トップ>教育>広岡ゼミOGと現役の協力でルワンダ青年画家の絵画展を開催
廣岡 守穂 【略歴】
廣岡 守穂/中央大学法学部教授
専門分野 政治学
6月29日から7月4日まで、ルワンダ現代アート展覧会が開かれた。わたしのゼミOBの浅野麻里さん(2011年法学部卒)が開いた小さな絵画展である。
在学中から浅野麻里さんは抜群の行動力の持ち主だった。
法学部にはNPONGOインターンシップという科目がある。夏休みに2週間インターンシップを経験することを中心にした科目であるが、自分で受け入れ先のNPONGOをさがし、自分で日程交渉その他すべてをおこなうという、とことん自主性と行動力がためされるプログラムである。
浅野さんは2008年、2年生のときこの科目を履修し、バングラデシュのグラミン銀行でインターンシップを経験した。貧しい人びとへのマイクロクレジットによりノーベル平和賞を受賞した、あのグラミン銀行である。このときのことは浅野さん自身がインターネット新聞JANJANに7回にわたって記事を連載しているから、興味のある人はぜひお読みいただきたい。
翌年、浅野さんは国際貢献活動に出かけた。今度はアフリカのルワンダである。ルワンダでは1994年に内戦がおこり、100日ほどのあいだに50万人とも100万人ともいわれる人たちが虐殺された。ルワンダの人口は500万人ほどであるから、全人口の10分の1から5分の1の人が殺された計算になる。口にするのもおぞましい残虐行為が繰り広げられたことを、生存者の証言は伝えている。
ルワンダで浅野さんはひとりの青年に出会った。青年の名はリチャード・カレツキ・サファリ。新進の画家である。リチャードは好んでティーカップを題材にし、カップから立ちのぼる暖かい香気を力強く太い線で描いていた。その絵をみて浅野さんはこころをうたれた。リチャードの絵は傷ついた民族のこころを癒やそうとしている、と感じた。
自分もなにかしなければ、と浅野さんは考えた。平和のための、絵画をつうじての、日本とルワンダの交流。浅野さんはリチャードの絵を日本に紹介し、リチャードを日本に招聘したいと思った。そのためにまずリチャードの絵を20点ほど購入した。日本でその展覧会を開き、そのときにリチャードを呼びたい。
2010年、絵をたずさえて帰国した浅野さんは、画廊を回って展覧会の可能性をさぐった。しかし美術関係者の反応はおもわしくなかった。ある画廊の女主人は「平和のために絵を鑑賞するなんておかしい」と、とりつくしまもなかった。しかし国際交流の関係者は好意的だった。石川県の国際交流協会がいろいろ情報を提供してくれた。その結果、昨春、金沢市国際交流サロンで絵画展を開き、それにあわせてリチャードを招聘することができた。滞在中リチャードは、子どもたちのための絵画のワークショップを実施した。
さて今年5月、わたしは導入ゼミ(1年生対象のゼミ)に浅野さんを迎えて、これまでの活動について話してもらった。そしてそれがきっかけになって、広岡ゼミの学生の協力により大学の近くで絵画展を開くことになった。それが冒頭に述べたルワンダ現代アート展覧会である。
会場はコミュニティスペースCUORE(クオレ)。京王堀之内駅前のビルのVIA長池(1、2階がスーパーサンワ)の4階にある。コミュニティスペースCUORE(クオレ)は駅から至近で、各種教室や貸し室・貸しギャラリーなど使い勝手のよい、穴場的な雰囲気の空間である。ここにリチャードの絵が20点ほど展示された。
学生たちは絵の搬入搬出、飾り付け、受付などを担当した。浅野さんの親友の広岡ゼミOGもわざわざ遠方から駆けつけてくれた。
入場者は約200名。準備したポストカードは完売した。
ミニコミ紙や新聞で知って訪れた人が多かった。みんな「このあたりで展覧会なんて珍しいから…」と言っていた。もちろん「ルワンダのアートということが珍しい」という声も多かった。
ゼミ生の長井愛さんは会場に来た人の声を聞いた。長井さんによれば、来ていた人の感想の中で多かったのは「アフリカの絵はもっとビビッドなはっきりした民族的な絵だと思っていたが、想像していたのとは違っていた」というものだった。「昔の日本の風景とどことなく似ている」「色使いが沖縄の美術に似ている」と語った人もいた。
長井さん自身は、「私も展覧会の絵をみたがその中でも特に印象に残った絵は、『dancing lady』である。この絵には、人は楽しいとき、うれしいときに踊るだけではない。悲しいときだからこそ踊ることもあるのだというメッセージが込められている。私は、元々ダンスをやっていて、実際に先日までダンスで日常生活で起こったつらいことを発散していたので、共感できる部分があった」と語っている。
ルワンダのいまはどうか。浅野さんによれば、いまではインフラ整備もすすみ緑豊かなきれいなまちなみが広がっているということである。
「ルワンダの若者がどんな絵を描くのだろうと、足を運んでくださった来場者の方々の中には、鮮やかな色使いを想像していたアフリカの絵とは違い、淡く柔らかい色使いが印象に残ったと言ってくれた方もいました。
ひとつひとつの絵に込められる平和への想いを知って涙を流す人もいました。
アーティストの気持ちを、言語を越えてアートから感じ取ってもらえたことがとても嬉しかったです」と浅野さんは展覧会を振り返っている。
ルワンダ現代アート展覧会はゼミ生やゼミOGの協力でなんとか開催することができたのだが、その一方で学生たちにとっては、またとない実践的なまなびの機会だったと思う。
法学部の学生には卒業論文が課されているわけでもないし、卒業制作が課されているわけでもない。試験を受けて単位を取る。それが法学生の「まなび」のかたちである。いわゆる「うけたまわり学習」であって、理学生の卒業研究や美大生の卒業制作のように、なんらかの成果物をつくりだすという学習スタイルではない。
浅野麻里さんというOGは、後輩のためにとても良きまなびの場を提供してくれた。教師であるわたしには、このうえなくうれしい経験だった。