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読売SDGsフォーラム2022

2022.08.29

近年、企業や大学・行政・市民が技術やアイデアを出し合うことで新しい価値を生み出そうとする「共創」の動きが加速しています。2025年に開催される大阪・関西万博も、共創による持続可能な社会の実現を目指しています。7月21日、「読売SDGsフォーラム2022 未来への共創」がオンライン配信され、講演やトークセッションを通じ、様々な分野の専門家が、より良い未来に向けた共創のあり方を語りました。

 

基調講演 生命の動的平衡と未来社会のデザイン

福岡 伸一 氏 青山学院大学教授・生物学者/大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー

1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授。サントリー学芸賞を受賞し、80万部を超えるベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)など、“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンでプロデューサーを務める。​

福岡 伸一氏

 近代科学は、生物をミクロレベルで解析してきました。分子生物学者は、細胞にはそれぞれ機能を持つパーツが並び、それらが集積して生命現象を起こしている、とみなしています。私も分子生物学者として生命を機械論的に研究してきたのですが、ある挫折をきっかけに、生命観を新しく作り直しました。

 「GP2」という新遺伝子を発見したときのことです。この役割を突き止めるため、私はマウスのDNAからGP2遺伝子を取り外す実験をしました。機械であれば当然、一つ部品がなければ壊れます。しかしマウスには、何の異常も現れませんでした。

 そこで思い出したのは、今から約100年前の生物学者・ルドルフ・シェーンハイマーが言った「生命は機械ではない。生命は流れだ」という言葉です。機械だと見るから、何か部品がなければ壊れると考える。でも実は、部品がなければないなりに、何とかやっていくことに生命の意味がある。そう思考を転換すべきだと、私は思うようになりました。では、シェーンハイマーはどんなことをやって「生命は流れだ」と言ったのでしょうか。

 彼は同位体を使い、食べ物の原子がどうなるか、ネズミを使って実験しました。すると、半分以上の原子は体のいろいろなところに溶け込んで一体化していたのです。同時に、その時点でネズミの体を作っていた原子は分解されたり燃やされたりして体外へ出ていっている。つまり、体の中では分解と合成が絶えず行われていて、その回転を止めないために我々は食べ続けているわけです。この考え方を基に私は、生命とは分解と合成の絶え間ない均衡の上に立つ「動的平衡」だと提唱するようになりました。

 生命体が自分自身を壊し続けるのは、宇宙全体を支配している大原則「エントロピー増大の法則」に関係しています。エントロピーとは「乱雑さ」。時間は絶えず、乱雑さが増加する方向にしか進まないということです。生命現象も非常に秩序が高いシステムなので、絶えずエントロピーが増大しようとしています。細胞膜はどんどん酸化されようとするし、細胞の中のたんぱく質も変性したり破壊されようとしたりします。そこで生命体は、先回りして自分自身を壊し、作り替えることで法則にあらがっているわけです。でも、勝ち続けることはできません。少しずつ乱雑さが増し、老化が進み、最後には寿命を迎えます。生命は有限であり、だからこそ「いのちは輝く」のです。

 自分というものは自分自身だけで成り立っているのではなく、互いに他と支え合っている。利己的であるよりは、利他的であるといえます。大阪・関西万博では、そんな体験ができるパビリオンを作れるよう、鋭意計画を進めています。

 

取り組み紹介① “Walk The Talk”―挑戦と実行

吉越 悦史 氏 アストラゼネカ株式会社 執行役員CFO(最高財務責任者)

製薬業界で約20年の経験を持つ。外資系製薬会社で、内資系製薬会社との合弁会社立ち上げ、財務・IT、マーケティング(新製品上市)業務など幅広く経験し、アストラゼネカに2020年に入社、21年より現職。21年のCFO就任と同時に、サステナビリティを所管。将来世代のために人々、社会および地球の健康を守ることは“待ったなし”の課題であるとして、全社をあげての取り組みを加速すべく尽力している。

