教育

自ら問いを立て解決できる力を養う高大連携の取り組み

細川 桃子/中央大学附属中学校・高等学校理科(化学)教諭

 中央大学附属高等学校は大学附属校であり、高大連携の充実により、自分にあった学部学科を選択できる学校です。特に理系はただ進学先を選ぶのではなく、中央大学理工学部のこの学科に行き、この教授から学び、こんな研究をしてみたいと言える自主的な生徒を育てたいというのが本校の目標です。本校は「次代のイノベーションを担う、大学進学後も活躍する科学技術人材を育成する教育課程の開発」という研究課題でSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定(2018~2022年度)されています。受験勉強に捉われずに興味のある分野に打ち込むことができる大学附属校の利点を活かし、中央大学理工学部と協力して大学での学びにつながる高大連携を展開している高校3年理系クラスの取り組みを紹介します。

SSH東京発表会でのポスター発表

 高校生で将来を見据えて自分の進路を選択するのは難しいことです。どんな職業に就きたいか、どんな大人になりたいかなど、多くの学生が将来に迷う時期です。受験をする上で大切なのは、自分の興味のある分野から学部を考え、大学を見学し、受験科目などを逆算して考慮することです。特に理系は各学科の専門性が強く、学科選びが自分の研究に直結するため学科選びが非常に大切です。中央大学理工学部は全部で10学科を擁し、似ている分野を扱う学科もあれば、全く異なることを扱う学科まで多岐にわたります。そのため、中央大学の附属校である本校は、7年間あるいは10年間、12年間の繋がりを活かし、大学の雰囲気や授業、先輩からのアドバイスを受けてから進学先を選択することができます。

大学の講義聴講体験

 本校では6月に理工学部の講義の聴講体験期間を1週間設けています。1週間の期間を設けることで、興味のある複数の講義を聴講し、雰囲気を肌で感じることが出来ます。大学教員選りすぐりの各学科の特色が把握し易い、厳選された講義が用意されています。

聴講体験後に大学で開催した発表会の様子

 大学の講義を高校生が聞いて、理解できるのか、聴講の意味があるのかそんなことを考える方も多いかもしれません。実際に最初は面倒に感じていた生徒も多かったです。また、教師である私も、高校生が大学の講義を聴講して、内容が理解できるのか不安がありました。しかし、聴講後の生徒達の感想から、想像以上に意欲的に聴講し、学んでいたことを知ることができました。

 ここで生徒の感想をご紹介します。

「人間総合理工学科 救急理論・実習」
生徒Y
 この講義は、過去の経験からどう改善点を見つけ出すかを考える授業で、鎌倉でも津波の心配がかなりあるということを学んだ。それにもかかわらず、オリンピックのセーリング会場を湘南にした理由を深く学びたくなった。
生徒T
 この講義は、救命救急をした人のアフターケアをしっかりすることが大事だということを伝える授業で、津波から避難するときの状況は、何もそこに住んでいる人だけではなく、観光客の人もいることも考えないといけないということを考えさせられた。これから東京オリンピックが開催され、かなりの人数の観光客が来る中で災害などへの対応をしっかり考えるべきだなと思った。
「生命科学科 分子遺伝学」

 この講義で、DNAは思ったよりもろくて、水や亜硝酸でも損傷を受けることがわかり驚いた。遺伝子による病気がいくつかあることを教わったので他にどんな病気があるのか、どうやって治すのかを知りたいと思った。

「精密機械工学科 ロボット工学」

 この講義では、ロボットは特異点になると動ける方向に制限がかかるので、ロボットの動きを制御する時は、特異点から遠くなるようにすると安定した動きができること学んだ。すごく難しくてもっと勉強しなきゃいけないなと思った。

 このように、大学の講義を聴講することで、好奇心が増し、高校での学習を見直す機会になった生徒が多かったため、今後も実施していくべき取り組みだと感じました。

 また、8月に実施される中央大学理工学部のオープンキャンパスでは、附属校卒業生が特別講演をしてくれます。講演では大学講義の内容はもちろん、生徒達が一番興味のあるキャンパスライフについても、生の声を聞くことが出来ます。講演後には、大学の研究室を自由に見学することが出来るため、進路の最終決定時期ギリギリまで自分と向き合い、進学先を選ぶことが出来ます。

卒業研究

 大学では知識を身につけるだけに留まらず、答えのない大きな問題を考えることが多く、大学に入学すると、途端に勉強方法がわからなくなる人がいます。そもそも大学に進学しても学ぶ意義や研究とは何か、そこからつまずく人もいますが、本校の卒業生には、大学進学後はさらに自らの学びへの力を伸ばして、勉学に励んでほしいと考えています。そこで、大学附属校だからこその大学進学後を見据えた授業や取り組みを行なっています。受験勉強が無い分、通常授業では、実験を通じて現象を実際に確かめ、結果を考察し推論する力を伸ばします。

