考えています。

―― ひとクラスは30人の少人数制ですね。

三枝 どうしても知らなければいけない知識を伝授して、それを覚えさせるというのであれば、もっと人数が多くてもいい。その場合には真面目に聞いてくれれば人数が多くても差し支えないのですが、私たちが計画しているような、自分で実際に図書等の資料を検索したり、自分で考えて勉強を進めていくというときには、教師によるきめ細かな指導が必要です。

 ひとクラス30人が妥当かどうかは議論があると思いますけれども、私が中学生の頃は1クラス50人以上の編成が普通だったこともあって、30人は贅沢な学級編成だと思っています。フェイス・トゥ・フェイスの指導が十分可能な人数です。この少人数教育の特長を最大限に活かして、生徒の資質とか適性とか興味とかを、できるだけ具体的に把握して伸ばしていく。それが基本だということです。

附属高には蔵書14万冊の図書館

―― 附属高校の体育館や講堂などの施設は、附属中学も共有ですか。

三枝 いちおう中学生は中学の施設を使うという自己完結型にはなっています。中学専用のグラウンドもあります。プールと講堂は中高共用ですけれども、体育館は高校に二つ、中学に一つあります。ただクラブ活動は、可能であれば共通でやってほしいと思っています。

―― 図書館は?

1万冊の蔵書がある図書館

1万冊の蔵書がある図書館

三枝 附属高校の図書館の蔵書は、全部開架で14万冊あります。中学にも約1万冊の開架図書を備えた自前の図書館はありますけれども、検索システムは共通ですし、図書館の係員も附属中学校、高校と一体ですので、中学の生徒が高校の図書館を自由に使うことはもちろん可能です。

 それだけではなくて、附属高の図書館にはパソコンが80台あって、2クラスが同時に使えます。

―― 中学生からパソコンに触れさせる環境が整っていると。

コンピューター室

コンピューター室

三枝 それはもう本当にちょっと贅沢すぎるかなと思うぐらいのパソコンルームが中学にもありますので、中学の段階で情報の授業でしっかりとコンピューターリテラシーの基礎を身に付けさせます。

―― 話は変わりますが、中高大一貫ですので、全員が中央大学に進学できるわけですね。

三枝 そのとおりです。附属中学の生徒は特別な事情がない限り、全員が中央大学附属高校に入学する。これは大前提です。附属高校から中央大学には95%の推薦枠があります。ただその推薦枠を今、全部使っていないのが実情です。

 うちは他校の附属高とちょっと違って、中央大学以外の大学へ行く場合でも大いに支援しています。中大にない医学部・薬学部等の志望者も積極的に支援して、クラス編成も別にしたりしています。

 それと附属中学から附属高校へ150人全員が内部進学しますので、高校一年生350人の中あとの200人は外から入ってくる生徒となりますが、1年生の段階ではクラスを混ぜません。高校から入って来た生徒たちと中学からの内部進学の生徒たちを見て、習熟度の点で大きな差が認められれば、一年間で調整して、2年生で緩やかに文系と文理系に分ける。3年生の段階では、他大学を志望する文系と理系と、中央大学に行く文系と理系というように分かれます。
現状は、約9割が中央大学に進学、他大学進学が約1割となっています。

クラブ活動で人間力高める

―― クラブ活動は、できるだけ中高一緒にやって欲しいということでしたが。

生徒ラウンジ

生徒ラウンジ

三枝 中高一緒のクラブは別々の場合よりいろいろな面で大変かも知れませんが、その分生徒は様々な経験を積むことができるのではないでしょうか。

 私は、人生を生き、生活していくうえ上で必要な能力には、勉強に係る能力だけではなくて、今の大学生がちょっと弱いと言われているコミュニケーション能力があると思います。これを身につけるには、中学、高校段階の方がいい。

 中学、高校でクラブに入って、1年生のときは先輩に合わせるのが大変だったり、2年生では先輩と後輩の板挟みになったり、3年生になったら最上級生として部をまとめるのが大変だったりとかするでしょう。それで仲間と喧嘩をして挫折したり、泣いたりという体験をする。もちろん、仲間との楽しい経験も多いでしょう。そういう経験をしないで、勉強だけで大学に入って来ると、仲間がなかなかできなかったりする。