吉越 悦史氏

 地球の温度は、産業革命以前と比べて1度を超えるところまで上昇しました。「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)によれば、上昇が1.5度を超えると、加速度的に不可逆な損害が生じる可能性が高まると指摘しています。地球温暖化は深刻かつ喫緊の課題なのです。私たちが地球の危機に対して、挑戦を掲げ、実行している事例を紹介します。

 2020年1月にスイスで開かれたダボス会議で、アストラゼネカグローバルは「アンビション・ゼロカーボン」を発表。25年までの自社事業からの温室効果ガス排出量ゼロ、30年までにバリューチェーン全体でのカーボンネガティブ(温室効果ガスの排出削減量が排出量を上回ること)の達成を掲げました。各国の脱炭素計画を10年以上前倒しする野心的な目標です。

 日本でも取り組みを始めています。昨年、新東京オフィスに、テナントとしてはほぼ初となる再生可能エネルギー(再エネ)の電力を導入しました。世に前例のないことでしたが、ビルオーナー、電力会社と8か月間にわたって検討を重ねました。本社のあるグランフロント大阪でも、今年9月から、当社フロアだけでなく施設の全電力を再エネに替えていただく予定です。大規模複合用途建物として関西初の試みです。全営業車の電気自動車化や、エネルギー効率の高い機器の工場への導入なども進めています。これらの事例を通じて、社員や社外のパートナーと目的を共有し、知恵を出し合うことが大事だと学びました。

 2030年のカーボンネガティブ達成は、排出の97%はバリューチェーン由来であり、自社だけでは到底実現できません。社外の様々な方々との共創が大事だと考え、気候変動の課題解決に向けた提言を今年4月に公表し、関係省庁とも対話を開始しました。業界を超えて志を同じにする方々とお会いし、どうやってこの挑戦を全うするか日々検討しています。

 気候変動という課題に対し、達成しなければならないゴールは明確ですが、明確な解はありません。子孫から借りている地球を健康なまま維持するために、一緒に考え、リスクを恐れず一歩踏み出し、挑戦していきましょう。

 

取り組み紹介② 生きがいを育む社会を創造する大学へ ―すべての「いのち」が輝く社会の実現にむけて

西尾 章治郎 氏 大阪大学 総長

1951年岐阜県生まれ。京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了(工学博士)。専門はデータ工学。大阪大学工学部教授、同大学院情報科学研究科教授、同大サイバーメディアセンター長(初代)、同大学院情報科学研究科長、同大理事・副学長などを歴任し2015年8月から現職。11年紫綬褒章、14年文部科学大臣賞、16年文化功労者など受賞。

西尾 章治郎氏

 本学が目指す社会像は、「生きがいを育む社会」です。多様なステークホルダーとの共創を通じて、個々人が社会で活躍できる寿命を延ばし、あらゆる世代がその多様性を生かすことで社会を支え、豊かで幸福な人生をすべての人が享受できる社会の実現を目指します。

 具体的な取組の一つとして昨年、本学に脈々と続く感染症研究の実績を基に、全学体制で感染症の脅威に立ち向かう「感染症総合教育研究拠点」(CiDER)を設置しました。国内外の知と人材を結集させ、感染症の問題を多角的に解決する場とすることで、世界の人々の「いのち」を守り、持続可能な社会づくりに貢献します。

 カーボンニュートラルの取組にも力を入れており、昨年開学した箕面キャンパスは、大学キャンパスとして初めて、世界的な環境性能認証であるLEED-ND(エリア開発部門)ゴールド認証を取得しました。学内連絡バスへの電気バス導入、企業からの講師などによる「カーボンニュートラルと私たちの未来」と題した講義の実施など、社会との共創による取組を推進しています。

