シンポジウム<観光>「観光の未来」 2014年5月14日(水) 津田ホール

2014年6月15日

 2020年に開催される東京五輪・パラリンピックをきっかけに、活力ある日本を作り上げていく道筋を考える「未来貢献プロジェクト キックオフイベント」(主催・読売新聞社、後援・国土交通省)が5月14日、東京都渋谷区の津田ホールで開かれた。

 日本オリンピック委員会の竹田恒和会長が「東京2020オリンピック・パラリンピック開催に向けて」と題し、オープニングスピーチを行った(竹田会長のオープニングスピーチはこちら)。

 その後、「観光の未来」をテーマに第1回のシンポジウム(協賛・ジェイティービー)が開催され、原田宗彦・早稲田大学教授の基調講演のあと、観光に携わる企業や行政関係者らと原田教授が話し合った。

東京五輪機に訪日客2000万人

東京五輪をきっかけにした、日本の観光振興について話し合ったパネルディスカッション(5月14日、東京都渋谷区で)=鷹見安浩撮影

来賓あいさつ

五輪効果地方にも

久保 成人氏(観光庁長官)

 東京五輪が決定したことは、観光立国の実現にとって重要な意義があると考えている。政府は、五輪を追い風に、日本に来ていただく外国人旅行者を2000万人まで増やす計画をまとめている。観光庁としても、受け入れ環境の整備を進めていく。五輪の開催効果を東京以外の地方にも波及させることも重要だ。

 20年は、多くの注目が日本に集まる絶好の機会になる。この機会を逃すことのないよう、オールジャパン体制で、日本の素晴らしい魅力を発信し、地方の観光振興につなげていきたい。

基調講演

「ガラパゴス化」は強み

原田 宗彦氏(早大スポーツ科学学術院教授)

 世界の観光産業は約600兆円という市場規模を持ち、国内総生産(GDP)の9・3%を占めるほど巨大だ。海外旅行者は、2012年の時点で10億人を超え、東京五輪が開かれる20年には13・6億人を突破すると言われている。世界では観光は最先端産業だが、もの作りが産業の中心だった日本で、国の重点施策になったのは02年。まだ周回遅れだ。

 五輪は世界最大のスポーツイベントと言われる。スポーツ団体の会議や展示会、事前合宿が行われる。ただ、たくさんの一般の観光客が、五輪のみを目当てに来るわけではない。

 五輪を観光活性化に生かした成功例として、スペインのバルセロナがある。

 バルセロナは、1992年の五輪を機に、海辺を大々的に開発した。五輪後もテニスなどの国際試合や様々な国際会議などを招致するという「イベント型都市戦略」を打ち出して観光客数を伸ばした。五輪前に年間82万人だった外国人観光客数が、10年には516万人に上った。同様に海沿いのエリアが重要な役割を果たす東京五輪でも、にぎわいを創出する「東京モデル」が必要になるのではないか。

 近年、スポーツと観光を融合させた「着地型旅行商品」が新しい旅行需要を創出している。英国では、外国人旅行者のうち、約2割がスポーツに参加していると言われる。日本でも、地方のマラソンや青少年の野球大会、Jリーグなどのスポーツ資源を生かし、外国人旅行者を地方に誘客する仕組みをオールジャパン体制で作っていく必要があるのではないだろうか。

 日本の特異な文化を自虐的に「ガラパゴス化」ということがあるが、観光では強みになる。

 フランスで、日本のマンガや伝統文化を紹介する「ジャパン・エキスポ」というイベントが、毎年開かれている。13年は数日間で10代を中心に23万人が集まった。年をとれば日本を訪れたいと考える可能性は高い。「おもてなし」にしても、日本旅館は世界中に展開していないから、日本に来ないと受けられない。

 ガラパゴス化した観光資源をどう世界商品化していくかが課題だ。五輪を機会に一人でも多くの外国人に訪日してもらい、ユニークな文明を楽しんでもらう仕組み作りは可能だと思う。

パネルディスカッション

【パネリスト】
奥 直子氏(日本政策投資銀行)| 外国語の不安 気にせず
篠原 康弘氏(観光庁審議官)| 地方空港 出入国に活用
久保田 譲氏(ジェイティービー常務取締役)| 「オンリーワン」発信を
古田 菜穂子氏(岐阜県観光交流推進局顧問)| 「観光・食・もの」セットで
原田 宗彦氏

【コーディネーター】
山岸 舞彩氏(フリーアナウンサー)| ロンドン五輪で実感

外国語の不安 気にせず

奥 直子氏(日本政策投資銀行)

 昨年、訪日外国人が1000万人の大台に乗ったが、全国の宿泊人数に占める外国人の割合は7%程度だ。東京、大阪では20%近くで、大都市と地方で大きな差がある。東京—大阪間の人気が高いのも理由だが、受け入れ側が壁を作っている面がある。

 総務省が全国のホテル・旅館業者を対象にしたアンケートで、「外国人の宿泊がなかった」、あるいは「宿泊してほしくない」理由を挙げてもらった。施設が外国人に合っていないことと、外国語が主な問題だった。一方で、日本を訪れたい外国人にインターネットでアンケートをとると、「日本旅館に泊まりたい」という人が5割以上いた。

 金沢の飲食店を対象にしたアンケートでも、主に言葉の不安を理由に、8割が外国人を積極的に呼び込んでいない、と答えた。外国人の方は、飲食店での店員との意思疎通について「問題がない」「満足している」という人が大多数だった。

 こうしたギャップはアンケートで解消することができる。ほかに、外国人向けの集客活動は、(観光地側が)小さい単位だと効率的でなく、広域だと総花的になり効果が薄いという課題がある。

