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2025年大阪・関西万博に向けて
読売SDGsフォーラム2021
未来への共創

PR SDGs

企業や大学・行政・市民が技術やアイデアを出し合うことで新しい価値を生み出そうという「共創」の動きが広がっています。2025年に開催される大阪・関西万博も「共創」による持続可能な社会の実現を目指しています。コロナ禍をきっかけに価値観が多様化していく中、私たちは万博や未来に向けてどのように共創していけばよいのか──。9月28日、「読売SDGsフォーラム2021 未来への共創」がオンラインで開かれ、様々な分野の専門家が共創のあり方やSDGsを達成した先の未来像について熱く語り合いました。

大阪・関西万博会場イメージ図(提供:2025年日本国際博覧会協会)
 

基調講演

データ共鳴社会における「共創」とは

宮田 裕章 氏 慶応義塾大学医学部 教授/大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー

1978年生まれ。2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation。15年より現職。専門医制度と連携し5000病院が参加するNational Clinical Database、LINE×厚生労働省「新型コロナ対策のための全国調査」など、科学を駆使し社会変革を目指す研究を行う。著書に『共鳴する未来』(河出新書)がある。


コロナとデジタルが世界を大きく変える

宮田 裕章 氏

 未来社会を考える上で大切なことは「今、何が起きているか」です。産業革命以降、経済合理性を優先する時代が続いてきました。ところがコロナ禍をきっかけに環境や人権、命といった様々な大切な軸があることに世界は気づき始め、人々は持続可能な未来を望むようになりました。世界全体が今、大きく転換しつつある中、社会の豊かさを表すのにGDP(Gross Domestic Product=国内総生産)という指標は時代遅れになりました。ウェルビーイング(よりよき生)に目を向けたGDW(Gross Domestic Well-being=国内総充実)を実現しようという動きが起こっています。

 一方、コロナ禍よりもっと大きく世界を変えたといわれるのが情報革命、いわゆるデジタルです。産業構造だけでなく、社会のあり方そのものが大きな転換期を迎えています。そこで重要となるのがデジタルトランスフォーメーションの本質です。それは、従来のような最大多数の最大幸福を実現する“モノ”の提供ではなく、一人ひとりの価値をとらえて個別化と包摂を実現する体験を提供することです。一人ひとりの大切なものをとらえながら、誰も取り残さないことがデジタルの力でようやくできるようになったのです。医療を例にあげますと、世界的に価値・効果のある治療を受けるだけでなく、新しいデジタル技術によって一人ひとりの条件やタイミングに合った最善の医療を提供することが可能になります。

 多様な豊かさを実現するためにはデータは独占されるものであってはなりません。一人ひとりがアクセスする権利を持ちながら、データの価値をみんなで共有することが不可欠です。コロナワクチンの開発においても、世界の研究機関などがデータを共有し合い、9か月という短期間で完成したという背景があります。

人と人がつながる共創社会の時代へ

 今、世界はジャンルを超えて新しい未来をどう作るのかという段階に入っています。私たちに求められることは、つながりながら互いに豊かになる共創社会(Better Co-Being)を作ることです。一人ひとりが生きることを響き合わせながら、つなげながら社会を作るのです。これをHuman-BeingからHuman Co-Beingへと呼んでいます。デジタルの本質は、つながることです。人と人、人と社会、人とコミュニティーがつながりを再構築する中で、未来を共に創っていく時代はすぐそこまで来ています。そんな中で大阪・関西万博をどのようなものにするか、皆さんと一緒に考えていきたいと願っています。

 

取り組み紹介①

「かがやきスクール」の経験から見えた健康教育支援の現状と課題

木戸口 結子 氏 バイエルホールディング株式会社 執行役員 広報本部長

20年以上、製薬産業に従事し、公共政策、アドボカシー、広報などの職務を経験。2020年より現職。14年、女性の健康教育推進プロジェクト「かがやきスクール」を企画し、現在までに5万人以上の男女高校生が受講。このほか様々な企業や専門家などとともに女性の活躍推進を支える健康支援策や医療政策の提言・啓発活動に携わる。日本財団「性と妊娠にまつわる有識者会議」委員、「予定外妊娠の医療経済的評価」共著者。