 生きがいを育む社会の実現へのマイルストーンと位置づける、2025年大阪・関西万博に向けても様々な取組を進めています。中でも重視しているのが、若者の視点で未来を構想する取組です。昨年開催した国際シンポジウム“Osaka University Partner Summit”では、連携する海外の6大学と本学の学生が、「未来のリーダーとしての学生の役割」というテーマで、5か月間にわたって共に考え、議論した内容を発表しました。学生たちの活動は次世代のリーダーの育成につながるもので、大阪・関西万博のレガシーとなるものと確信しております。

 複数の企業のご支援の下、優秀な成績で理工系学部に入学する女子学生への入学支援金制度を設けるなど、ジェンダー・ダイバーシティーの実現にも取組んでいます。これからも社会との共創による取組を積極的に進め、「生きがいを育む社会」の実現を目指して、人々の「いのち」に向き合い、SDGsの達成、社会課題の解決などに貢献していきます。

 

取り組み紹介③  持続可能な農業・食糧生産―より良い収穫を、より少ない資源で

藤村 佳樹 氏 バイエル クロップサイエンス株式会社 執行役員 レギュラトリーサイエンス本部長

農薬の登録・開発における安全性評価に従事。安全な食品の安定生産に貢献できるように製品、使用法の最適化の推進に努める。

藤村 佳樹 氏

 バイエルは、「より良い収穫を、より少ない資源で」という持続可能な農業の構築に向け、農薬、デジタル農業、種子・遺伝形質という三つの柱を用いたソリューションの提供に取り組んでいます。日本の農業の課題は、農業人口の減少と高齢化、農家戸数の減少です。特にここ1、2年は燃料、肥料、飼料も高騰しています。私たちは、環境と人に、より安全な農薬とその使用法を開発し、労働時間を減らしながら単位面積の生産性を上げ、温室効果ガスの削減を図りながら、より多くの収穫を確保することをテーマに技術向上に取り組んでいます。

 特に大きなテーマとして持続的に取り組んでいるのが、農薬製品の安全性向上です。会社設立の2002年以降、新規の有効成分19種を登録し、より安全性の高い製品へと切り替えを進めています。また、ドローンを使った精密散布にも取り組んでいます。農薬は水に溶かして作物に散布しますが、かんきつ等の果樹に対しては、これまでは1ヘクタールあたり約5000リットルの水が使われていました。ドローンを使うことで約90%水量を減らすことができ、散布のために必要な作業時間も80~90%削減できます。水稲においても、雑草ごとに最適な除草剤をデータに基づいて提案し、農薬の使用量や作業時間の大幅な削減を図っています。

 環境への影響を減らすため、農薬散布時期の適正化にも取り組んでいます。当社の「イミダクロプリド」は、ネオニコチノイド系殺虫剤ですが、ミツバチへの影響について世界的に関心が高まり、ヨーロッパの一部では、使用が原則禁止になった事例も報告されています。当社では、ハチの好むかんきつ類等に対して開花前の使用を制限するなど、安全性の高い使用方法に自主的に変更しています。

 最適な製品を、最適な時期・場所に適切に処理することで、使用量を最適化し、より良い収穫をより少ない資源で実現する。今後も継続的なイノベーションによって、製剤だけではなく労働資源も含め、「より良い収穫を、より少ない資源で」得るお手伝いをさせていただきます。

 

トークセッション①  外国人留学生のキャリア形成支援 「SUCCESS」の取り組み ~多様性が鍵となる次代社会の担い手人材層の育成~

◆登壇者
パネリスト
本 奈美 氏 大阪商工会議所 人材開発部 研修・採用支援担当課長
藤本 翔平 氏 藤本産業株式会社 代表取締役社長 ※事前収録映像を上映
若松 直 氏 行政書士法人第一綜合事務所 代表 ※電話出演
アナス・アズライ 氏 関西大学 経済学部4年次生
コーディネーター
池田 佳子 氏 関西大学 国際部 教授


本 奈美氏
大阪府出身。新卒で大阪商工会議所に入所し、国際部、産業部、地域振興部を経て人材開発部に配属。ロールモデルとなる女性リーダーの表彰事業をはじめ、企業の多様な人材の確保・育成を支援する事業を担当。

