2014年9月1日
2020年に開催される東京五輪・パラリンピックをきっかけに、活力ある日本を作り上げていく道筋を考える「未来貢献プロジェクト」(主催・読売新聞社、後援・国土交通省)のシンポジウム「大規模災害から都市を守る」が8月6日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。ここでは一般対象のパネルディスカッション「住民の備え」(協賛・旭化成ホームズ)の模様を紹介する。
パネルディスカッション「住民の備え」
【パネリスト】
池内 幸司氏(国土交通省水管理・国土保全局長)|
「怖い地下街浸水」
小柳 堅一氏(墨田区防災まちづくり課長)|
「住宅改修ポイントを紹介」
小山 雅人氏(旭化成ホームズ 住宅総合研究所マネージャー)|
「燃えにくい建材活用」
林 春男氏
【コーディネーター】
政井 マヤ氏(フリーキャスター)|
「準備が大きな力に」
堀井 宏悦(読売新聞調査研究本部主任研究員)
怖い地下街浸水
池内 幸司氏(国土交通省水管理・国土保全局長)
災害は地震だけではない。水害のリスクも知ってほしい。首都圏では1947年、カスリーン台風を受けて埼玉県で発生した水害が利根川を下り、1都5県で死者約1080人、行方不明者約850人を出した。当時より治水能力は上がったが、今でもまだこのクラスの台風は制御できず、同じような水害が起こる可能性がある。
特に心配なのは地下鉄や地下街の浸水だ。2012年に米国のニューヨークをハリケーン「サンディ」が襲った際、深さ30~40メートルの地下鉄のほとんどが水没した。東京の地下鉄や地下街の大半は一体的な空間となっており、1か所から大量の水が入れば広範囲にわたって被害が広がる恐れがある。
ニューヨークの場合、襲来を想定して事前に対応する「タイムライン」という手法で、地下鉄の運行に必要な電子機器類の浸水を避け、即座に復旧した。日本でも今年からタイムラインを取り入れ、台風が来る時刻を想定して事前に対応する取り組みを始めている。
皆さんにも、身近なリスクとして水害を念頭に置いてほしい。高さがあって安全な建物などをしっかりと頭に入れ、どこに逃げれば安全か、普段から意識しておくことが重要になる。
最近は異常な降雨も増えており、国も防災に力を入れている。例えば、洪水の場合にはここに水が来るということを示す看板もあちこちに設置する。きめ細かく緻密な情報を出せる雨量計も国土交通省が導入した。防災教育なども通じ、被害を最小限にする取り組みを続けていきたい。
住宅改修ポイントを紹介
小柳 堅一氏(墨田区防災まちづくり課長)
東京スカイツリーがある墨田区は、関東大震災や東京大空襲の被害を免れた北部に、古い木造住宅が密集している。首都直下地震による倒壊や火災の危険性が高い地域だ。
対策として区は1979年、燃えにくい鉄骨造りなどへの建て替えを助成する制度を全国に先駆けてつくった。住宅などの建築面積のうち70%が燃えにくければ、街全体への延焼を食い止められるとされ、目標にしている。
ただ、北部では2012年度末で56・9%にとどまり、伸びも鈍っている。高齢化が進み、数千万円の負担をちゅうちょするケースが多いことなどが要因だ。対策として、一部の地域では、建て替えよりも負担が小さい改修でも助成金を出すことにした。
助成金の対象は、耐震性を高め、同時に燃えにくくする改修だ。区内には、どのような改修が必要か地域の人たちに紹介する建物「ふじのきさん家」もある。篤志家から提供を受けた建物を建材メーカーなどの協力を得て改修し、工法などを紹介している。地域の人たちが運営し、一部は住民が自由に使えるスペースとしても活用されており、防災への関心を高めるきっかけとして期待している。
改修や建て替えを検討する場合、誰に相談すればよいか悩む場合も多い。区内には建築事業者らでつくる「耐震補強推進協議会」もあり、耐震化の相談に無料で応じている。古い建物にお住まいの方は、一定の費用は必要だが、耐震化、防火化で災害に強い建物作りにぜひトライしてほしい。
燃えにくい建材活用
小山 雅人氏(旭化成ホームズ 住宅総合研究所マネージャー)
地震に強い街作りの基本になるのは住宅だ。住宅メーカーとして、揺れに強く、燃えにくい建材を使った住宅を勧めたい。
地震で住宅に被害を与える要因は四つ。揺れ、地盤の液状化、火災、津波だ。住宅メーカーは、このうち揺れ、火災、液状化への対策ができる。
一番大事なのは、少々の揺れへの対応であれば修理が不要な骨組みだ。内外装も、ちょっとしたひび割れ程度なら詰め物をして、塗り直せる構造にすることで修理費用を抑えられる。火災への備えは、燃えない建材を使うことだ。液状化に対しては、事前に地盤を調べ、必要ならくいを打つなどの対策が欠かせない。
一方、住宅の中で家具の倒壊などによる被災を避ける対策も重要だ。そのためには備え付けの家具を選んだり、勝手に開かない扉を設置したりする工夫が必要だ。固定できない家具ならあまり使わない部屋にまとめて置いておくのも一つの手だろう。
復興に備え、水、食料などを備蓄することも必要。太陽光パネルや蓄電池などを備えていれば、ある程度、電力を確保することもできる。安全・安心を確保するために、自宅を防災拠点にすることが重要になる。
準備が大きな力に
政井 マヤ氏(フリーキャスター)
1995年に神戸で阪神・淡路大震災を経験した。現在、2人の子どもがいて、高齢の母が東京で一人暮らしをしている。災害のことを考えると不安になるが、震災に備え、学校に通う子どもと通学路を一緒に歩いて、会える場所を確認すると安心できた。何かあったときに備えるということは大きな力になる。それぞれが家庭や会社、地域で防災のリーダーになって、大切な人たちの安全を守ってほしい。
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