木戸口 結子 氏

 「Health for all, hunger for none(すべての人に健康を、飢餓をゼロに)」をビジョンに掲げる当社はSDGsが目標とする「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」「パートナーシップで目標を達成しよう」の実現に向けた活動として、2014年から女性の健康教育推進プロジェクト「かがやきスクール」を実施しています。その背景には女性の活躍推進が政府の成長戦略の一つとして掲げられる中、女性の健康に対する考慮や当事者の知識が十分とは言えない現状がありました。

 真に女性が活躍するには、男女ともに女性特有の病気やライフステージごとの変化などについて正しく理解し、ヘルスリテラシーを向上させることが重要です。そこで当社が社会貢献活動の一環として発足させたのが当プロジェクトです。高校生に対して婦人科医による出張授業を行うもので、現在は複数企業による共同プロジェクトとして運営しています。避妊や性感染症などいわゆる狭義の性教育にとどまらず、性の多様性や女性特有の病気、ライフプランニングなどを含めた包括的な女性の健康教育を支援することを目指しています。また、教職員の方々がご自身で女性の健康をテーマとする授業を実施できるような支援にも取り組んでいます。今夏までに受講生は5万人を超えました。

 当プロジェクトでは授業実施前後にアンケート調査を実施し、受講生の健康課題や授業の理解度と効果などを評価しています。その結果、多くの学校が通常の授業では女性の健康に関する指導に十分な時間を割くことが難しい状況にあることが明らかになったほか、教員へのアンケート調査からは、通常の教育内容と生徒の知識ニーズにギャップがある可能性が示唆されました。また、月経随伴症状は医療機関で治療できることを知らなかった生徒たちが約6割にのぼることもわかりました。受講後は9割以上の生徒が医療機関で治療できることを認知しています。

 当社は今後も多種多様な企業・団体と連携してこの取り組みを広げ、女性の健康に対する正しい知識を啓発し、女性の活躍推進や男女共同参画社会の実現に貢献することを願っています。

高校生の実態(「かがやきスクール」受講生のアンケート調査結果より)
 

取り組み紹介②

ハウス食品グループの環境への取り組みについて

南 俊哉 氏 ハウス食品グループ本社株式会社 コーポレートコミュニケーション本部 CSR部長

1970年大阪府生まれ。96年京都大学大学院農学研究科修士課程修了、同年ハウス食品に入社。ソマテックセンター(研究所)配属。96年~2019年にかけて、カレールウ、豆腐・大豆加工品、機能性飲料(ウコンの力バラエティなど)の製品・技術開発に従事したほか、国内外のグループ会社の技術支援に携わる。20年より現職。

南 俊哉 氏

 当社は「食を通じて人とつながり、笑顔ある暮らしを共につくるグッドパートナーをめざします」をグループ理念とし、「お客様」「社員とその家族」「社会」の3つの責任を果たすことが、全ての活動の前提であり、その結果、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」「持続可能な社会の構築」につながると考えております。そして、「食で健康」を提供する領域として、スパイス系、機能性素材系、大豆系、付加価値野菜系の4つのバリューチェーンを定め、それぞれにおいて成長を目指しています。

 当社は今年度からスタートした第七次中期計画において、「人と地球の健康」を具現化するために2つのテーマ「循環型モデルの構築」と「健康長寿社会の実現」に引き続き取り組みます。「循環型モデルの構築」では、取り組み領域を拡大し、バリューチェーン全体で環境への対応を進めます。本テーマにおいては、CO2削減と廃棄物削減への取り組みが不可欠です。CO2削減に関しては、自社での製造に必要なエネルギーの削減だけでなく、自社が購入(あるいは販売)した製品やサービスに関する取引先での排出も責任領域ととらえています。

 太陽光発電の導入や、国内食品メーカーによる協働での物流の取り組みも行っていますが、お客様に身近な事例の一つとして、「レトルトカレーのレンジ対応パウチ化」があります。従来は湯せんで温めていたものをレンジ調理に変えることで、調理時間短縮によりCO2排出量を約8割削減できます。

 一方、廃棄物削減活動としては、食に携わる企業として食品を廃棄しないことに注力し、それでも排出してしまうものを価値あるものに変えて世の中に還元していく方針です。事例として、製品に適さないスパイス原料を活用したクレヨンの開発や、ウコンの搾りかすのリサイクルなどがあります。また、ご家庭で余った食材を使って作るカレーのレシピ提案を通して食品ロス問題にも取り組んでいます。