藤本 翔平氏
2011年、藤本産業株式会社に入社。2012年専務取締役、2017年中国現地法人の総経理、2019年株式会社ニッコー(関連会社)の代表取締役を経て、2020年より現職。

若松 直氏
2010年、行政書士第一綜合事務所を開業。2013年に行政書士法人第一綜合事務所の代表社員に就任。以後、一般財団法人日本アジア振興財団のアドバイザー、公益財団法人大阪観光局の就労委員会委員などを歴任。

アナス ・アズライ氏
マレーシア出身。企業経済専修。

池田 佳子氏
1998年、米ポートランド州立大応用言語学部卒。2007年に米ハワイ大大学院で博士号を取得し、名古屋大准教授などを経て15年から現職。専門は国際教育。大阪府出身。

写真左から 池田氏、本氏、アナス氏、若松氏、藤本氏

外国人材 雇用の現状

池田
留学生のキャリア形成を支援する「SUCCESS」は、本学を含む大阪府内4大学(※現3大学)が文部科学省「留学生就職促進プログラム」の委託事業として2017年にスタートさせました。日本の企業文化になじませようとする旧型の手法ではなく、次代社会の担い手となる創造的な資質を育むために独自のプログラムを展開しています。中でも、企業人と留学生がチームを組んでビジネスプランを作る「フューチャーデザインプロジェクト」は、優れた外国人材を育てる仕組みであるとともに、企業に高度外国人材の新規雇用をチャンスと捉えてもらう契機にもなっています。今年度からは連携大学を全国に広げ、新たな事業展開を進めています。
アナス
フューチャーデザインプロジェクトに参加したことで、日本だけではなく母国についての理解も深まり、物事をいろいろな視点から考えられるようになりました。
大阪商工会議所はSUCCESS立ち上げ当初から運営委員として参画させていただいています。外国人材の受け入れは、人手不足の解消や日本人社員の代替といった文脈で語られがちですが、実際に採用した多くの企業から、外国人材が貴重な戦力として活躍していると聞きます。企業において多様な人材の活躍を図ることは今後一層重要になると考えています。
若松
当社は大阪と東京で、外国人のビザに関する手続きを専門に行っています。外国人のビザは活動内容ごとに類型化されているのが特徴で、その点でジョブ型向きだと感じています。採用、研修後に適性を見てから本配属、というのが日本企業に多いやり方ですが、どういうポジションで、どういう人を採用するのか、任せる業務をきっちり決めておくことが、法令順守の観点からも重要です。雇用内容や休みなど、日本人にとっての「当たり前」がそうではないので、細かな点もきちんと共有することが、結果的にダイバーシティーの推進につながると思います。
藤本(事前収録)
当社は、ねじの専門商社で、現在11人の外国籍の方が様々な職種で活躍してくれています。一緒に働いて良かったなと思うのは、健全な議論ができるようになったことです。ミーティングなどで、日本人社員は上司の意見を黙って聞いていることが多かったのですが、外国籍の方は経験やポジションにこだわらず、自分なりの考え方や意見を言ってくれる。日本人社員にいい刺激を与えてくれています。
アナス
就職活動中の今、フューチャーデザインプロジェクトで得られた経験や知識が、コミュニケーション能力の発揮や自己アピールに生きています。一番のポイントは、自信がついたことです。自信があればやる気も出るし、失敗しても立ち直ることができます。私の夢の一つは日本と世界の懸け橋になることなので、実現するために、長く日本で活躍したいと思います。

