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教育一覧

間島 進吾

間島 進吾 【略歴

学生諸君よ、大いなるチャレンジ精神を持て

間島 進吾/中央大学商学部教授
専門分野 監査論、国際会計論、英文会計論

公認会計士から大学教授へ

 私は、米国のBig 4(4大監査法人)のひとつであるKPMG LLPのニューヨーク事務所で約30年の会計・監査実務を経て、2006年4月から母校である本校で教鞭をとっている。

 1975年8月にニューヨークに行く前は、公認会計士として監査実務を行う傍ら、日本公認会計士協会の実務補習の担当として、公認会計士第2次試験に合格したばかりの会計士補の教育に携わっていた。この実務補習で、私は、日本の企業が海外進出を積極的に推し進めている中で、これからの公認会計士は、海外に出て貴重な経験を積む必要があると説いていた。このことを自ら実行するかたちで当時、Big 8(8大監査法人)といわれていたピート・マーウィック・ミッチェル(KPMG LLPの前身)のニューヨーク事務所の門を叩いた。当初は3年からせいぜい5,6年のニューヨーク勤務を考えていたが、そこでの会計・監査実務がとても面白く、中身の濃い経験を重ねているうちに、気がつけば、パートナーシップ契約規定の定年に近づいていた。私は、もともと大学で教鞭をとることに興味を抱いていたこともあるが、それまでに日本と米国で研究してきたこと、経験してきたことを次の世代の若者たちに教えたいという思いが日増しに強くなっていった。そんな矢先に、中央大学からも教授としてのお誘いがあり、それを引き受ける決意をした。

 私は、ゼミや授業で学生諸君に私の実体験を話し、大学時代にチャレンジ精神を発揮し勉学に励むことがいかに大切であるかを説いているが、ここではその話を中心にして筆を進めたいと思う。

30年前の「ミラクル」

 今から30年も前の話である。

 1980年にレークプラシッド冬季オリンピックがニューヨーク州で開催されたが、その約一ヶ月前にニューヨーク、マンハッタンのマジソン・スクウェアガーデンでUSチームとソビエト連邦チームによるアイスホッケーの練習試合を観戦する機会に恵まれた。当時、ソビエト連邦チームは世界最強といわれ、それまで冬季オリンピックで4連覇し、無敵と称されていた。一方、USは大学生で構成された、未知のチームであった。試合が始まると、案の定、ソビエト連邦チームはUSチームを軽くあしらい、まるで大人と子どもの勝負のように大差をつけて圧勝した。

 ところが、その一ヵ月後にオリンピックが開催されると状況は一変した。USチームは、予選リーグの試合で勝利を重ね、勝利を重ねるたびにチーム内に自信が生まれ、試合ごとに強くなっていったのである。予選リーグでは、4勝0敗1引き分けの第2位で決勝ラウンドに進出した。決勝ラウンドでも、勝利を重ね、さらに強くなっていき、とうとうソビエト連邦チームとの対戦となった。私もテレビでこの試合を見ていたが、一ヶ月前のUSチームとは別のチームと思えるくらいに選手が大きく見え、堂々と試合に挑み、互角の戦いぶりであった。結果は、なんと、あのソビエト連邦チームを4-3で下し、決勝ラウンドで他のチームとの対戦成績を含め、2勝0敗1引き分けで、つまり、予選リーグ及び決勝ラウンドを無敗のまま、見事、金メダルを獲得したのである。大学生チームが一丸となって、精進を重ねて自信を持って掴み取った勝利に米国中ばかりでなく世界中が酔いしれた。このことは、その後、氷上の奇跡と称され、「ミラクル」というタイトルで映画化もされた。

 また、これに関連して、不思議な縁を感じる出来事があった。KPMGのパートナー会議が毎年フロリダのオーランドで開催され、いつも著名なゲストを迎えていたが、この冬季オリンピックの二十年後くらいのある年に招待されたゲストスピーカーが、何とあのUSチームキャプテンであったのである。彼は、当時の状況を熱く語り、私もあの日の出来事を昨日のように思い出したのである。

若い君たちへ

 私はこのエピソードを学生諸君に話し、次のように語りかけている。このエピソードは、単なるミラクルではない。大学生の時代に大いにチャレンジ精神を発揮し目標を設定し、日頃からその目標に向かって精進を重ねれば、それが大きな自信を生み凄い勢いで成長する。ちょうど、その最中に皆さんがいるのですよ。春先の雨の降った翌朝に、筍がニョキッと伸びるように自分自身でもそのことがきっと体感できますよ。勉学に励むのに、今が一番大事な時期なのですよと。

 さらに、学生諸君に説いていることがある。それは、「できるだけ若いうちに、海外に行きなさい」ということである。海外で異文化や異人種にふれ、考え方や視点の違い、ビジネスの捉え方などに肌で触れる機会は、非常に貴重な経験である。外に出て、苦労してたとえ恥をかくことがあったとしても、それがやがてどんなことでも乗り越えられる精神力につながる。そのためにも、語学力、とりわけ英語力は必須といえる。「読む力」「書く力」「聞く力」「話す力」と、この四つの力からなる総合的な英語力を身につけ、コミュニケーションスキルを磨く機会を大いに持つ必要がある。これからの社会はそういった人材が、より強く求められていくことは間違いないと。

 最後に、もうひとつ、学生諸君、特にゼミ生に説いていることがある。日本の会計基準及び国際会計基準だけを学ぶのではなく、政治、経済、会社法、税法、ビジネスなど、会計学の周辺を学ぶことによって会計学の勉強も生きてくると。近視眼的、あるいは狭い視点で物事を捉えるのではなく、いろいろな角度から物事を捉え、柔軟なものの見方が必要であると。そのため、ゼミの合宿では、会計以外の研究課題を取り上げ、皆で議論している。「会社は誰のものか」、「コーポレート・ガバナンス」、「リーダーシップ論」、「人事管理」、「起業と新規上場」などが過去に議論されている。また、世界で活躍している人を年に2度ほどお招きし、スピーチをお願いしている。成功者に共通するものがあるが、それは飽くなきチャレンジ精神と強運の持ち主であることと思われる。強運を引き寄せるのも本人の精進の積み重ねといえる。多くのサクセス・ストーリーを聞く機会を持つことによって、ゼミ生の今後の人生設計に大いに役立つのではなかろうか。

 そして、ゼミ生のコミュニケーション・スキル及びプレゼンテーション・スキルをつけさせるために、ゼミでは、ゼミ生が単に一方的に発表するのではなく、ゼミ生が発表したことについて、まず各グループ内で議論し、グループごとにプレゼンを行なわせたうえで全体の議論を行なっている。議論では、相手の言うことをよく理解したうえで、自分の意見を言い、ひとつの望ましい結論が出るように指導している。もちろん、論題によっては結論が必ずしも出ないものもある。ゼミでは、できるだけ多くのゼミ生が発言できるような雰囲気になるように努力している。最初は恥ずかしがったりして自分の意見を言えないゼミ生も経験を重ねることによって、プレゼンテーション・スキルも自信とともについてくる。

ゼミ生の活躍

 間島ゼミは、これまでに、ゼミ3期生までが卒業し現在の3年生が5期生という、まだ若いゼミであるが、ゼミ1期生が4年生の時に、日本経済新聞が将来の経営者を育てるという目的で作られた「経済知力テスト」の第1回目の大学ゼミ対抗戦に参加して、個人及び団体ともに他大学のゼミを大きく引き離して優勝している。また、3期生までの卒業生のうち、20名を超えるゼミ生がすでに公認会計士として大手監査法人等で活躍している。また、一般企業に就職し活躍している卒業生にも思いを馳せ、彼らの活躍ぶりを目の当たりにするとき、教育者冥利につきると思う。

 この激動の時代に、「学生諸君よ、大いにチャレンジし、自分の道を切り拓きなさい」という想いをこれからも直接的、あるいは間接的に学生諸君に伝えていきたい。

間島 進吾(まじま・しんご)/中央大学商学部教授
専門分野 監査論、国際会計論、英文会計論
1946年生。東京都出身。1971年、中央大学大学院商学研究科終了。1972年公認会計士事務所設立。1975年、KPMG LLPニューヨーク事務所入所。1987年、監査部門パートナー就任。1997年、日本関連事業部監査部門全米代表。日本・米国(ニューヨーク州)公認会計士。2005年、KPMG LLP定年退職。2006年4月より現職。専門は国際会計論/監査論。現在の研究課題は、日本の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)とのコンバージェンス(収斂)などである。
主要著書等に「コンメンタール国際会計基準」(税務経理協会)、「アメリカの会計百科」(有斐閣)、その他論文多数。2006年から2010年まで、公認会計士試験委員(監査論)。