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法学部都心展開を軸とした中央大学の展望

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 中央大学(東京都八王子市、河合久・学長)では2023年、東京都文京区に茗荷谷キャンパスを新設し、法学部と大学院法学研究科を多摩キャンパス(八王子市)から移転させると同時に千代田区に駿河台キャンパスを新設し、2つの専門職大学院であるロースクールを市ヶ谷キャンパス(新宿区)から、ビジネススクールを後楽園キャンパス(文京区)からそれぞれ移転させるという、1978年の多摩移転以来の大改革を断行します。都心展開の狙いや意義・効果について、学校法人中央大学の大村雅彦理事長と中央大学の河合久学長をはじめとした4人の当事者が、「中央大学都心キャンパスの新展開:多摩と都心の2大キャンパス形成」をテーマに座談会を行い、オンライン配信しました。その様子をお伝えします。(2021年11月8日、中央大学多摩キャンパス・グローバル館7階多目的ホールにて収録)

司会・下村 最初に、中央大学は、どのような学校であるのかをご説明いただけますでしょうか。

chuo_0217_img_kawai.jpg河合 本学の前身は1885年、若き18人の法律家によって神田錦町に創設された「英吉利法律学校」です。創設以来、「實地應用ノ素ヲ養フ」を建学の精神とし、今日まで受け継いできました。ここで「素」というのは社会に応用できる力の素地であり、「素ヲ養フ」とは知識はもとより、さまざまな体験や人との交流の中で培われるコミュニケーション力、議論する力、組織的な判断力、そして弛まず学び続ける力の涵養にほかなりません。学生たちには本学の幅広い実践的な教育を通して、本学のユニバーシティメッセージである"行動する知性"を育んでもらいたいと考えています。

司会・碇 中央大学では、1978年に理工学部と大学院理工学研究科を除いて、多摩キャンパスに移転しています。それが今回、大きく変わろうとしています。その狙いと意義について、ご説明願います。

河合 法学部の茗荷谷キャンパス移転によって、法学部と大学院法学研究科との連携を基礎に、専門職大学院である駿河台キャンパスのロースクールまで含めた一貫した運営を可能とし、本学の法曹教育をより一層強く推進できるようになります。また、近隣の理工学部や国際情報学部など理系分野の学部との連携も可能で、中央大学の新たな法学教育が実現すると期待しています。

司会・下村 都心の茗荷谷キャンパスで法学部が研究と教育を展開するということには、どのような意味があるのでしょうか。

chuo_0217_img_inomata.jpg猪股 法学部が都心展開をする意図、あるいは狙い、そのキーワードは2つあります。ひとつはL&Lで、もうひとつは文理融合です。

 まず、L&Lですが、いわゆる3プラス2と呼ばれる法曹養成の新しい仕組みのことを指します。法学部を3年で早期卒業して、ロースクールで2年間勉強し、在学中に司法試験を受験し合格を目指す、そういう新しい仕組みが出来上がりました。現在、法学部は多摩にあります。一方、ロースクールは市ヶ谷にあり、距離的に離れています。法学部が茗荷谷に、ロースクールが駿河台に移転をすることで、同じ丸ノ内線で1本でつながり、わずか4駅という近さになります。この地理的な近さというものが時間的な近さになり、また精神的な近さにもつながると期待しています。

 次に、文理融合です。現代社会に生起している事象、課題は非常に複雑化し、問題解決のために文系・理系の両方にまたがる複眼的な思考方法を持つことが今、求められています。そういう発想のもと、文理融合を実現するためにカリキュラム改革を行い、3学部共同開講科目の設置を決めました。具体的には、法学部、理工学部、国際情報学部、それぞれの先生方が、3、4コマずつを分担して開講します。また1年生には、いわゆる学際的、導入的な科目を置き、3年次には専門的にもう一段深みのある科目を置く、そのような展開を想定しています。20234月に法学部が都心展開することによって、法学部は新しい局面を迎え、新しい展開をしていくことが可能になると考えています。