多様性が開く 未来の社会

池田
次代の日本をどのような社会にしたいか、展望をお聞きします。
先行きが見えない社会の中で、企業がより創造性を発揮し、持続可能な成長を続けることのできる社会を作らないといけないと思います。そのためにも外国人をはじめとする多様な人材を積極的に受け入れ、活躍の場を提供することが重要です。創造性という花は、人々の多様な経験が蓄積された土壌に、多様な種をまいて、それを大切に育てることで咲くと思います。大阪商工会議所でも一つ一つの企業に、創造性あふれるカラフルな花が咲くようなお手伝いをこれからも続けていきたいと思います。
若松
労働人口が減少する中で国際競争力を保っていくためにも、多様な人材を受け入れ、働き方やキャリアの多様性を認める社会になればと思います。当社は外国人雇用のお手伝いをしていますが、女性の社会進出や高齢者の活躍など、まだまだ取り組むべき課題はありますので、引き続き企業と連携し、次の社会の担い手の雇用推進を進めたいと思います。
池田
藤本様からは事前の収録で、「フラットな人間関係が生まれたらいい。フラットとはみんなイコールという意味ではなく、国籍や性別、障害の有無など、それぞれ個性が違うことを受け入れ、尊重しているというフラットさです」とお話がありました。
アナス
どこの国でも、積極的な外国人材の受け入れをきっかけに国境が少しずつなくなっていく傾向にあります。日本で活躍したいという人は大勢いますので、未来の日本の形が非常に楽しみです。
池田
肩肘張らず、日本に来てキャリアを積みたいと思ってもらえるような、開けた社会を目指すべきだと思います。コロナ禍を打撃ではなくチャンスと捉え、皆で連携して未来を開いていきたいと思います。
 

トークセッション② 事業共創が描く未来――食と文化とイノベーション

◆登壇者
パネリスト
楠本 修二郎 氏 カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長
友廣 裕一 氏 合同会社シーベジタブル 共同代表
パネリスト 兼 コーディネーター
小川 さやか 氏 立命館大学大学院先端総合学術研究科 教授


楠本 修二郎氏
リクルートコスモス、大前研一事務所を経て、2001年カフェ・カンパニーを設立。コミュニティの創造をテーマに約80店舗の企画・運営や地域活性化事業、商業施設プロデュース等を手がける。2021年「日本の愛すべき食を未来につなぐ」ことを目的にNTTドコモとグッドイートカンパニーを設立。同社代表取締役CEO。その他、内閣府、経済産業省、農林水産省等の政府委員等も歴任。近著に『おいしい経済-世界の転換期 2050年への新・⽇本型ビジョン-』。

友廣 裕一氏
1984年大阪府生まれ。大学卒業後、日本全国70以上の農山漁村を訪ねる旅へ。東日本大震災後は、宮城県石巻市・牡鹿半島の女性たちと一緒に地域資源を活用した事業を立ち上げ、運営する。合同会社シーベジタブルでは、地下海水を使用した「すじ青のり」の陸上養殖をはじめ、“今までになかった美味しい海藻”の研究から生産・料理開発までを行っている。

小川 さやか氏
1978年愛知県生まれ。専門は文化人類学、アフリカ研究。タンザニアや香港でフィールドワークを行う。国立民族学博物館研究戦略センター助教などを経て現職。『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』(春秋社)で2020年、河合隼雄学芸賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

写真左から 小川氏、友廣氏、楠本氏

食と文化とわたし

小川
文化人類学を専門とし、主にタンザニアの零細商人や香港・中国在住のアフリカ系商人の研究をしています。起業家精神を持った学生を育てようと、アフリカ発のベンチャービジネスを考える授業を行っています。また、人文社会科学、自然科学、情報工学の研究者と共に、災害や食糧危機に対するレジリエンス(回復力)の強化に関する研究プロジェクトも進めています。
楠本
「食」でコミュニティーを作って地域活性をやっていこうと、2001年に会社を作りました。今、80店舗・50ブランドほどあります。NTTドコモさんと「グッドイートカンパニー」という食のEC(電子商取引)サイトを作ったり、「おいしい未来研究所」というシンク“ドゥ”タンクを作ったり、食と何かをつなげて提案していくことが楽しく、いろんな事業をしています。
友廣
海藻の研究者である蜂谷潤と2人で作った、海藻の研究から生産、新しい食べ方の開発や提案まで行っている会社です。海藻って10数種類ほどしか食べられていないと思うのですが、実は日本の沿岸海域には1500種類以上が生えていると言われ、しかも全て食用になるポテンシャルを秘めています。陸上養殖や海面養殖によって、失われつつあるおいしい海藻の生産を広げるとともに、新たな食べ方を開発することで、食材としての活躍の場をもっと作れるんじゃないかということを探求しています。

「食」の課題と可能性は?