 こうした活動と並行して、環境側面でも取り組むべき調達のテーマとして、持続可能なパーム油や紙の採用も進め、「食育」「地域」「環境」を軸とした社会貢献活動も継続的に行っています。現在直面している地球環境の大きな課題の解決に向けて、今後も他企業やお客様と手を取り合い、共に取り組んでまいります。

 

取り組み紹介③

食の実験場「OSAKA FOOD LAB」が目指す“No Border”とは

鈴木 裕子 氏 株式会社Office musubi 代表取締役

1971年、愛知県生まれ。南山短期大学英語課卒業後、米国に留学。帰国後、日本エリクソン株式会社等を経て、フリーランスに。2009年に起業し、11年に食専門の企画マーケティングを行う株式会社Office musubiを設立。「日本の食をもっと元気に」を信条に、農業支援、食品の海外販路開拓などを行う。18年から、日本初フードインキュベーター「OSAKA FOOD LAB(大阪フードラボ)」の運営も行う。

鈴木 裕子氏

 「OSAKA FOOD LAB」(主催:阪急電鉄株式会社)は日本初のフードインキュベーターとして、食でチャレンジしたい人たちを支援することを目的に2018年夏、大阪キタの阪急中津高架下に開設しました。日本の食が世界的に注目される中、それまで日本には食でチャレンジする人を支援する仕組みがなかったため、「ならば食の街・大阪に創ろう」と動き出したのが始まりです。

 インキュベーターとは「卵をふ化させるための器」を意味します。私たちは食の分野で独立開業を目指す人や、新業態や新メニューの試作・テスト販売をしたい人たちに、それぞれの夢や思いをカタチにする実験場としてキッチン設備や育成プログラムを提供しています。開業に向けた資金集めの支援や海外とつながり交流できるイベントの開催も手がけています。

 育成プログラムでは、現役の人気飲食店経営者や専門家を講師に迎え、チャレンジャーたちのニーズやレベルに応じた個別のプログラムを作成。メニューの考案から試作、販売などのサポートを通して夢の実現をお手伝いしています。また、イベント開催では全米最大級のフードイベント「スモーガスバーグ」を誘致し、2017年から3年連続で「スモーガスバーグ大阪」を開催しています。食ビジネスに夢を抱いている人たちにとって、本場ニューヨークで行われるこのイベントに出店することは憧れです。「スモーガスバーグ大阪」では優秀者にニューヨークで開催される同イベントへ出店できる権利を与えたり、海外のシェフとの交流の機会を創出したりするなどし、国内外から高い評価を得ました。

 私たちはコロナ禍を経験したことで今、「自分に大切なもの、優先したいもの」が明確になりました。食を通して「なりたい自分」を実現したい人たちにとって、「OSAKA FOOD LAB」が果たす役割は大きいと思います。食のプロやアマ、年齢や性別、職業や国境といった“Border”に関係なく、まずは挑戦してみる。失敗してもそれを糧にして成功するまで挑戦し続ける。そんな人たちを私たちはこれからも応援してまいります。





 

トークセッション①

医療の個別化・データ利活用から、ウェルビーイングの実現に向けて

◆登壇者
宮田 裕章
石見 拓 氏 京都大学健康科学センター 教授/一般社団法人PHR普及推進協議会 代表理事
吉田 逸郎 氏 東和薬品株式会社 代表取締役社長
コーディネーター 横須賀 ゆきの 氏 読売テレビ 報道局 解説デスク

石見 拓氏
1972年埼玉県生まれ、千葉県育ち。群馬大学医学部卒業。大阪大学医学部医学系研究科生態統合医学(救急医学)博士課程、京都大学大学院医学研究科・臨床研究者養成コース修了。京都大学健康科学センター教授/PHR普及推進協議会代表理事。専門は臨床疫学、蘇生科学、健康科学。産官学民連携によるPHRサービスの質向上、普及に力を入れている。将来の夢はログビルダー、釣り人。

吉田 逸郎氏
1951年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、79年に東和薬品株式会社に入社。96年より現職。日本ジェネリック製薬協会副会長、日本製薬団体連合会理事、関西医薬品協会理事も務める。

