特集

新たな一歩を踏み出そうとしている受験生の皆さんへ

大学進学は易しくなったか? -大学生になるということ

 2012年がはじまって10日余りが過ぎました。受験生の皆さんにとっては、4月からの新たな一歩を踏み出すための大切な時期ですが、中央大学も、4月に新入生を迎える準備を急ピッチですすめています。

 ところで、2011年の統計によれば、日本には780の大学があり、新入生61万人強を含む約290万人が学んでいます。これに対して、高校3年生の皆さんが生まれた1993(平成5)年と1994(平成6)年の出生数は、いずれも約120万人でした。

 こうした数字は、しばしば「最近は大学に入学することが易しくなった」説明に用いられます。しかし、それは本当でしょうか? 確かに、高校3年生の皆さんを集団として捉え、その集団の大学進学率や競争率をみるならば、「易しくなった」といえます。しかし、どんな時代でも変わることなく、どのような高等教育を受けるかは、一人ひとりにとって大きな人生の選択です。国内780大学だけでなく、短期大学や専門学校、さらには国外の大学への直接進学をも含めれば、無限に近い組み合わせの中から、新たな一歩を踏み出すための選択を行い、入学試験に合格することは、決して「易しいこと」ではありません。

 他方で、「大学は、教育サービス産業である」といわれることがあります。これは、真実の一側面かも知れません。しかしそれならば、大学生になるということは、ただ単に教育サービスの消費者となるということなのでしょうか? 単位が簡単にとれて、学費がそこそこ安い大学を探すべきなのでしょうか? 目指す資格試験の受験資格を「買う」ことができる大学を選択すれば良いのでしょうか? 私は、決してそうだとは思いません。

 そこで私は、入学試験を前にしたこの時期にこそ、受験生の皆さんに、自らが何を、どこで、どのように学ぶのかを、改めて考え・調べる時間をもってもらいたいと願っています。その一助として、中央大学がどのように皆さんをお迎えしようとしているのか、換言すれば、「中央大学生になる」ということにはどのようなことであるのかについて、3つの点から考えてみたいと思います。

3つのポリシー

 大学での学びは、たとえ学部の名称が同じでも、大学ごとに異なっています。これは、突き詰めて考えれば、各大学が輩出しようとする「社会に有為な人材像」の違いに帰着しますが、中央大学はこの点について、「實地應用ノ素ヲ養フ」という建学の精神をもち、「行動する知性。-Knowledge into Action-」というユニバーシティ・メッセージを定めています。

 もちろん、これらは基本的な考え方を示すものですから、本学の考えと学生の皆さんの考えが細部まで一致しているとは限りませんが、方向性そのものが異なってしまうとすれば、両者にとって幸せとはいえないでしょう。そこで、中央大学は、「学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」「教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)」「入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー)」の3つのポリシーを定め、公開しています。これらは、6学部、7大学院、3専門職大学院が、それぞれの特性に応じて、どのような人材を社会に有為なものであると考え・輩出しようとしているのか、そのためにどのような教育を行うのか、どのような資質をもった人を学生として迎え入れようとしているのか、という3点を簡潔に示した文書であり、本学のウェブサイトの各学部紹介からアクセスすることができます。

 これらを通じて、「實地應用ノ素ヲ養フ」「行動する知性。-Knowledge into Action-」の内実が何であるのかを、是非とも知っていただければと思います。

全国から集う学生の皆さんをサポートする仕組み

 中央大学は、都心に近いながらも静謐な環境で学修できる多摩(法・経・商・文・総合政策学部)と、実験実習で深夜になっても交通至便な後楽園(理工学部)の2キャンパスで、それぞれ4年間一貫教育を受けられる環境を整備していますが、本学学生の出身地は47都道府県全てにわたっており、自宅以外から通学する人も多くいます。そこで、本学では、全国から集う皆さんが中央大学生として充実した4年間をおくることができるよう、多くのサポートの仕組みを用意しています。

 第1に、昨年、中央大学は、新しいコンセプトのキャンパス外学生寮を開設しました。「国際寮」と名付けられたこの寮では、世界各国からの留学生と日本出身の学生が、それぞれ個室をもちつつ、共同生活をしています。この寮は、単に寝に帰る場所ではありません。生活の中で異文化を体験し、国際性を身につける場なのです。さらに、2012年度には、このコンセプトを発展させた寮をもう一つ開設する予定です。

 第2に、中央大学では、入試時に出願できるスカラシップをはじめ、数多くの奨学金を用意しています。とりわけ、学部ごとの特色ある教育と連動した奨学金と経済援助を目的とする奨学金の組み合わせは、本学奨学金制度の特色の一つとなっています。

 第3に、東京を含め全国11都市で実施する入学試験があります。本年は、これまでの、札幌・仙台・さいたま・千葉・横浜・名古屋・大阪・広島・福岡会場に加えて、「新潟」にも会場を設置します。

 第4に、東日本大震災により被災された方については、2012年度も、入試選考料の免除と経済援助給付奨学金(自然災害による被災者対象)の給付を実施するほか、貸与奨学金も用意しています。こうした時期であるからこそ、中央大学にも日本にも若い力が必要です。どうぞ、大学で学ぶことを諦めることなく、これらの仕組みを活用してください。

コミュニティとネットワーク

 多くの人にとって「社会人」になる直前の時期を過ごす大学は、一生涯にわたるネットワークを構成するコミュニティです。本学は、2012年に創立127周年を迎えますが、その至宝の一つが、この間に形成されてきた学生・ご父母・同窓生・教職員・友人・社会とのネットワークであり、皆さんが本学を受験し入学するということは、このネットワークに加わるということをも意味しているのです。

 たとえば、卒業生弁護士が学生を指導する少人数クラス、経済人が親身にコーディネートしてくれるインターンシップ、被災地ボランティア学生の指導をしてくださるNPO、社会の最前線で活躍する女性による女子学生支援、卒業生の善意による奨学金や寄附講座、協定校への留学機会、同窓会組織と父母連絡会組織の連携による学生サポート、卒業生に新しい知識や技術を提供するリカレント大学院教育などは、こうしたネットワークの賜物です。皆さんは、学生としてこれらの恩恵を享受することができますが、同時にまた、一生涯にわたってこのネットワークに関わることも期待されています。

 中央大学の伝統は、「人が人を育てる」ことにあります。私は、中央大学の総長・学長として、誇りと自信をもって、多くの有為な皆さんをこのネットワークにお迎えしたいと考えています。

最後に

 中央大学では、東日本大震災をはじめとする災害を教訓として、これまでにも増して安心できる環境を構築して、受験生と新入生の皆さんを迎える準備に全力を挙げています。4月からの新たな一歩を踏み出すための大切な季節を、どうぞ健康に留意して過ごしてください。

中央大学総長・学長 福原 紀彦