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トップ>教育>「人生を変える8万円。知ってる人は始めてる。」—法学部通信教育課程の現在、過去、そして未来

教育一覧

猪股 孝史

猪股 孝史 【略歴

「人生を変える8万円。知ってる人は始めてる。」
—法学部通信教育課程の現在、過去、そして未来

猪股 孝史/中央大学法学部教授・通信教育部長
専門分野 民事訴訟法

通信教育課程の真実

 「人生を変える8万円。知ってる人は始めてる。」というフレーズをご存知でしょうか。2013年、法学部通信教育課程(以下「通信教育課程」または「本学の通信教育課程」といいます)の広告で使われたキャッチ・コピーです。2014年3月にも、東京メトロ線車内の中吊りやJR中央・山手線車両の窓上に、また、東武線車両にはドア・ステッカーとして掲出されています。

 通信教育では、制度上、卒業するのに所定の単位数を面接授業(スクーリング)によって修得しなければならないことになっています。本学の通信教育課程では、多摩キャンパスだけでなく、全国の主要都市で、また、インターネットを介して、面接授業(スクーリング)を受講することができます。

 また、本学の通信教育課程の基本授業料(年額)は、8万円です。卒業するのに必要な面接授業(スクーリング)を受講するための費用は、別途かかりますが、それにしても、最短4年で卒業する場合、その総額は50万円ほどですから、法学部や法科大学院の専任の教授陣による、法学部通学課程と同水準の法学教育が提供され、「学士(法学)」の学位が授与されることを考えると、相当にリーズナブルであるといってよいでしょう。

 もちろん、通信教育課程も、法学部におかれた一つの課程ですから、「法科の中央」にふさわしく、司法試験(予備試験)や各種資格試験、また、法科大学院や既存のアカデミックな大学院の受験準備に役立つよう、一定の要件のもとで、中央大学法職課程が開講する講座を受講することができるようにしたり、法学部通学課程への転籍を認めたりするなどの制度が整えられています。

 こうした本学の通信教育課程に魅力を感じて入学を決意され、学んでいる学生(正課生)は、2014年2月末で、4234名です(本稿のデータは、基本的に、http://www.tsukyo.chuo-u.ac.jp/correspondence/data/新規ウインドウ〔2014年3月25日確認〕によります)。

通信教育課程の沿革

 中央大学の前身である英吉利法律学校は、1885年の開校と同時に、「遠隔ノ地方ニ在リ又ハ業務ノ為メ参校シテ親シク講義ヲ聴ク能ハサル者」のため、校外生制度を設け、校外生には「毎月一回講義筆記ノ印刷ヲ配付」することとしました。この講義録を配付するという方式による通信教育は、好評を博するところとなり、1887年段階での学生数は、校内生631人、校外生1107人と急増し、当初の想定を大きく超え、その後も増加の一途をたどったということです(中央大学『タイムトラベル中大125』(2010年、中央大学)111頁参照)。

 こうした歴史と伝統を受け継いで、1948年、大学教育を社会に開放する目的をもって、通信教育部が開設されました。その当時、入学希望者は10日間で1万人にのぼったそうです。

 通信教育課程は、すべての法律専門科目の授業と単位認定について、法学部専任の教授陣がかかわることとして、法学部通学課程とともに、各界各層に有為な人材を数多く輩出してきました。とりわけ、「法科の中央」といわれるように、わが国の法律家の5分の1ほどは、中央大学の卒業生で占められています。通信教育課程は、こうした実績ある法学教育を、法学部通学課程とともに担ってきたのです。

通信教育課程の展開

 もっとも、通信教育には通信教育固有の障壁がないわけでもありません。大学における法学教育をより広く社会に開放していくべく、それらをできるだけ解消し、時代に適合的な通信教育のありかたを模索し、展開させてきました。

 そのための前提として、まず、現在、通信教育課程で学ぶ学生像がどのようなものであるか、みてみます。

 大まかにいうと、平均的な学生像は、30代から40代(30代29%と40代28%で半数を超えます)、何らかの職業に就きながら(会社員36%、公務員・教員13%、そして自営業8%の内訳です)、大学卒業資格(32%)や職業上の資格・知識(24%)を得ることを入学目的として、3年次に編入学してくる学生(1年次入学295名、2年次編入学30名に対して、3年次編入学は470名です)、すなわち「働きながら学ぶ社会人学生」ということになります。

 もちろん、20代の学生(24%)、50代(11%)や60代(6%)の学生もいます。また、入学目的をみても、ほかに、司法試験受験のため(16%)、中央大学で法律を学びたい(10%)、教養を深めたい(9%)、生涯学習のため(7%)と並びますが、これらが相互に排他的なわけではなく、むしろそれぞれに重複するとみるのが自然でしょう。

 そうすると、「働きながら学ぶ社会人学生」をメイン・ターゲットに、広報戦略を練り、学びやすい環境を整えていくことになるのは当然の成り行きといえます。

通信教育課程の革新

 まずもって、面接授業を受講するのに「働きながら学ぶ社会人学生」は一定期間の休暇をとらなければならないことを考慮し、その便宜を図るべく、1985年から、多摩キャンパスで実施する「夏期スクーリング」に加えて、「校舎外スクーリング」(現在の「短期スクーリング」)を開始し、これを全国の主要都市で開講することとしました。また、2013年からは、多摩キャンパスで実施する「夏期スクーリング」に「短期スクーリング」方式を取り入れたり、東京の都心で開講する「短期スクーリング」の授業科目数を増やしたりするなどして、少しでも受講機会を広げることができるようにしました。

 時代適合的という観点からは、1998年、通信教育部開設50年という記念の年に、21世紀に向けた新しい通信教育のありかた、マルチメディア教材の開発を始めました。

 その成果として、2003年から、「リアルタイム・スクーリング」を開始しました。これは、テレビ会議システムを介して多摩キャンパスの授業を遠隔地へ中継し、それにより、同時的かつ双方向的な授業進行を可能にして各受信地で受講できるようにしたものです。また、2005年からは、「オンデマンド・スクーリング」を開始しました。これは、パソコンを介して授業コンテンツを一定期間であれば何度でも視聴し、時間と場所に制約されずに受講できるようにしたものです。これらはいずれも、高度な情報通信環境があって可能となった面接授業(スクーリング)です。

 さらにこの方向を進め、2014年からは、オンデマンド型メディア授業用システムを改修し、「Hakumon BroadBand」から「C-WATCH」へと名称も変更して、PCだけでなくスマートフォンやタブレット型端末で、また、多様なOS、ブラウザで視聴・受講ができるようにしました。「オンデマンド・スクーリング」として受講するのでなくても、それと同じコンテンツ(講義映像)を補助教材として視聴することにより、レポートの作成、面接授業(スクーリング)の予習・復習などに大いに役立つことが期待されます。これも、学習環境の拡大に努めた、一つの成果です。

 ところで、初めて大学教育というものに触れる学生は、通信教育という方式に、あるいは、初めて法学教育を受ける学生は、法律学独特の用語法や思考法に、戸惑うことが少なくありません。すべては、文章(教科書)で理解し、文章(レポートと試験答案、そして卒業論文)で表現しなければならないからです。

 こうした悩みを少しでも軽減できるように、そして、高校までの学習から大学における学習へとスムースに移行できるように、大学教育への理解を深め、もって法律専門科目についての単位修得を促すべく、2011年から、「導入教育科目A・B」を正規科目の面接授業(スクーリング)として、全国の主要都市で開講することとしました。その具体的な成果は、少しずつですが、表れ始めているようです。

通信教育課程の展望

 「法の支配」がわが国の隅々にまで行き届き、自由で公正な社会が実現するように、そんな願いを込めて、21世紀を迎えるにあたって、わが国は司法改革を断行しました。21世紀に生きるわたしたちは、自立した国民の責務として、まさしく自分のこととして、そのことの意味を正しく理解している必要があるのではないでしょうか。法は、社会の一つの規範であり、ルールである以上、むしろ「働きながら学ぶ社会人学生」のみさんにとってこそ、その規範、そのルールのもっている真の意味が理解できるはずです。

 本学の通信教育課程は、その歴史と伝統を踏まえ、開設当時の理念を体現すべく、これからも「法を学びたい人が、学びたいときに、学ぶことのできる、開かれたシステム」であるよう努めていきたい、そう願っています。

猪股 孝史(いのまた・たかし)/中央大学法学部教授・通信教育部長
専門分野 民事訴訟法
青森県出身。1959年生まれ。1983年本学法学部法律学科卒業。1985年本学大学院法学研究科民事法専攻博士課程前期課程修了。法学修士(中央大学)。1989年本学大学院法学研究科民事法専攻博士課程後期課程単位取得満期退学。
放送大学専任講師・助教授を経て、2010年より現職。
実効ある民事紛争処理のため、訴訟のほか、仲裁や裁判外紛争処理をめぐる手続規整のありかたを中心的な研究課題とする。
最近の著書に、小島武司編『ブリッジブック裁判法〔第2版〕』(信山社、2010年)、三宅弘人=大澤恒夫編『民事法総合学修入門』(日本評論社、2012年)などがある(いずれも共著)。