あらゆる枠を越えて活躍する「グローバル人材」への道
【対談】福原紀彦×瀬谷ルミ子
現在、中央大学ではグローバルに活躍する人材を育てるため、さまざまな取り組みを進めている。国際化とは何か、海外で働くとはどういうことなのか──。福原学長と、中央大学卒業生で、紛争後の復興や兵士の武装解除の専門家として国際的に活躍している瀬谷ルミ子さんが語り合った。
どんな現場でも役立つ人を目指しました(瀬谷)
- 福原
- 瀬谷さんには、先日、「中央大学インターナショナル・ウィーク」で卒業生として講演していただきました。どうもありがとうございました。ルワンダやソマリアなどの紛争地で専門家として活躍する瀬谷さんのお話は、多くの学生の関心を引きつけました。瀬谷さんは、中央大学が目指すグローバル人材そのものだと思うのですが、その素質はどこで身につけ、またどのようにして鍛えたのですか。
- 瀬谷
- ありがとうございます。私には特に素質があったわけではなく、むしろ昔からずっと取り柄がないと思ってきました。そこで、同じことをやっても才能のある人にはかなわないから、まだ誰もやっていない分野の仕事をしようと考えたのです。いろいろ探した中で「これだ!」と思ったのが紛争支援でした。それが高校3年生のときで、さっそく紛争支援を専門的に教えているところを探したのですが、当時はそういう学部もなければ先生もいませんでした。それなら一番近い学問を学ぼうと思い、中央大学の総合政策部に入学したのです。
- 福原
- 高校生のときから主体的に道を選んできたのですね。自己を持つことは、海外で働くに当たっても非常に重要なことだと思います。「グローバル」と言うと、一般的には活躍する場が海外であることを指す場合が多いのですが、中央大学では人を育てる環境としてのグローバル性も重視しています。そのため、多くの国際プログラムを実施しているほか、各国から集まった留学生とともに学び合える環境も整えました。グローバル人材を増やしていくためには、育てる環境と活躍する環境の両方が必要ではないでしょうか。
- 瀬谷
- その通りだと思います。私も、中央大学の環境の中で多くの事柄を学ぶことができました。図書館には紛争に関する専門書がたくさんありましたし、在学中にはルワンダの現地NGOを支援する日本の団体でインターンを経験することもできました。また、その際に書いた論文を担当教授が評価してくれたことで、「普通の枠を越えたことをしてもいいんだ」と、味方を得たような気持ちになったことを覚えています。変わったことをしても受け入れてくれる先生が多くて、とても心強く感じました。これは非常にありがたかったですね。
- 福原
- 私たちには、学位をただの紙切れにしてはならないという思いがあります。学んだことを実践に生かさなければ、社会にために役立つことはできません。先生方もその思いが身についているのだと思います。手本のない世界に自分の生きる道を求めて努力を続ける──。これぞグローバルに活躍するための素質と言えそうですが、瀬谷さんの考えるグローバルとはどんなものですか。
- 瀬谷
- 大学をはじめ国連、外務省、NGOなどさまざまな環境を経験してきましたが、ずっと心がけてきたのは「所属する組織にかかわらず、どんな現場に放り込まれても役に立つ人になること」です。グローバル=国際化と思われがちですが、私にとってグローバルとは、機関や国境などあらゆるボーダーを超えて活動すること。そういう人こそがグローバル人材だと思います。
- 福原
- どんな現場でも活躍できる、正に現場主義ですね。これは本学の建学の精神「實地應用ノ素ヲ養フ」(じっちおうようの そを やしなう)」にも表れており、私も非常に大切だと思っています。今後の世界で必要とされるのは、現場主義、現場志向、実学の三つを身につけた人材ではないかと考えています。
活躍の場を求める際は、ぜひ世界を見渡して(福原)
- 福原
- 中央大学が育成すべきグローバル人材のモデルは、幅広い教養とコミュニケーション能力で政策やビジネスの実施を担う「グローバル・ジェネラリスト」、グローバル社会の政策やビジネスの企画・立案を担う「グローバル・リーダー」、高い専門性をもって政策やビジネスを精緻化・高度化することを担う「グローバル・スペシャリスト」の三つです。瀬谷さんはリーダーかつスペシャリストでいらっしゃいますが、そうなるためには自分にできること、自分がしたいこと、自分に求められることの三つが合致する場を見つけなくてはなりません。その際に大切なのは、日本だけでなく世界を見渡して活躍の場を求めることではないでしょうか。
- 瀬谷
- そう思います。例えば日本にはIT関連の技術者はたくさんいますが、ソマリアではまだ少なく、現地の人々は真剣に技術者を求めています。日本では活躍の場がないと感じている人も、世界のどこかに必ず自分を求めている場所があるということを知ってほしい。そのためJCCPでは、社会人はもちろん大学生や高校生にも、将来の選択肢としてこうしたことをお話しする機会を多く設けています。
- 福原
- それはすばらしいことですね。お聞きしたいのですが、グローバル・スペシャリストとしての知識をスタッフに教える際には、どんなことを心がけていますか。
- 瀬谷
- スタッフにしっかりした知識を身につけてもらうため、必ず実地経験の機会を設けています。言葉で教えればある程度は知ってもらえますが、やはり経験しなければ血肉にはならないのではと思います。
- 福原
- なるほど。もう一つ、グローバル・リーダーが持つべきリーダーシップとはどんなものでしょうか。言葉も文化も異なる人々をまとめたり、紛争の真っ只中でスタッフを育てたりするには、日本国内とはまた違った手法が必要かと思うのですが。
- 瀬谷
- 求められるリーダーシップは紛争の激しさや治安によって異なりますが、現地では自分一人しかいない状態でギリギリの決断を迫られる場面も少なくありません。そのため、上司だけでなく全員が「自分がリーダーだ」という意識を持つ必要があります。また、各自が決断する力を持っていれば、支援の範囲や裾野も自ずと広がっていくので、一人一人にリーダーとして接し、いざというときに責任を負うという姿勢を心がけています。
- 福原
- トップがそういう姿勢でいれば、スタッフの中にも責任感が芽生えやすいでしょうね。しかし紛争現場での勤務は身の危険や大変なプレッシャーと戦わなければならず、緊張の連続でしょう。そうした環境の中で、精神や肉体を健全に維持する秘訣は何でしょうか。
- 瀬谷
- スタッフには、2か月に1度休暇を取って勤務地の外へ出ることを義務づけています。たとえ本人が必要ないと言っても、気が張り詰めすぎていて自分の変調に気づかない場合もあるので、もうこれは私を含めて全員が利用しなければいけない仕組みにしました。支援のプロとして現地の人を支えるには、まず自分が健全でなければなりません。ときには自己犠牲の精神も必要ですが、そればかりでは自分自身がすり減ってしまう。私も、最近は意識してプライベートタイムを作るようになりました。