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教育一覧

眞鍋 倫子

眞鍋 倫子 【略歴

教職課程の学生たち

眞鍋 倫子/中央大学文学部准教授
専門分野 キャリア教育論、生涯学習論

教育実習の季節

 毎年5月・6月は、教育実習の季節でもある。自分たちの学校生活を思い返すと、風物詩のように、ほぼ毎年、実習生が来ていたことを思い出す方も多いのではないだろうか。普段から学校にいる先生たちとも違い、若くて、ちょっと頼りないお兄さん・お姉さん先生として、たどたどしくはあるものの、一生懸命で印象深いこともあったように思う。

 私は、本学に着任して以来、毎年実習の指導教員として教育実習にかかわってきた。前任校が教員養成系の大学であったこともあり、実習生とのお付き合いは長い。そんな私にとって、この実習期間は、ふだんとは少し違う緊張感の中で過ごす日々になっている。

 教育実習は、教職課程の学生たちが、教員免許を取得するための集大成として、現場の学校で3週間を実習生として勤務するという科目である。あくまで大学内の科目であるのだが、実際の活動は学校現場で行われ、受け入れ学校の先生方に指導していただくことになる。大学の教員も事前指導や事後指導をするし、学生の研究授業を見学したり、日誌を見たりして、実習がうまくできたかを判断していく。最後の段階で、大学と教育現場が協力して、教員を養成する仕組みになっているのである。

中央大学の教職課程とは

 本学では中学校と高等学校の教員免許状が取得できるので、学生たちは、このどちらかの学校種で実習をすることになる。自分の母校で実習するものもいるが、都内では「指定校」と呼ばれる学校で実習するものも多い。指定校の場合には、初めての学校へ行くことになるため、学生の緊張感も強い。

 毎年、本学から実習に参加するのは、多摩校舎で300人弱、後楽園校舎では100人弱で、合わせて400人近い数になる。これだけの数の実習生を送り出す大学は、教員養成系の大学を除くととても少ない。

 教員養成系の大学ではない本学では、もともと所属している学部のカリキュラムにプラスする形で教職課程がおかれ、教員が養成されている。教職課程に在籍する学生は、専攻を卒業するために必要な単位よりも多くの単位を取得する必要がある。教職科目には、「教職に関する科目」「教育に関する科目」「教科に関する科目」といった科目群があり、それぞれにかなりの単位を取る必要がある。本学の教職課程は、2年次からスタートするため、4年次に教育実習に参加するまでの2年間で、必要な科目を履修することになる。そのため、自分たちの専攻の授業を受けながら、教職もとるとなると、かなり忙しい2・3年生を過ごしている学生が多い。

 さらに、中学校免許を取得する場合には施設5日間、学校2日間あわせて7日間の介護等体験に参加することが義務づけられている。中学校免許をとる場合には、この介護等体験と、実習参加要件となる科目の履修が終わっていないと、実習に参加することができない。そんなわけで、実習に参加するところまでたどり着くのは、学生たちにとってかなり大変なことである。実習にたどり着く前に諦める学生は少なくない。

実習に向けたオリエンテーションの重要性

 そうやってたどり着く実習だが、実習の1年ほど前から、7回ほどある実習にむけたオリエンテーションに参加する必要がある。オリエンテーションという名前になってはいるが、実は実習の事前指導という大切な授業である。オリエンテーションは、それぞれ複数回開催されるが、無断欠席や遅刻をすると、その場で実習の取り消しとなるという厳しい条件がついている。私の前任校である教員養成大学では、この「事前指導」はすべて月曜日の朝8時50分から始まる1限に開講されており、スーツ着用で参加することが要求されていた。大学生活では、多少時間にルーズであっても許されることが多いが、ひとたび実習生として勤務することになればそうはいかない。そのために、かなり厳しい指導をしているのである。

 学生としては、せっかく大学に来たからには何か一つ資格を取っておこう、という軽い気持ちで始める教職課程であることも多い。卒業前に採用試験を受ける学生は、教職課程に在籍する学生の中ではむしろ少数派かもしれない。一般企業や公務員になるために就職活動をしながら、実習をする学生も多い。そういう意味では、気軽な気持ちで実習に臨む学生が多いのも事実である。しかし、実習に学生を送りだす側としては、ことはそれほど簡単ではない。教職は、子供達の教育に携わる職業である。昨今の多忙な教育現場においては、実習生を受け入れ、指導をしてくださる学校の負担は非常に大きい。にもかかわらず、実習先の学校の先生方は、「後進を育てるためですから」と、時間や仕事をやりくりして、指導をしてくださっているのである。オリエンテーションを通じて、実習に向かうための心構えを作り、実習経験者や現場の先生方に来ていただいて、実習のイメージを持ってもらう。

いざ実習へ-「教員」として現場に向かう

 実習生は「教員」の一員である。学生にとって見なれた学校の風景や学校での生活は、「生徒として」その場にいたときに見なれた風景であり、学校生活である。実習では、そういう慣れ親しんだ場で「教員として」生活することになる。学校へ出勤し、出勤簿に印を押す。生徒たちの出席管理や、配布物の手配を行う。授業の準備をして、実際の授業を行う。また、ホームルームの担当もする。最近では、体育祭が実習の時期に重なる学校も多く、体育祭の準備や当日の運営といった仕事もある。実習先や学生によっては、部活動の指導も手伝うこともある。どれも、これまで経験してきた学校生活と同じ風景だが、立場が違うと見えるものも違ってくる。そんな3週間の実習生活を送った後、帰ってきた学生たちは、ひとまわりもふたまわりも成長した姿を見せてくれることが多い。実習期間を終えて、報告に来る学生たちは、実習の最終日に、生徒たちがお別れ会をしてくれたこと、寄せ書きなどをもらったこと、授業や放課後、行事や部活などでの生徒たちの姿などを、本当に楽しそうに話してくれる。「もうこのままずっと学校にいたかった」といって帰ってくる学生もたくさんいる。それまで教職に就くかどうか迷っていた学生が、「やはり、教職目指します」と思いを強くして帰ってくることもある。逆に「楽しかったけど、自分には向いていない」と認識を新たにして帰ってくる学生もいる。それぞれの実習経験が、その後に活きているといえるだろう。

実習生のその後

 このようにして実習を終え、教職課程を修了して教員免許を取った学生のうち、実際に教員となった卒業生は、例年20-30人ほどおり、これまでの卒業生を合わせると2000人を超える。今年も30人以上の卒業生が、採用試験に合格したり、合格には至らなかったものの、常勤講師や非常勤講師として採用され、教員としての生活をスタートさせている。学校現場で彼らを待つ現実は厳しいところもあるが、彼らのこれからに期待したい。教員免許は取ったけれども、教師になるのとは別の道を選んだ学生たちも、今後の人生の中で、教育的な活動をすることも多いだろう。また、仕事としてではなく、自分の子どもたちを育てるときには、再び学校とかかわることになる。その時には、ぜひ教職課程で学んだことを思い出して、学校と協力して子どもを育てる親になってもらえるとうれしいと思っている。

眞鍋 倫子(まなべ・りんこ)/中央大学文学部准教授
専門分野 キャリア教育論、生涯学習論
京都府生まれ、京都大学大学院教育学研究科博士後期課程満期退学。
趣味は料理(といっても、凝ったものは作りません。普通のご飯をつくっています)。人と出会うこと。