横須賀 ゆきの氏
1999年、アナウンサーとして読売テレビに入社。夕方のニュース番組のキャスターを務めたのち、報道記者として、災害報道や小児医療を中心に幅広いテーマを取材。2019年からは、総括デスクとして現場の陣頭指揮にあたる。21年7月より、『かんさい情報ネットten.』(月~金曜、後4:50)にて番組初の女性解説デスクに就任。


PHRを利活用して健康な社会の実現へ

横須賀 私たちの健康は個別化医療、PHR(Personal Health Record)などのデータ利活用によってどのように実現されるのでしょうか。まず、「医療の個別化」「健康データ」についてご説明をお願いします。

石見 個別化医療とはデータに基づいて一人ひとりの特徴に合わせたより効果的な治療を提供することです。個人の健康・医療情報(PHR)を生涯にわたって個人が保有し、自分の意思で活用して健康を維持する社会を目指す必要があります。そのためには多種多様なデータであるPGD(Person Generated Data)という考え方を共有したうえでの連携が重要です。具体的な取り組みとしては京都大学と京都市、東和薬品様等との産官学共同研究で、PHRの利用者である本人・家族を中心に考えた事業化モデルの創出を目指しています。また、京都市が保有するデータを分析して健康寿命の延伸に貢献できるエビデンスの集積も進めているところです。

吉田 ジェネリック医薬品の開発・製造・販売を事業の柱とする当社では新たな健康関連事業として、2025年から本格的に始まる地域包括ケアシステムの中で個人の健康データを利活用することで地域全体の健康寿命の延伸に貢献したいと考えています。社会インフラとしての個人の健康情報プラットフォームの基盤構築も検討しています。

宮田 PHRを有効活用することで、病気の治療を受けた人たちを支えることができます。今年9月に発足したデジタル庁では、公的な社会基盤を整えることでこれまでバラバラであったデータを個人のために使う環境を整備しています。民間での活用とうまく組み合わせることで、今後新しい可能性が生まれることが期待されます。

写真左から 横須賀氏、宮田氏、石見氏、吉田氏

安心してデータを活用できる仕組みを


横須賀 実際に健康データを利活用する必要性やメリットを教えてください。反面、データの不正利用や特定の企業への集中といった情報管理も気になります。データ利活用の実現に向けてクリアすべき課題についてもお聞かせください。

石見 データに基づいた医療や健康アドバイスができるので、医療の質が向上します。また、我々研究者の立場としても良質なデータを得られることで、将来の健康リスクの推測に役立ちます。医学の発展にも確実につながると思いますが、何よりも重要なのは本人や家族のためになるという意識です。

吉田 個人にとっては診療の予約から受診、会計までの手間と時間が、医療関係者にとっても最適な治療方針や処方の決定までの時間が短縮されることが期待されます。さらに、病気の発症を抑制したり、健康維持に役立つ製品やサービスの開発・提供にもつながります。

宮田 PHRとつながることで受診のタイミングをアドバイスするなど病院に行く前の段階から支えることが可能になります。一方、課題もあります。個人の健康データですから、安心して利活用できる仕組みづくりが不可欠です。個人がアクセスする権利を持ち、企業は透明性が求められます。

石見 「データを流通させて利便性を向上させ、それをシェアすることに価値がある」という考え方を皆が共有することが大切です。ただし、「個人の大切な健康データを一企業や国に預けて大丈夫か」という懸念があるのも事実です。この課題をクリアするためには、PHR業界全体の質向上につながる共通のルール作りや社会基盤整備、教育・啓発が求められています。社会的な信頼を高めていくために、PHR普及推進協議会では産官学民一体となってこうした課題解決に取り組みたいと考えています。

吉田 当社ではプライバシーマーク取得などセキュリティー対策の体制構築を進めています。私個人としては個人の健康情報に関するデータ所有権は本人にあるべきだと考えています。そして、すべての人が信頼できる第三者機関で管理運営できることが重要だと思います。

ウェルビーイングの実現に向けて


横須賀 心身ともに健康で幸福な状態である「ウェルビーイング」という言葉があります。今後、健康データが適切に管理・利活用されていくことで、個人や社会全体で「ウェルビーイング」は実現されるのでしょうか。