化学発光 ルミノール反応の実験の様子

有機化学 フェノール類の実験の様子

 高校のうちから自ら問題を提起し、解決する能力を育み、大学進学後に活躍する生徒を育てるための目玉授業が「卒業研究」です。生徒一人一人が自分の興味のある研究テーマを設定し、実験方法を考え、1年間かけて論文を執筆します。最初はテーマすら決まらない生徒が多く、テーマ設定までが一番大変です。教員も生徒と一対一で面談をする機会を設け、本当に生徒自身が興味のあるテーマになるようサポートしております。しかしテーマ設定後も実験方法やデータ処理など一つ一つ教えなければなりません。それでも高校生のうちに自らテーマを決め、実験を行っていくことで、生徒はどんどんやり方を吸収して、力をつけていきます。やる気のある生徒の報告を聞くと、つい教員まで熱くなってしまうほどです。

 卒業研究をしている生徒には、夏季休暇前後に理工学部教員の研究室を訪ね、研究の進め方について貴重なアドバイスを貰いにいく機会があります。大学の専門家からの新しい指摘によって、卒業研究がより本格的になる生徒もいます。

 昨年度の研究では先輩がやっていた「生乾き臭を消す方法」という研究を引き継ぐ中で、強烈な臭いを発した布を研究した生徒や、競泳をやっている生徒が水の抵抗を少なくする泳ぎ方を研究するために、簡易的な水流の可視化を研究した生徒がいました。生徒が考えるテーマは、高校生らしいおもしろい発想もたくさんあります。最終的には理工学部キャンパスで発表会を行い、大学の教員にも質疑応答に参加してもらいます。発表の準備も各自が工夫し、発表の際は良い緊張感があります。

卒業研究中間発表の様子

水流の可視化実験の様子

 本校は高校1年から論理的思考力や科学的視点を盛り込んだ授業や講演会を実施して科学的思考力を養い、高校3年生の卒業研究をより深いものにし、高大連携の強化を図っています。2019年度から卒業研究を英語で発表するためのProject in English Ⅲ for Scienceという理科・英語科の教科融合型授業も開講されています。

 高大連携の取り組みを通じて、生徒の大学に進学するための勉強への意識だけでなく、進学後に必要な実のある学びへの意識が高まっていると感じています。大学の講義聴講を通して、実際の大学の雰囲気や今までとは異なる学びを知ることで、正しい知識を得ることや自分の考えを持つことの大切さを実感する生徒が多いです。卒業論文では自ら問いを立て、その問いの解決策を考えるため、課題を自ら設定し解決策を創り出す力が身につきます。実際に卒業研究発表会では、一生懸命研究に向き合った生徒ほど自信に溢れ生き生きとした表情をしています。今後も生き生きとした表情の生徒が増えることを楽しみに、高大連携を強化していきます。

化学実験 化学平衡

化学繊維 銅アンモニアレーヨンの作成

化学実験 サリチル酸メチルの作成

卒業研究 プログラミング

2018年度卒業研究テーマ一覧

  • 横スクロールアクションゲームにおける反発係数の導入
  • シューティングゲームにおける加速度の導入
  • コンピュータが生成する乱数を用いたグラフとゲーム制作
  • 理想気体における数値的シミュレーション
  • 新校舎「学びの森」の提案~教室棟はどのように再構築するべきか~
  • 生活臭の抑制方法について ~S臭の抑制方法と性質を知る~
  • サンゴ礁に生息するバクテリアの分解能力について
  • ゼブラフィッシュの選択時間は何が影響するのか
  • トゲナシヌマエビのエサに対する視覚と嗅覚の関係について
  • 光のセンサーで動く車
  • 物体の振動の様子を簡易に可視化する
  • 風による温度変化の測定
  • 水の蒸発を用いたクリーンエネルギーの創出についての考察
  • 中学生の数学に対する考え~中学生に聞く~
  • t検定によるデータの解析~統計学から見たグラフの読み取りは正しいのか~
  • 水流の可視の簡易化~抵抗の少ない水の流れ
  • 免震構造の振動の観測
  • 中附の講堂の音響について
  • 素材による音の吸収のされ方について
  • サッカーゴールネットはなぜ六角形が優れているのか

細川 桃子(ほそかわ・ももこ)/中央大学附属中学校・高等学校理科(化学)教諭

明治大学農学部農芸化学科卒。発酵食品学研究室にてヨーグルト乳酸菌の研究。2015年より現職。SSH高大連携担当。