 少し前、新聞で「トイレ飯」という言葉を紹介する記事を読んで、僕はショックを受けました。仲間がいない。仲間がいないことを知られたくないために、トイレで昼食を食べるというのです。それにはいろいろな理由があるのでしょうが、少しでもそのような悲しい状況を減らすためにも、中学・高校段階で他者とのいろいろな付き合いを経験し、いわゆるコミュニケーション能力を磨く必要があると思います。若い時にもっといろいろな人とやりとりしなくては。

―― そうですね。

三枝 くり返しになりますが、クラブ活動で下のポジションにいるときに、先輩あるいは部長に自分の気持ちを伝える。上に立ったときには、こうしないとまとまらないぞ、という気持ちを伝える。そして伝わらないで、悩み苦しむ。あるいは、何とか伝わって、ホッとする。また、部員の予想外の団結に感激したりとか。そういう経験が勉強とともに大切だと思うのです。

 「知育」「徳育」「体育」と古い言葉を使っていますけれども、そのバランスはとても大切だと思っています。せっかく勉強しても、コミュニケーション能力が不足していれば、人間力が欠けていれば活かせないわけでしょう。そのことは、もっと重視されるべきだと思っています。

「食」を考えるスクールランチ

―― 本当にそうですね。ところで生活面ではスクールランチがあるそうですね。

三枝 スクールランチは、クラス全員で同じメニューの昼食を一緒に食べると、食育の観点からどういう経験ができるだろうかと考えました。基本的には担任の先生が、週に1回は必ずクラスの生徒と一緒にランチをする。それも昼休みにやるのではないんです。道徳の時間にやるんです。

―― ランチじゃないんですか?

ランチルーム

ランチルーム

三枝 スクールランチです。ランチタイムになる前に前倒しで道徳の時間を使ってスクールランチを行います。クラスの仲間と楽しく食事をとると同時に、健康、食文化、テーブルマナー、食糧問題といった食に係る様々なテーマを取り上げて食について考えてもらおうと思っています。今日のデザートのリンゴは青森と長野が産地として有名だが、それはどうしてなのかといったようなことも話題になるでしょう。ランチのメニューについては、日本の郷土料理や世界各国の料理など特色のあるものにする予定です。

大学と連携したキャリア教育

―― ところで大学との連携はお考えですか?

三枝 今、考えているのは、中央大学のロースクールと連携したキャリア教育です。といっても、附属中学から高校へ行く人たちみんなに法曹を目ざして欲しいとか、そんなことを思っているわけではありません。ただ、中央大学で勉強して、社会で活躍している人たちの一つの典型は、弁護士や裁判官、あるいは検察官になっている人たちです。

 そういう人たちに全面的に協力いただき、ロースクールにある横浜地裁のレプリカで模擬裁判を計画しています。生徒たちには、自分の資質を生かした進路を歩み、自分の適性に合った仕事をしている人たちはどんな人たちかということを、法曹を一つのモデルにして見てもらいたいということなんです。法曹だけでなく、将来はビジネススクールやアカウンティングスクールとも連携して、またその他の多くの先輩の皆様にも支援していただいてキャリア教育を行っていく考えです。

―― 仕事の現場をみて、皮膚感覚で学ぶということですか?

三枝 そうです。ただ勉強するだけではなくて、その過程でこれがああいう仕事につながるんだなということを何となく感じてくれればいい。自分の興味を突き詰めて、一つ一つ勉強して積み重ねていくということが大切だということを分かって欲しい。そういうことです。

―― 最後に、中大附属中学を目指す小学生たちへのメッセージと、こんな生徒に来てほしいということを聞かせてください。

三枝 そうですね。勉強はきちっとしなければいけないけれども、勉強だけできるという子供ではなくて、友達と一緒にクラブ活動もできるし、文化活動もできるし、グループの中でいろいろなやり取りをして楽しむこともできるような好奇心が旺盛で、何事にも積極的に取り組む意欲のある子供さんに来て欲しいです。ちょっと欲張りな注文ですけれども。

―― ありがとうございました。