石見 ウェルビーイングは、医療や従来の健康より広い概念だと思います。自分にとってのウェルビーイングとは何なのか。自分の健康データをどのように生かすのか。活用が広がりつつあるPHRを意識しながら、自分自身の健康、ウェルビーイングについて一人ひとりが考えることから始めてほしいです。

吉田 当社の企業理念のひとつである「こころの笑顔を大切にします」はまさに、ウェルビーイングの概念と重なります。この考え方のもと、個人の健康情報プラットフォームの構築と、健康維持・増進、予防、治療に関わる製品やサービスをあらゆる角度から検討し提供していきたいと思っています。

宮田 SDGsを考える中でウェルビーイングを意識することはとても大切です。命のともしびを消さないという目標を達成したその先にあるのは「豊かに生きること」です。ポジティブな未来を皆でどのように共有するか。多様性を尊重しながらも個々がつながってそれぞれが輝き、世界が調和している。それが「Better Co-Being」の考え方です。大阪・関西万博がそのような場になれば成功だと思いますし、さらに人類の課題を共有しながら共に未来を考えることができたらとてもすてきなレガシーになると思います。

 

トークセッション②

越境する知 2030年に向けた共創とは

◆登壇者
中島 さち子 氏 株式会社steAm 代表取締役CEO/大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー
堂目 卓生 氏 大阪大学教授・社会ソリューションイニシアティブ(SSI)長
小川 さやか 氏 立命館大学大学院先端総合学術研究科 教授
コーディネーター 岩本 悠 氏 一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム 代表理事

中島 さち子氏
1979年、大阪府生まれ。東京大学理学部数学科卒業。幼少時よりピアノ・作曲に親しむ。高校2年生の96年に国際数学オリンピックインド大会で日本人女性初の金メダルを獲得。大学時代にジャズに出合い本格的に音楽活動を開始。2017年に株式会社steAmを設立し、最高経営責任者(CEO)としてSTEAM教育の普及に努めている。著書に「人生を変える『数学』そして『音楽』」(講談社)などがある。一児の母。

堂目 卓生氏
1959年、岐阜県生まれ。京都大博士。専門は経済学史・経済思想。2001年から現職。18年より大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)長を務める。Political Economy of Public Finance in Britain 1767-1873 (Routledge)で日経・経済図書文化賞、『アダム・スミス 「道徳感情論」と「国富論」の世界』(中央公論新社)でサントリー学芸賞を受賞。19年、紫綬褒章。

小川 さやか氏
1978年、愛知県生まれ。京都大博士(アフリカ地域研究)。タンザニアや香港で実地研究を行う。国立民族学博物館研究戦略センター助教などを経て現職。「チョンキンマンションのボスは知っている―アングラ経済の人類学」(春秋社)で2020年、河合隼雄学芸賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。読売新聞読書委員。

岩本 悠氏
1979年、東京都生まれ。学生時代に20か国の地域開発の現場を巡り「流学日記」として出版。ソニーを経て、2006年島根県海士町に移住し高校の魅力化に携わる。15年県教育魅力化特命官。17年地域・教育魅力化プラットフォームを設立。中高生の越境を支援する「地域みらい留学」を推進。文科省中央教育審議会、経産省産業構造審議会、内閣府総合科学技術・イノベーション会議等の委員も務める。4児の父。


「越境」と私

岩本 「越境」とは世界や社会に潜む「分断」「格差」「溝」「枠」といった境を越えることだと考えます。私はアジア・アフリカ諸国への“流学”を経て大学を卒業した後、島根県の小さな離島に移住しました。廃校寸前の高校を再生させたことを機に、現在は全国の中高生が都道府県を「越境」して地域の学校に留学する「地域みらい留学」に取り組み、持続可能な社会づくりの担い手を育成しています。

小川 私は文化人類学者として、アフリカでのフィールドワークを続けてきました。そこで、現地のインフォーマル経済が未来を生きる私たちにとってヒントになるのではないかと注目しています。日本では安心・安全が叫ばれるあまり、不確実なものに飛び込むことが難しくなっています。しかし、不確実性は悪いことばかりでなく、むしろ人間の脆弱(ぜいじゃく)性を開示することを可能とします。それにより社会に能動的に関わることができ、創造力の源泉にもなりえます。そんなポジティブな意識を持つことが大切だと思います。

