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トップ>教育>中央大学附属中学校・高等学校の読書指導―国語科の「課題図書」システムについて―:私の教育論

教育一覧

大高 知児

大高 知児【略歴

中央大学附属中学校・高等学校の読書指導

―国語科の「課題図書」システムについて―

大高 知児/中央大学附属高等学校国語科教諭
専門分野 国語教育、近・現代の日本語文学研究

はじめに

 中央大学附属中学校・高等学校の国語教育は、大学に連結した中等教育機関という属性に基づいているところにその特色がある。本校の中央大学への進学は、大学が一般の受験生を対象に設けた「入学試験」とは別の形態となっており、そのため、いわゆる「入学試験」対策という面に重きを置くことなく、本格的なレポート・論文作成のための知識・技術を学び、最終的には10000字程度の「卒業論文」をまとめる「表現研究」や日本語の実社会における運用について考察する「国語特講」などの独自科目を設置し、創意工夫を凝らした授業を展開している。現行のカリキュラムや授業内容については、中央大学附属中学校・高等学校の学校案内の冊子やホームページをご覧戴くとして、本稿では、「国語総合」・「現代文」などの「学習指導要領」に基づく科目や前に触れた学校設置科目の重要な礎となっている「課題図書」システムを中心とした国語科の読書指導について述べていく。

「課題図書」の導入前の読書指導

 本校の読書指導の中核を成す「課題図書」というシステムは、1978年に当時の中央大学附属高等学校の国語科の教員間で検討を積み重ね、1979年度より現代文の授業の一環として実施されたものである。それ以前にも、国語科の教員が合議して設定した「100冊の推薦図書」―近代文学史に載っている古典的名作とされる小説や評価の定まった著名な評論などによって構成されていた―という「制度」があったが、読書感想文の対象図書としてその一部は活用はされたものの、教養のための読書の慫慂という段階に留まっていた、と言わざるを得ない。実際に生徒が手にとって読了したことを確認する術は限られており、読むか読まないかは生徒個人の判断に委ねられていたのが実情であった。

「課題図書」システムの確立

 それまでの「100冊の推薦図書」の志を活かしつつ、数多くの生徒が読書習慣を確実に身につけることができるようにするために、また、生徒が読了したことを教師の側で確認できるようにするために案出されたのが「課題図書」システムであった。当初は、現代文系の科目において、学期初めと中間試験明けに数冊の文庫本・新書本を提示して、定期試験において記述内容を確認する問題を出し、成績評価に加えるという方向性を確認することから動き出した。やがて、選書の基準・図書の冊数・出題方法などについて、機会あるごとに改良のための検討を加えて、1995年に、現行の「高校3年間で100冊の本を読む」という「課題図書」システムが確立したのである。

「課題図書」の理念

 国語科として、「高校3年間で100冊の本を読む」という「課題図書」システムを開始するにあたって、その目的を、(1)読書の楽しさを知ること、(2)豊かな教養を身につけること、(3)考える力・判断する力を養うこと、この3点に定めた。これは、本校の「教育目標」Ⅰ項にある「主体的・創造的な学習意欲を高め、均衡ある基礎学力の充実を図ることによって、論理的思考力と健全な批判力を養い、旺盛な知的好奇心と豊かな個性を持つ、大学の基幹学生となるべき資質を涵養する」という目標と合致するものである。社会の様々な事象について、確かな知識をもとに、自らの力で考え、的確な判断を下し、自己の責任において行動することを生徒一人一人が体現していくために必要なものとして位置づけたのである。

「課題図書」の形態と運用

「課題図書」システムは、原則として各学年において、第1学期の前期5冊・後期5冊、夏休み6冊、第2学期前期5冊・後期5冊、冬休み3冊、第3学期6冊・春休み2冊、という計画で「課題図書」を定め、生徒に購入・通読させる。「課題図書」は、各期ごとに発表し、各定期試験・宿題テストで記述内容に関する問題を出題する。設問は、当該図書の記述内容について説明・紹介した、それぞれ300字程度の4つの選択肢の中から合致するもの2つを選ぶという形式の問題で、1冊の本から2問出題する。通読した生徒であれば比較的容易に解答することができるが、読んでいない生徒には選択できないというレベルの問題にしてある(定期試験においては100点満点中30点分配点)。なお、選書については、各学年の現代文の担当教員が各期ごとに文庫・新書を中心に選定するが、概ねその内訳は、古典的名作と呼ばれている国内外の作品、現代作家の代表作・最新作、現代社会を生きていく上で必要な知識・情報や物の見方・考え方などを記した評論、現代文の授業内容に関連した著作(テキストや資料として使用する場合もある)、活字文化の面白さ・楽しさを堪能できるエンターテインメント的な作品(ミステリーやファンタジーなど)という構成を基本としている。

附属中学校における「課題図書」

 2010年に開校された中央大学附属中学校においても、基本的には高等学校と同趣旨・同方法で、「3年間で60冊を読む」という「課題図書」システムを設けた。目的・ねらい・選書の方法なども高等学校と共通する形で、中学校における「課題図書」制度はスタートしたが、生徒の読書力を考慮し、各期ごとの冊数を3冊とした。中学1年次においては、まずは読書習慣を身につけることを目標とし、読書の面白さ・楽しさを堪能できるエンターテインメント作品を多く選書している。過度な性描写・暴力描写が存在する作品を選ばないよう配慮しつつ、作品内容の傾向が一定にならないよう、多様なジャンルからの選書を心がけている。1年次の後半からは、高等学校で選書されていた作品が取り上げられることも多いが、それらの本を読みこなす力を、すでに生徒が身につけていることに驚かされることもしばしばである。授業内容に関連した著作を選定することも高等学校と共通しているが、2年次の京都・奈良移動教室、3年次の沖縄修学旅行など、学校行事の事前・事後学習の一環としても「課題図書」が利用されていることは、中学校における特徴といえよう。

「課題図書」システムの意義

 定期試験に高配点で出題し、成績評価に加えるという読書指導の方法に対しては異論もあろう。しかし、高校から本校に入学する生徒の大半は中学校時代にほとんど本を読むことはなかったという。最初は成績に直結するという思いから半ば義務感で読んでいた生徒が、いつのまにか活字の世界の楽しみを語るようになる姿に触れる機会が多いことも事実である。さらに、多くの卒業生からは、この「課題図書」に関する感想が寄せられている。それは単に「昔」の思い出の次元に留まらず、大学生・社会人としての「今」の時点における読書の常態化や読書領域の拡大について言及されている。この「課題図書」システムは、本を読む習慣の確立と「紙メディア」への親近感と信頼感の醸成に確実につながっているものと考える。

大高 知児(おおたか・ともじ)/中央大学附属高等学校国語科教諭
専門分野 国語教育、近・現代の日本語文学研究
東京都出身。1954年生まれ。1978年中央大学文学部卒業。
1980年中央大学大学院文学研究科博士課程前期修了。
1981年中央大学大学院文学研究科博士課程後期中退。文学修士(中央大学)。
1981年中央大学附属高等学校国語科教諭(現在に至る)。
1984年中央大学文学部(2014年より全学連携教育機構)兼任講師(現在に至る)。
現在の研究課題は、アジア太平洋戦争と文学との関係、特に大西巨人や原民喜の小説の解析を中心に取り組んでいる。
編著書に『「神聖喜劇」の読み方』(〈晩声社〉1992年)がある。