司会・碇 L&Lの担い手の一つである、ロースクールは、駿河台キャンパスに移転されます。L&L時代の法科大学院教育とはどのようなものになるのでしょうか。

chuo_0217_img_kobayashi.jpg小林 法律の勉強というのは、私自身は3つのステップがあると思っています。ひとつ目は各パーツにおいて正確な知識を身につける、2つ目はその知識を鳥瞰的、総合的に使いこなす力を養う、3つ目が社会に生起する様々な問題に向き合う中で、正解のない世界の中から最適の選択をしていく力を培う、この3つです。この3つをきちんとしたプロセスを踏んで教育するためには、短期のものではなく、5年間程度の一貫したプロセスが必要です。中央大学では、学部において長年の伝統に支えられた法職講座とか学研連があり、非常に強固な教育体制が出来上がっています。その延長で、ロースクールも含めた5年間でしっかりとした足腰の強い法律家を育てることを可能にしています。それらを新しい駿河台キャンパスで展開していくことで、社会から負託された期待に十分応えられると考えています。

司会・碇 駿河台キャンパスには、ビジネススクールも移転します。この点は、いかがでしょう。

小林 今、経営と法律の境目がなくなりつつあり、経営のわかる法律家、法律のわかる経営者、こういう人財が求められています。経営か法律かという境目なく、トータルにみていく力が必要であり、そうした視界の広がりを持ってもらえる教育を駿河台キャンパスで展開していきたいと考えています。法曹リカレント教育においても、法律か経営かという境目を問わず、学んでいける機会を提供できると期待しています。具体的なコラボレーションの方法については、駿河台キャンパスを高度専門職業人養成の拠点にするという意識をもって取り組んでいきます。

司会・碇 学校法人中央大学は、大学だけでなく、4つの高等学校と2つの中学校も設置している大きな法人です。その責任者である大村理事長のお立場からみて、大学の都心キャンパス展開はどのような意義をもっていますか。

chuo_0217_img_omura.jpg大村 学校法人としては、大学が教育・研究の面で「新しい可能性」を開いて行けるように、その土俵を整備する権限と責任を負っていると考えています。そうした考えに沿っての今回の都心展開です。今回、法学部の都心移転が実現しますと、「中央大学のカタチ」が相当大きく変わります。学生定員と学部数で、だいたい半分近くは都心に移り、中央大学の顔、中央大学のカタチが大きく変わります。それらを社会に認知してもらうことによって、いろいろな化学変化が起こってくると学校法人として期待しています。

司会・下村 既存の多摩キャンパスでは、今後どのような展開を予定されているのでしょうか。

大村 多摩という郊外型キャンパスには、都心のキャンパスにはないメリットや魅力があります。緑豊かな環境を活かしたグローバル・キャンパスとしての特色を強化していくという目標のもと、国際教育寮、グローバル・ゲートウェイを建設しました。また、フォレスト・ゲートウェイは、多摩地域の材木を使い、自然換気の構造を採用した、人間に優しい環境を備えた多目的用途の施設です。ダイバーシティ推進の拠点としても、またグローバル化推進のためにも、おおいに役立ててほしいと思っています。

司会・下村 以上のお話を踏まえて、最後に今後の中央大学の展望について、河合学長からお話しいただきたくお願いします。

河合 本学の将来の展望につきましては、建学の精神である「實地應用ノ素ヲ養フ」という教育観が、中央大学のこれからの発展にどうしても必要な「開かれた大学」というコンセプトと深く関係してくると思っています。

 大学という組織の視点から社会を構成する実体とか出来事を認識する時、常にそのシステムと外界との相互作用が問題となり、その相互作用が強い時に、「開かれた」とか「オープンである」という意味になると私は理解しています。大学の機能である教育・研究の視点から見ると、實地應用ノ素の「素」の部分の基礎となる「知識」についてもそう言えます。つまり、ある領域、ある研究分野が他の分野と相互作用を果たしている時、それは、ドメイン(domain=領域、範囲)の開放ということになります。ドメインの開放は、専門領域を表象としている学部や大学院といった教育組織の開放につながります。すなわち学部間の相互作用や連携が常に必要だということです。その先には、学部や大学院が設置されている場所、すなわち拠点が関係してきます。拠点同士の相互作用が強くなると、拠点が開放されるという認識になります。

 たとえば、ある学部と他の学部との相互作用、キャンパスと地域との相互作用、多摩キャンパスと都心キャンパスとの相互作用、あるいは中央大学と外国機関との相互作用へと中央大学はどんどん開かれていきます。そのような大学の開放性といったものが、今後さらに中央大学に求められてくると思っています。その期待に応えるため、本学のあらゆる教育組織、そして拠点の相互作用を強めていくことで、さらなる「開かれた大学」を目指していきます。様々な取り組みを通じて、多摩と都心という二大キャンパスの連携と開放を強める、そして世界を支える人材を育てていく、そのように中央大学を社会的要請に応えながら、夢のある大学にしたいと思っています。どうぞご期待ください。

司会・碇 中央大学では、今後も、様々な形で情報を発信していかれるとうかがっています。2023年4月に向けて、どうぞご注目いただければ幸いです。本日は、誠にありがとうございました。


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〈司会〉
由利絵/弁護士・中央大学法務研究科兼任講師(写真:左)
下村 えりか/中央大学法学部政治学科4年


【中央大学公式Youtube】
「中央大学都心キャンパスの新展開:多摩と都心の2大キャンパス形成」座談会(収録日 2021年11月8日)

大村 雅彦(おおむら まさひこ)/学校法人中央大学理事長

兵庫県出身。1954年生まれ。1977年中央大学法学部卒業。同大学院博士前期課程修了、1979年中央大学法学部助手、1990年中央大学法学部教授、2004年中央大学法務研究科長、法務研究科教授。
2012年中央大学国際センター所長、2014年常任理事。2017年5月理事長。2020年理事長再任。2021年中央大学名誉教授。このほか、テキサス大学・ケンブリッジ大学等にて在外研究、1998年カンボディア法制度整備支援委員(JICA)、2002年文部科学省学校法人運営調査委員会委員、2003年文部科学省大学設置・学校法人審議会大学設置分科会専門委員、2013年大学基準協会法科大学院認証評価委員会委員長、2015年 Vice President, International Association of Procedural Law (現在は、名誉副会長)、2016年文部科学省私立大学等の振興に関する検討会議委員。法学博士。
専門は民事訴訟法。

河合 久(かわい ひさし)/中央大学学長、国際経営学部教授
専門分野 会計情報システム論

東京都出身。1958年生まれ。1977年中央大学附属高等学校、1981年中央大学商学部会計学科卒業。1983年中央大学大学院商学研究科博士前期課程修了。1996年中央大学商学部に着任し、助教授、教授、学部長を務めた。副学長、国際経営学部開設準備室長を経て、2019年より国際経営学部教授(現)、学部長を務め、2021年学長に就任。

関連学会役員、日本私立大学連盟常任理事、大学コンソーシアム八王子副会長など公的社会活動を歴任。本学の豊富なリソースを地域やさまざまなコミュニティに開放、活用し、交流を図ることで、学生が常に社会と相互に研鑽しながら社会に応用する力を養い、確かな未来につながる学びの実現に向けて、さらに「開かれた中央大学」をめざす。

猪股 孝史(いのまた たかし)/中央大学法学部長、法学部教授
専門分野 民事法学

青森県出身。1959年生まれ。1983年中央大学法学部法律学科卒業。1985年中央大学大学院法学研究科民事法専攻博士課程前期課程修了。法学修士(中央大学)。1989年中央大学大学院法学研究科民事法専攻博士課程後期課程単位取得満期退学。放送大学助教授、桐蔭横浜大学法科大学院教授などを経て、2010年より中央大学法学部教授。2019年法学部長に就任。

実効ある民事紛争処理のため、訴訟のほか、仲裁や裁判外紛争処理をめぐる手続規整のありかたを中心的な研究課題とする。

著書に、小島武司=猪股孝史 『仲裁法』(日本評論社、2014年)、大村雅彦編著『司法アクセスの普遍化の動向』(中央大学出版部、2018年)(共著)などがある。

小林 明彦(こばやし あきひこ)中央大学法務研究科長、法務研究科教授
専門分野 民事法学

長野県出身。1959年生まれ。1983年中央大学法学部法律学科卒業。同年司法試験合格。1986年弁護士登録(司法修習38期)。1990年より片岡総合法律事務所パートナー(現在に至る)。長く弁護士として活躍するかたわらロースクールに参画し、中央大学法務研究科客員講師、特任教授を経て2016年より教授(現在に至る)、2019年から現職。

法制審議会動産債権担保法制部会幹事、法務省競売制度研究会委員、司法研修所所付(民事弁護)などの経験もふまえ、担保法、執行法等を中心とした民事法分野において、理論と実務の架橋をテーマに研究及び実践に取り組んでいる。