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髙松 瑞代 【略歴】
髙松 瑞代/中央大学理工学部助教
専門分野 数理工学
情報工学科では学生のコンピテンシー育成のため、画像・映像コンテンツ演習というプロジェクト形式の演習を実施しています。この演習には演習1から演習4まであり、それぞれ2年後期、3年前期、3年後期、4年前期を対象としています。ここでは演習4を取り上げ、演習の特徴や履修学生の様子について述べます。
写真1 ブレインストーミングを行うチーム
画像・映像コンテンツ演習4(以下、コンテンツ演習と呼ぶ)のテーマは、「OpenGLを利用して、裸眼立体視ディスプレイ上で動作するゲームを作成する」というものです。ゲームの内容およびプログラムの仕様などは、各チームで学生が相談して決めます。学生にとってゲームは大変身近なものなので、作りたいもののイメージはすぐに膨らむようです。写真1は、自主的にブレインストーミングをおこなって、ゲームに関するアイディアを出し合うチームの様子です。「こういうゲームにしたい」「こういう機能を追加したい」といった意見がどんどん出て議論は進み、例年どのチームも非常に盛り上がっています。
ここで興味深いのは、ほぼすべての学生が「自分の能力で作れるもの」ではなく「作りたいもの」を作ろうとする点です。これは、通常の講義との大きな違いです。通常の講義のレポートでは、担当教員が設定したレベルをクリアするだけで満足してしまう学生が数多く存在します。しかし、大学における理想の教育は、講義をきっかけに学生が学問に興味を持ち、自分で突きつめ、探究するようになることです。教員が課題を出すから解くのではなく、「自分で学びたい、作りたいから頑張る」というコンテンツ演習における学生の姿勢は、本来の大学教育にあるべき姿であると考えられます。
通常の講義で出題される課題は、その講義で習った知識を用いれば解けるようになっていることが一般的です。一方、コンテンツ演習では「作りたいもの」が「作れるもの」であるとは限りません。これは、本来ならばプログラムの仕様を決める際に気づくべきですが、実際にはプログラムを書く時点で発覚することが多々あります。このような場合、教員から与えられた課題では「先生が答えを知っているからヒントをもらおう」と質問しにくる学生や「習っていないからできなくてもよいのだ」と開き直る学生が出てきますが、コンテンツ演習では学生が自分でゲーム内容を決めているため、「自分たちで何とかしなくてはいけない」という責任感があります。また、ひとりではできないけれど、皆で相談すればできるかもしれない、と思える点がチーム作業の長所です。
さらに、コンテンツ演習で取り組む問題には模範解答が存在しない点も、学生の自主性を引き出しています。皆で同じレポート問題を解く場合は、講義の理解度や問題を解く速さ、正確さなどを周りの学生と比べて自由に質問・議論をすることができないことがあります。一方チーム作業では、個人個人が自分の得意な作業を担当することができます。自分と周りを比較して萎縮しなくなることは、学生にとって自信につながり、自分の意見をのびのびと主張できるようになります。これが活発な議論につながっていると考えられます。
写真2 チームでのディスカッション
コンテンツ演習では、プレゼンテーションやディスカッションの機会が多い点も特徴的です。まず、各グループでどのようなコンテンツを作成するかを決めた後、教員と他のチームの学生の前で、どのような作品を作るかを説明します。教員や他のチームの学生から質問を受けることで、考え足りなかった点に気づき、新しいアイディアを得ることができます。さらに、他のチームの発表に対して気軽に質問できる場を設けることで、就職してから必ず必要となる「質問する能力」を養う機会を提供しています。
システムの設計中には、どのようにプログラムを組むべきかわからなくなることが多々あります。その場合、チームのメンバーに相談し、数人でディスカッションを行います(写真2)。これは、自分の考えていることを相手にわかりやすく伝え、相手の言っていることを正しく理解する訓練になります。多くの学生は、友人とのディスカッションを通じて、自分の説明が他者にとってわかりにくいことに気づきます。その結果、わかりやすく説明することを意識するように成長します。
コンテンツ演習のクライマックスは、OBを招いた発表会です。発表会では、各チームがポスターを用いてOBや大学院生、他のチームの学生に対して、自分のチームが作った作品について説明し、質疑応答を行います。さらに、制作したゲームを実際に体験してもらいます。毎年発表会は非常に盛り上がり、さながら学会のポスターセッションのようです。写真3はゲームのデモンストレーション、写真4はポスター発表の様子です。何年も企業で働いているOBからの質問に答えることは、学生にとっては貴重な経験であり、「社会人の視点」を学ぶことができます。学部生の頃からこういった経験を積むことで、近い将来必ず必要となるプレゼンテーション技術やコミュニケーション能力を早い時期から鍛えることができます。
写真3 デモンストレーション
写真4 ポスターセッションの風景
このように、コンテンツ演習には、卒業研究や就職後に必要となる問題解決能力、コミュニケーション能力、ディスカッション能力、プレゼンテーション技術を養う機会が凝縮されています。実際、ある履修学生は授業の感想として「自分の力が伸びていることがもっとも実感できる授業であった」と述べています。コンテンツ演習は、頑張れば頑張るほど結果となって返ってきます。また、就職してから確実に役立つと学生自身が肌で感じることができるため、高いモチベーションを維持することができます。向上心の高い学生が意欲をもって取り組むことにより、コンピテンシーを効果的に伸ばすことのできる場となっています。
ここで紹介したコンテンツ演習は、段階別コンピテンシー育成教育システムの実装科目として設置されています。中央大学におけるコンピテンシー育成の取り組みをまとめた電子書籍「科学的グローバル教育モデルとしてのコンピテンシー育成」が白門書房から出版されており、無料でダウンロードすることができます。本書は中央大学の科学的教育方法の一端を広く国内外に公開することを目的として作成されており、中学校・高校の教育関係者、企業の人事関係者にも役立つ内容になっております。
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