特集

法曹界の「いま」―変化への挑戦 裁判官・検事・弁護士が語るリアル

「中央大学×大手町アカデミア」第3回

下山 久美子(しもやま くみこ)さん/東京地方裁判所 裁判官
中島 賢一(なかじま けんいち)さん/法務省刑事局 局付
西田 千尋(にしだ ちひろ)さん/丸紅株式会社法務部 弁護士・課長補佐

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 今回は、東京地方裁判所の裁判官である下山久美子氏、法務省刑事局局付の中島賢一氏、インハウスロイヤーとして総合商社、丸紅に勤務する西田千尋氏の3人が登壇しました。

 中央大学で法律を学び、司法試験を突破した3人ですが、現在はそれぞれ違った職種で活躍しています。しかし、3人ともI T化やグローバル化が求められる法曹界の変革を担う人材であることは共通しています。現代において法曹の仕事とはどういうものなのか、また、それぞれの職種の働き方の違いや、働き方の変化についてもお話いただきました。

「皆の役に立ちたい」、裁判官は理想的な職業

 裁判官として働く下山久美子さんは、裁判官というのは事件において手続きの主宰者であり、判断者であり、紛争解決の調整者であるといいます。裁判官の仕事は非常に多岐に渡り、法廷の外で仕事をすることも多いそうです。

 また、裁判官には幅広い知見が求められることから、平成16年度以降に任官した裁判官は、ほぼ全員が外部組織への出向を経験しています。下山さんも、中央労働委員会に出向しています。それだけでなく、研修や勉強会に参加し、常に成長していく必要があるといいます。

 裁判官というのは、非常に忙しく、責任の重い仕事ですが、下山さんは「想像以上に自由な世界」だと言います。誰かのために働くのではなく、皆のために役に立ちたいという下山さんにとって、自分の良心に従って判断をすることができる裁判官は、まさに理想的な職業でした。また、下山さんは育休や夫の海外勤務の帯同休暇を取得していますが、そうした制度が利用しやすいという利点もあるそうです。

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「正義感の強い少年」、検察目指す

 中島賢一さんは、検事としてほぼ2年おきに全国を転勤しています。その土地に馴染んだ頃に移動する生活ですが、いろいろな地域を知ることができる面白さもあると言います。

 小さい頃は警察官に憧れる正義感の強い少年でしたが、法律を武器に社会正義を実現したいと考えて、検事を目指したそうです。

 社会の変化に伴い、検察のあり方は大きく変化しています。犯罪が複雑化、国際化しており、検察もそれに対応していく必要があります。また、平成21年度から行われている裁判員裁判は、重大犯罪の刑事裁判で、一般国民が裁判官と対等に議論をして判決を下します。そのため、陳述や尋問は、誰にでもわかりやすく行わなければなりません。裁判のリハーサルを行うなど、検事の立証技術の向上を図っているそうです。

 刑事事件があった時、公判請求をするのか、略式起訴で済ませるのか、または不起訴や起訴猶予とするのか。非常に悩まされるケースもあると言います。だからこそ、様々な捜査を遂げて事案の真相を解明し、事案に即した適正な処分を行ったときにはやりがいを感じるそうです。

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「世界を相手に」、総合商社のインハウスロイヤー

 西田千尋さんは11年前、弁護士資格取得後、すぐに丸紅に入社しました。当時はインハウスロイヤーは数名しかいなかったそうですが、今では国内外の拠点に数十人の法曹資格保持者がいるそうです。

 学生時代にある企業のインターンシップに参加した際、人と協力しながらプロジェクトを進めることの楽しさに目覚めたという西田さんですが、同時に、何か武器を持たなければ、多様な才能を持つ同世代の人々の中で勝ち抜いていけないと感じたそうです。そこで司法試験を目指し、弁護士資格を取得しました。

 インハウスロイヤーの走りとなった西田さんですが、大手弁護士事務所に入るよりインハウスロイヤーの方が、入社1年目から現場で活躍でき、キャリアが築きやすいと言います。また、リモート勤務やフレックスタイムの導入などの働きやすい環境が整っている点も、大手総合商社勤務の利点の1つだそうです。

