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トップ>教育>附属4校英語スピーチコンテスト ― 中央大学の附属学校における英語および国際理解教育について

教育一覧

三枝 幸雄

三枝 幸雄 【略歴

附属4校英語スピーチコンテスト
― 中央大学の附属学校における英語および国際理解教育について

三枝 幸雄/中央大学附属中学校・高等学校校長、法学部教授
専門分野 16世紀・17世紀英文学 他

英語スピーチコンテスト(三枝幸雄)

 第5回中央大学附属4校英語スピーチコンテストが1月14日に中央大学杉並高等学校で開催され、附属4高校と附属2中学校から選抜された生徒諸君が様々な問題をテーマに英語のスピーチを行った。このコンテストは、それまで学校単位の交流がなかった附属3高校の交流を深めるために、持ち回り開催という形で2007年度から始まったもので、2009年度からは横浜山手が加わり、各校の代表が「中央大学総長賞」をめざし日頃の学習成果を競っている。さらに、2010年度からはエキシビションとして中学部門が設けられ、附属中学校と横浜山手中学校の生徒がレシテーション(暗誦)を行っている。

 中央大学の附属4校は、長い歴史の中で、中央大学の基幹学生の育成という目標を共有しながら、それぞれ独自の校風を築き個性豊かな教育を行ってきた。「スピーチコンテスト」は、このような附属4校が、互いに刺激しあい、高めあう貴重な機会となっている。今後は、国際的な視野を持って様々な問題について考え、英語で自分の考えを発信しようとする高いモチベーションを持った生徒を育てるために、大学にも理解と協力を求め、このような企画をさらに有意義なものに育てていくことが重要であろう。

 ここでは、附属4校の英語教育、国際理解教育および「スピーチコンテスト」に関する取組について各校から取材したものを、附属高校池野良男教頭と附属中学校矢島賢太郎教頭に紹介していただくことにする。

附属4校の取り組み(池野良男・矢島賢太郎)

池野 良男

矢島 賢太郎

中央大学高校

 中大高校は、英語教育における最大の取り組みとして、生徒全員に英語検定試験2級合格を目指して英検講座を受講させており、現在、卒業までに9割以上が目標を達成している。また、必修科目の英語オーラルコミュニケーションでは、10数名の少人数クラス編成で、ネイティブの先生による授業を展開し、SpeakingとListeningの向上を図っている。ReadingとWritingについては日本人教員が、英語基礎力の獲得を前提に高度な英文を理解し、論理的な英文を書く力をつけさせるために、工夫を凝らした授業を展開している。

 さらに、第2外国語として、2年次から中国語初級とフランス語初級を、3年次ではそれぞれ中級クラスを選択可能とし、大学での第2外国語教育へと繋げている。

 また、異文化理解教育の面では、夏季休暇中に、希望者を対象としてオーストラリア短期留学を実施しており、参加した生徒たちの多くが英語への興味をさらに強くしたり、異文化への関心を高めたりと大きな効果をもたらしている。

 「スピーチコンテスト」は、身近な事柄から社会問題に至るまで、高校生が日頃感じ、考えていること、訴えたいことを英語で表現することにより、自分の考え方を見つめ直すための、また論理的思考力や表現力を高めるための機会として有意義な企画であると考え取り組んでいる。校内予選出場者たちは、原稿作成の段階で先生方から表現の誤りや論理上の弱点や矛盾を指摘されたりして、苦労しながら原稿を完成させており、この過程が生徒の英語学習に非常に有効に作用している。今後、より多くの生徒が本コンテストに応募し英語力に加えてプレゼンテーション能力の向上を目指すことを期待している。

中央大学杉並高等学校

 杉並高校で力を入れているのが、多言語教育と国際理解教育である。本校では、英語に加えて中国語、ドイツ語、フランス語、そして韓国語まで学ぶことが可能である。また、視野を世界に向けさせるための海外との交流も盛んである。韓国・中山(チュンサン)高校とは毎年相互訪問を実施している。また、オーストラリアのユニティカレッジとは隔年で相互訪問を実施している。さらに、3年次進路決定後の2月に、大学入学前の集大成として、オックスフォード大学で専門的な科目を英語で学んだり、オックスフォード大学生と意見交換をしたりする生徒もいる。いずれの交流プログラムにおいても、生徒たちは現地での授業に参加し、授業外でも生徒同士で日本語、韓国語、英語を交えながら会話をし、異文化交流の醍醐味を味わっており、共通語としての英語の役割を認識するよい機会となっている。

 このような、まず英語を学ぶ意味を理解して、英語で学ぶことのできる力を養っていく過程が、「スピーチコンテスト」の結果に反映されていると思われる。本校の生徒は、コンテストのテーマに、環境問題、人種差別、国際協力など社会や世界に目を向けたものを選ぶことが多いが、これは、生徒たちが英語という言語を通して学んだことや感じたことをテーマに選んでいるのである。本校では、「スピーチコンテスト」は、英語学習の過程で得たものを英語で発表する場であると考えている。これまで「スピーチコンテスト」において3度総長賞を獲得しているが、これには国際理解教育への取り組みが大きな役割を果たしていると思われる。

中央大学附属中学校・高等学校

 附属中・高では、グローバル化に対応して英語教育および国際理解教育を重視し、英国のボーンマスでの3週間の語学研修・ホームステイや豪州・アデレードのスコッチカレッジとの隔年相互交流などを実施してきた。さらに、来年度からは中国の中学・高等学校との交流計画も予定している。また、2011年度からは特別任用講師として採用した外国人教員が、中学校の発信型英語教育において大きな役割を担っている。