堂目 大阪大学のシンクタンクである社会ソリューションイニシアティブ(SSI)は約30年先を「命を大切にし、一人一人が輝く社会」と考え、「まもる」「はぐくむ」「つなぐ」という視点から社会課題の解決に取り組んでいます。重要なのは社会の様々なステークホルダーと課題や解決策を双方向で出し合い、「共創ネットワーク」を形成し、広げていくこと。そして私たちを分断する「境」を越え、境を設けさせているものをも「超」える活動に取り組んでいきます。

中島 私は「生きていることそのものがコラボレーションの塊」、つまり共創だと考えます。その上で大切なのは、自分の世界から一歩踏み出すこと。それにより新たな気づきが生まれ、新しいものが創り出されるからです。大阪・関西万博では「いのちを高める」を私のテーマとし、遊びや学び、スポーツ、芸術を通して生きる喜びを感じ、共創の場を生み出すことを目指しています。

写真左から 岩本氏、中島氏、堂目氏、小川氏

「共創できる人材」とは


岩本 2030年のSDGs達成に向けて共創できる人材とはどのような人たちでしょうか。また、そのような人材を育成するために必要なことについてご意見をお聞かせください。

小川 タンザニア商人たちの研究を続ける中で見えてきたことがあります。彼らは危機的状況にあっても未知なところに乗り出していきます。その背景には互いにいろんなところに「借り」を残して、困ったときは気軽にシェアし、助け合うセーフティーネットがあります。彼らは不確実なものを縮減するのではなく、偶然の機会や状況を巧みに飼いならしながら個としての自律性と分人的なシェアを両立しています。そのような知恵を持つ人々が共創を生みだす源だと思います。

堂目 SSIではSDGsの「誰一人取り残さない」という理念についてこう考えます。「取り残されている人」と「取り残さない人」が互いに共感し、助け合うことが、大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会」の共創につながるのだと。「共創することができる人材」とは、「誰かを取り残したまま逃げようとしない人」であり、「取り残されても大丈夫だと思える人」といえます。コロナ禍における「助けを必要とする人」「助ける人」との相互関係を受け入れることができる人も「共創できる人材」といえるでしょう。このような人材育成のためにSSIでは、小中学生がSDGsについて考える「万博学習読本」の監修に携わりました。さらに、ポストSDGsを見据えた社会、私たちのあり方についても考え、世界に発信していきたいと考えています。

中島 万博は世界中の人たちがつながりうる場です。普段はつながらないような人たちも遊びのように未来のカタチを共に創っていけるようにとの思いを込め、共創ネットワーク「未来の地球学校」を開設しました。カンボジアなど国内外の多様な学校での共創を実験的に開始し、地球規模での遊び場を提供しています。参加者全員がそれぞれ専門性や価値を持っています。多様な点と点がつながり刺激しあうことでアイデアや形が生まれるのです。そのためには思想と具体の両方が大切であり、実現できる仕組みが必要です。また、パビリオン「いのちの遊び場クラゲ館」も様々な専門分野の人たちが集まってきます。遊びを通して世界中の創造と共創の喜びをシェアする場になると期待しています。

広がる「共創」の輪 未来に向けて


岩本 共創を広げるために、未来に向けてどのようなことができるでしょうか。

小川 フィールドワークの最大のポイントは、自分自身が変わること。自分で「縁」をいっぱいつくっていくことで、引きずられて色々やるようになる。まずは、多様な人と集まることが重要だと思います。

中島 万博では世界中の人が集まることで多様な価値観に出会えます。感性や身体性を開くと自分の中の世界も広がります。開幕前から世界中の学校・企業・ミュージアムなどをつなぎSTEAMを鍵に色んな共創を生み出したいと考えています。

堂目 STEAM教育を支援しながら、子どもの教育に目を向けたいです。大人が子どもに教え授けるだけではなく、子どもと一緒に行動することで大人も自分の中にある子ども性を取り戻してワクワクする。遊びを通して、その過程で生きていることを実感し、いのちの原点に立ち戻ることができる。そんな試みに取り組んでみたいです。

主催:読売新聞社
協力:読売テレビ
後援:2025年日本国際博覧会協会、大阪府、大阪市、大阪商工会議所、関西経済連合会、関西経済同友会、関西SDGsプラットフォーム
協賛: