主催/読売新聞社 共催/一般財団法人あんしん財団
後援/文部科学省

広告企画・制作 読売新聞イノベーション本部

椰月美智子さん

キラキラとした感性に、
胸を揺さぶられました。

小説家椰月美智子さん

【profile】 会社員として働きながら、2002年に『十二歳』で児童文学の新人賞を受賞してデビュー。他の代表作に『しずかな日々』『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』など。二人の子どもがいる。

10回目を迎えた「『ありがとう』感謝の心を、未来へつなぐ。」こども作文コンクール。今回初めて選考委員を務めた小説家の椰月美智子さんに、「文章を書く」ことへの想いや、小学生たちの作文に対する感想をお話しいただきました。

小説家への道につながった
小学生時代の「書く喜び」

椰月先生が小学生だった頃は、作文や「書くこと」とどのように向き合っていたのでしょうか。

私は勉強が苦手な子どもでしたが、作文は好きでしたね。なぜなら、「書くことは自由だ」と感じていたからです。算数の問題を解くのと違って、文章はルールや公式を覚えなくても書ける。それに、実際に経験したことや、目の前にあるものはもちろん、自分が想像する未来や、空想の出来事も題材として表現できますよね。だから、読書感想文や日記の課題には前向きに取り組めました。

その後、これといった夢もないまま大人になり、会社員として働いたのち家業の手伝いをしていたのですが、どうしても「この仕事が自分に合っている」とは思えずにいました。そんなある時、一緒に飲んでいた友人に、ふと「仕事も上手くいかないし、こうなったら小説でも書いてみようかな」とこぼしたんです。すると相手から「あなたなら絶対に小説家になれるよ」という言葉が返ってきて、驚きました。というのも、当時の私は小説ばかりか、創作活動の経験が全くなかったのです。

この言葉をもらった次の日から執筆を始めました。そして、幸運なことに2作目で出版が決まったのです。自分でも不思議なデビューの経緯ですが、幼い頃からの「書き物好き」を、友人が見抜いてくれたのかもしれません。

椰月美智子さん

真摯に書かれた応募作の数々。
子どもたちの感性と熱意に驚いた

作文コンクールの選考をするのは今回が初めてだったそうですが、たくさんの作文を読んでみて、いかがでしたか?

まず、応募作のレベルの高さに衝撃を受けました。日本全国に作文が得意な子どもたちがたくさんいて、一人ひとりが熱意をもってこのコンクールに参加してくれていることが伝わってきました。

本コンクールには「身近なはたらく人へ、ありがとう」「あこがれの仕事、かなえたい夢」という二つのテーマがあります。それぞれのテーマに寄せられた作文に対しての感想をお聞かせください。

まず「身近なはたらく人へ、ありがとう」をテーマにした作文についてですが、文章を書くことを仕事にしている大人の私でもハッとさせられるような作文がたくさんありました。特に惹かれたのは、ある出来事に出会ったときの自分の感情をリアルに表現している作文です。

自分自身、小説を書くときはどうしても「上手く書こう」「つじつまを合わせよう」と思ってしまいがちです。しかし、「構成が巧みでなくても、その人ならではの感性が反映されている文章であれば、人の心を動かせるのだな」と改めて感じました。

一方、「あこがれの仕事、かなえたい夢」の作文には、「この職業に就きたい」「大好きなことを突き詰めたい」という素直で強い思いを持っている子どもたちがこんなにもたくさんいるのかと、深く感銘を受けました。

いつかその夢は変わるかもしれないし、挫折しそうになる時もあるかもしれない。けれど、自分の中の「最初の情熱」を形あるものとして残すのは、とても素敵なことだと思います。いつか読み返すときに、夢を叶えるためのエネルギー源になるのではないでしょうか。

椰月美智子さん

上手じゃなくても大丈夫。
思うまま書けば、「宝物」になる

作文コンクールが開催される意義について、椰月先生はどうお考えですか?

今回改めて思ったのは、こうした発表の場があるから、すばらしい作文がたくさん書かれるのだということです。私自身、小説家として最も喜びを感じるのは、作品を人に読んでもらって共感の感想が寄せられた時です。子どもたちも、多くの人に読んでもらえる機会があるからこそ、熱心に作文を書けるのだと思います。子どもの頃の私自身も、コンクールや宿題などのきっかけがないと、何も書かなかったですしね(笑)。

最後に、小学生のお子さんや、その保護者の皆さまに、メッセージをお願いします。

いまは作文が嫌いな子でも、コンクールに応募してくれたらうれしいです。私のように、子どもらしい感覚や言葉使いに惹かれる選考委員もいますから、保護者の方も「整った文章を書かせよう」とやっきになる必要はありません。「なにか自由に書いてみなよ」「あなたにしか書けないものがあるんだよ」と励ましてあげるだけでいいんです。

そして、書いてみようと思い立った時に大切なのは、既定の文字数を書ききることです。例えば、このコンクールの規定なら1200字。それだけの文字を書こうとすれば、「うれしい」や「楽しい」だけでない、もっと豊かな感想や思いが自然に出てくるはずです。

教科書通りの内容でなくても、その子のきらめく感性が文章という形で記録されること自体がすばらしいのです。そして、多くの子どもたちに、文章を書くことの楽しさを知ってもらいたい。そのきっかけとして、この作文コンクールに応募してもらえたらうれしいです。

あんしん財団