 五輪開催を遺産として活用している地域の一つが、オーストラリアのゴールドコーストだ。良質なビーチと気候に恵まれた地域で、豪州国内ではスポーツ選手の合宿地として知られていた。しかし、国際的に有名になったのは2000年のシドニー五輪以降と言われている。

 こうした地域の特徴は、五輪をターゲットにするより、中長期的に地域の資源をどう生かしていくのかという戦略を立て、五輪を一つのきっかけとして使ったところにある。

地方空港 出入国に活用

篠原 康弘氏(観光庁審議官)

 昨年、訪日外国人が1000万人を超えた。観光産業の市場規模は約22・5兆円。多くを占める日本人の宿泊旅行が右肩下がりの中、訪日外国人から得られる収入は1・3兆円に達し、徐々にビジネスになっている。人口減社会の日本は、外部から訪れる人の数を増やしていかなければ、持続的な発展は期待できない。

 現在、政府は外国人旅行者2000万人を目標にしている。これは世界でトップの観光国フランスに、飛行機と船で入国した旅行者数と同じ水準だ。つまり観光先進国を目指す上で、2000万人という数字は世界最高水準に相当する。

 ただその目標達成は簡単ではない。世界の観光客の将来予測にあてはめると、2020年の訪日外国人は1500万人で、500万人足りない。みんなの力で何とか500万人増やさなくてはならない。

 その際、課題になるのが空港だ。現在、外国人の95%は空路で来日し、その半分以上は首都圏の空港を使っている。すでに大変な混雑で、首都圏の空港に頼っているだけでは、大幅な増加は期待できない。

 首都圏の空港だけが出入り口になるのではなく、地方の観光地を結ぶ観光ルートを作り、「こういう風にまわると魅力的ですよ」と示す。それにより、旅行者が首都圏から地方に行く、あるいは地方から入り、地方から帰国することも可能になる。

 日本という国に対し、良いイメージを持ってもらうことも大切だ。例えば、「フランスという国は?」と問われて、思い浮かぶものがあると思う。日本に関しても、思い浮かぶものを意図的に発信していく必要があるのではないかと考えている。

「オンリーワン」発信を

久保田 穣氏(ジェイティービー常務取締役)

 日本の観光における競争力は高く評価されており、ダボス会議で世界14位という結果が報告されている。にもかかわらず、外国人旅行客数は33位と、大きなギャップがある。

 問題として、東京や大阪、京都など定番の観光地以外に外国人が向かっていないことがあげられる。ほかの地域にも行ってもらわなければ、訪日外国人2000万人の達成は難しい。

 しかし、各地域から発信される「行ってみたい理由」がまだ不足している。

 そういう視点で、珍しい事例がある。町工場が集積している大阪府東大阪市では、「日本のものづくり」という観点で発信し、年に約7000人が学びに訪れている。こういうオンリーワンの発信が重要だと思う。

 交通機関についても考える必要がある。日本の鉄道は、実は乗りにくいという声があるからだ。東京駅では、東海道新幹線は3分に1本程度、さらに東北、上越と色々な方面に10分から15分に1本発車している。海外の高速鉄道は30分から1時間に1本程度なので、日本に来た外国人は、一体どれに乗ればいいのか分からないということになる。

 こうした難しさを解消し、例えば、東京に滞在する外国人旅行者が雪遊びのために新潟にすぐに行ける、という体験を増やしてあげる。そうすると、「思ったほど難しくなかった」といった感想を簡易投稿サイトのツイッターなどで世界中に発信してくれるだろう。

 自由に日本中を旅行する外国人が増えていけば、東京など一部に集中している状況から、全国に分散する動きがでてくるのではないかと思う。

「観光・食・もの」セットで

古田 菜穂子氏(岐阜県観光交流推進局顧問)

 岐阜県は観光の基幹産業化を目指そうと、2009年に観光交流推進局を作った。私は局長を約4年間務めた。

 最初に目指したのが、観光、食、ものづくりで、選ばれる岐阜県になることだ。

 岐阜には世界遺産の白川郷、高山、下呂温泉などの有名な観光地がある。さらに新しい観光資源を作って、既存の観光地と面的につなげるために、これから有名になることができると思われる「ふるさとのじまん」を毎年募集し、「岐阜の宝もの」に認定していった。

 海外への売り方は「選択と集中」。アジアに絞った。同時に、観光と食とものを一体的なブランドとして売り込む戦略をとった。知事のトップセールスは単発で終わりがちだ。シンガポールには知事訪問前後に何回も足を運び、岐阜のものが有名なインテリアショップで売られたり、高級レストランで飛騨牛やお酒を飲食できたりするようにした。

 13年の暫定値で、海外の宿泊者数を40万人にするという目標を突破した。地域の皆さんに、観光で食べていけるかもしれないという意識を持ってもらえたことが成果だったと思っている。次に大事なのは、もう一度来たいと思ってもらえるかどうかだ。

 他地域とは競争ではなく、連携することが課題だ。例えば、岐阜と東北をつないだプランなど旅のスタイルを再編集することが考えられる。観光を本格的に産業化するために、東京五輪をいい波として生かしていきたい。

ロンドン五輪で実感

【コーディネーター】山岸 舞彩氏(フリーアナウンサー)

 ロンドン五輪を現地で1か月ほど取材した。メイン会場のロンドンはもちろん、地方でも試合が行われることで、お客さんが足を運び、盛り上がりを見せていたと感じた。

 東京五輪は、日本に興味がないか、潜在的な興味を抱いている外国人に日本を訪れてもらう絶好のチャンスだと思う。東京への注目度の高まりをどう地方に広げ、生かしていくかが問われる。

 現在は、ソーシャル・ネットワーキング・サービスなど色々な手段がある。日本人一人一人が取り組むことで、年間の外国人観光客2000万人という目標を達成できるのではないか。

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