 全世界でビジネスを展開する総合商社ですから、法務部の業務も国際的です。海外の取引先やローファームと仕事をすることも多く、文化や慣習の違う外国人との考え方のギャップを埋めるのは時に大変さも伴いますが、それ以上に面白く、やりがいを感じるそうです。

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法曹の仕事、「大変だけれどやりがい」

 法曹は、時代によって次々に出てくる未知の問題に対応していかなければなりません。さまざまな試みが行われていますが、いまだに紙文化が根強い世界でもあるそうです。

 中島さんは刑事手続のI T化を担当していますが、地方では令状を請求するために警察官が数時間かけて裁判所に行き、裁判官の令状発付を受けた後、再び数時間かけて現場に戻り令状を執行するというようなことが起きていると言います。オンラインで令状が請求できるシステムがあれば、迅速な令状執行による社会秩序の維持が実現できます。

 裁判官の下山さんも、民事裁判のI T化を進める立場にいます。既にオンラインでの争点整理手続が行われており、準備書面や書証のオンライン提出も始まっています。令和5年度からは、口頭弁論もオンラインで行われる予定であり、令和7年度の民事裁判の全面的IT化の実現に向けて、国民が使いやすい制度づくりを目指しています。

 企業で働く西田さんは、法律書籍をオンラインで閲覧できるシステムや電子署名の導入等により、ペーパレス化・デジタル化を急速に進めていると言います。A Iによる自動翻訳や契約書のチェックなども現実のものになりつつあるそうです。

 職種は違っても、3人に共通しているのは、法曹の仕事は大変だけれどやりがいがあると言うところです。検事の中島さんは、ロースクール時代の実務科目で学んだことが、現場で役に立っていると感じています。インハウスロイヤーの西田さんは、法曹三者の仕事はどれでも、高い文章力、日本語力(総合商社の場合は英語力も)が求められると言います。人によって違う解釈ができるような文章を書くわけにはいかないからです。そうした力は、ロースクール時代に鍛えられたと言います。

 下山さんは、今も実務に直結するさまざまな研究会に参加し、勉強を続けています。最近は、当事者間や弁護士の介入によって、裁判まで至らずに紛争が解決される事例が増えていますが、そこでも解決できなかった難しい問題が裁判所に持ち込まれています。だからこそ、裁判所は国民の紛争解決の最後の砦であらねばならないと考えているそうです。

※2023年3月17日に開催した中央大学×大手町アカデミア第3回 法曹界の「いま」―変化への挑戦 裁判官・検事・弁護士が語るリアル」の動画はこちら。

下山 久美子(しもやま くみこ)さん/東京地方裁判所 裁判官

中央大学法学部卒業。同大学院法学研究科民事法専攻博士前期課程修了(修士)。

旧司法試験合格後、司法修習を経て平成17年に裁判官に任官(58期)。福岡、前橋、熊本、東京、宮崎の各地方・家庭裁判所で勤務した後、中央労働委員会への出向を経て、令和4年4月より東京地方裁判所において民事裁判を担当している。

中島 賢一(なかじま けんいち)さん/法務省刑事局 局付

東京都世田谷区出身。中央大学法学部卒業。同大学法科大学院修了。

平成22年司法試験合格。1年間の司法修習(64期)を終え、平成23年検事任官。検事任官後、大阪、広島、東京、さいたま、福岡の各地検勤務を経て、令和3年7月から現職。現職では、刑事手続のIT化に向けた企画立案及び関係機関等との連絡・調整などを担当。日本刑法学会会員。

西田 千尋(にしだ ちひろ)さん/丸紅株式会社法務部 弁護士・課長補佐

新潟県新潟市出身。2008年中央大学法学部、2010年中央大学法科大学院卒業。

2012年弁護士登録(新64期)、丸紅株式会社入社。電力、インフラ、不動産、化学品、情報・物流等の分野におけるトレード、M&A・投資、訴訟・仲裁等の法務業務を担当し、2016年丸紅米国会社法務チーム出向、2018年Hughes Hubbard & Reed法律事務所ニューヨークオフィス出向を経た後、2019年より丸紅株式会社法務部総務課(現職)にて、主にガバナンス業務に従事。