【中学校】 教科書の音読・暗誦・スピーチなどの指導のほか、NHK「基礎英語」を家庭で毎日聞かせる指導や洋書の多読指導を自律学習の試みとして行っている。また、中学開校と共にスタートしたProject in Englishでは、中1で「中附中を知ろう」、中2で「地域社会を知ろう」をテーマに、ネイティヴスピーカーの指導の下で個人やグループ単位でのプロジェクトを完成させる授業を行っている。これは高校2年まで5年間継続するプロジェクトで、生徒たちが調べて分かったことを英語で発表する力を養うことを目標にしている。「スピーチコンテスト」でのレシテーション参加は、このような日々の授業実践を踏まえたものであり、実際の発表の場として格好の機会となっている。

【高等学校】 読解と文法事項の導入に偏りがちな「総合英語」に、音読テストや、基本例文の口頭英訳などを導入することで、「音声」「形式」「意味」の一体化を重視した授業展開をしている。また、3年間でスピーチ、スキット作り、ディスカッション、ディベイトなど実践的な指導を行っており、Writingの指導を英語による発信力を目指す教育を支える柱の一つとしている。Essay Writingという科目では、より社会的でdebatableなテーマ、例えば環境・政治・文化などを選び、説得型エッセイを最終産物としている。そのため、1・2年次より、文単位からパラグラフ単位での英文を書く指導を段階的に行っている。

 今年度の「スピーチコンテスト」では、本校1年生が審査員特別賞の「内容・構成部門」を受賞したが、これは、発信力とともに内容と構成の充実を求める授業実践の成果であると確信する。

横浜山手中学校・高等学校

 横浜山手は中央大学の附属高校として新たな歩みを踏み出したばかりであり、現在、英語教育をはじめ様々な改革に取り組んでいる。「スピーチコンテスト」に関しては、2009年にエキシビションとして参加し、今年2011年度から正式参加となった。

【中学校】 普段の授業で重視していることの一つは音読指導である。文法説明を最小限にして意味理解をさせた後、音読を繰り返して英語を英語のまま呑みこませる。これは同時通訳の草分け、國弘正雄氏の言う「只管朗読(音読)」の実践でもある。これに加えて、Listening, Reading, Speaking, Writingの四領域すべてに亘るタスクやアクティヴィティを毎時間の授業にinput → intake → output という流れで組み込むよう努めている。

 このような中で身に付いた力を検証する場が、授業内発表、全校発表、そして「スピーチコンテスト」であると考えている。

【高等学校】 高校の授業でも音読指導に意識的に取り組んでいる。これは学年が上がるに従ってinput中心になりがちな英語学習を、outputの方向にも向かわせるためである。素材の英文の内容理解のもとに、ShadowingやRepeatingに取り組ませるのであるが、素材が長くなると、こうした活動に十分な時間を割くことは難しくなってくる。それでも授業の中に敢えて取り入れることで、家庭学習でも音読練習を意識的に行う習慣が身に付いていく。Role PlayingやRecitation、Speechなどの形で行っている授業内発表では、このような音読指導の成果が着実にみられる。

 「スピーチコンテスト」参加準備も、このような指導の流れに取りこんでいる。夏休みの課題としてSpeech原稿を書き上げ、秋の授業で発表してクラス代表を決定した後、全校最終予選会を行う。そこで優勝した生徒が「スピーチコンテスト」に参加することになる。今回、幸いにも本校代表が総長賞を受賞することができたが、これを励みにして、今後、生徒全体の英語力の底上げを図っていきたい。

 

‘Beyond All Chuo’ に向けて(三枝幸雄)

 附属4校は、生徒が、グローバル化した社会で活躍するために必要な基本的能力を身に付け、大学でさらにその能力を高め、将来社会に貢献できる人材となることを願って、それぞれ独自のアプローチで、英語(外国語)教育・国際理解教育に取り組んでいる。このような取り組みは、大学における同様の取り組みと有機的に連携することで、生徒・学生のモチベーションも高まり、より効果的なものになることは明らかであろう。そのためには、大学と附属4校がこれまで以上に情報交換に努め、新たな連携に向けて努力することが急務である。「スピーチコンテスト」終了後、毎年ジャッジを引き受けてくれる中央大学の専任外国人教授(今回は4名)と、参加した生徒や中・高の教員たちが懇談する場に立ち会いながら、大学にも籍を置くものとして、大学側から提供する中・高生徒に対するインセンティブのあり方を検討する必要があると強く感じた。

 附属4校英語スピーチコンテストは中央大学総長の提唱する‘Beyond All Chuo’に向けた附属学校4校の一つの取り組みであるともいえるが、附属学校がその一翼を担うためには、大学とのより実質的な協力関係の構築が不可欠であり、近い将来それが実現することを切に願っている。

三枝 幸雄(さいぐさ・ゆきお)/中央大学附属中学校・高等学校校長、中央大学法学部教授
専門分野 16世紀・17世紀英文学
千葉県出身。1978年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。1978年長岡技術科学大学専任講師、1983年中央大学法学部助教授、1990年中央大学法学部教授を経て2008年より現職。研究分野はエリザベス朝・ジェイムズ朝の演劇とその社会背景。主要著書に『イギリス・ルネサンスの諸相―演劇・文化・思想の展開』(共著、中央大学出版部)等がある。
池野 良男(いけの・よしお)/中央大学附属高等学校教頭
東京都出身。1998年東京学芸大学大学院教育学研究科英語教育専攻修了。1970年中央大学附属高等学校教諭を経て2008年より現職。担当教科は英語。
矢島 賢太郎(やじま・けんたろう)/中央大学附属中学校教頭
東京都出身。1980年同志社大学大学院文学研究科(英文学専攻)博士課程(前期課程)修了。1979年中央大学附属高等学校教諭を経て2010年より現職。担当教科は英語。