楠本
海藻のお話は象徴的だと思います。足元を見直すと、日本には全く気づいていなかったものがたくさんある。日本の食には「おいしい」「健康的」「サステナブル」という三つのキーワードがあります。ミシュランの星付きレストランの数は世界第1位だし、日本食の摂取量が多いほど死亡リスクが低いというデータもある。また、今の日本は47都道府県ですが、かつては藩が300近くあり、それぞれに食文化が宿っていました。こういう発想でもう一度地方を見直してみると、食で盛り上げていく作戦が見えてくると思います。
友廣
実は今、海水温の上昇が影響し、日本中で海藻が減っているんです。それに対して僕らができることは海面養殖です。各地の漁師さんたちと連携し、30種類以上の海藻を生産することで、日本中の海に海藻を増やしていけたらと思っています。また、シェフたちと一緒に多様な食べ方を模索しており、レストランでのこだわった料理から、家庭で手軽に食べられるような商品まで提案しています。
小川
「食べる」という行為は本当は人間にとって社交の基盤であり、社会を作る基盤でもあったと思います。タンザニアの零細商人たちは、大皿に料理を盛って、一緒に食べます。さりげなく肉をお客さんの方へ寄せていくのを見ると、「食べる」ってシェアすることだったなと改めて思うわけです。おいしく、健康的で、サステナブルな日本の「食」を、どのように世界にアピールしていくことができるとお考えですか。
楠本
日本の食産業は、農業から外食まで合わせると117兆円もあるんです。でも、それぞれが小さいプレーヤーになっていて、全体の青写真が存在していない。世界のフードテックに培養肉やロボティクスはあっても、「どうおいしくする?」というのはないんです。日本の食の強みが「おいしくて、健康的で、サステナブル」なのだとしたら、その辺を徹底的にデータベース化し、おいしくする技をしっかり後世につなぐことが大切です。「おいしい」というところから見直せば、21世紀の日本は、食産業から勝てると思います。
友廣
「おいしい」って観点、すごく面白いと思います。今、ヨーロッパでは海藻が黎明(れいめい)期で、養殖が始まるなどすごく注目されていますが、「おいしい」という観点のプレーヤーはほとんどいないんです。体にいいから、サステナブルだから食べる。その観点は日本だからこそ発信できる文脈だなと感じます。

共創に必要な力とは?

楠本
共創に必要なのは、コミュニティーの力だと思います。そしてコミュニティーが機能するためにはビジョンが大事です。おいしい国で日本を豊かにしようぜっていうことに基づいたコミュニティーが必要。SNSで世界各国との横軸はできるようになったので、今必要なのは縦軸。おじいちゃん、おばあちゃんが持っている技と、若い子たち。この縦軸をどう設計するかが大事だと思っています。
友廣
僕らの会社は自然発生的に生まれ、仲間も出合い頭に増えていく、といった感じで来ているんです。あえて計画性を手放しているからこそ、偶然の出会いを楽しみながら取り込み、共に創ることができるのかなと思っています。

未来社会への期待 ―大阪・関西万博に向けて

楠本
大阪は世界一「おいしい」場所です。おいしい、健康的、サステナブルということを、食だけに限らず、思い切り世界に打ち出せるような万博になったら楽しいなと思います。
友廣
より良い社会を個々人ではみんなが願っているんだけど、いろんな理由でそれを表現できる人は少ないと思います。万博が、「こういう未来がいいよね」っていうことをみんなで共有して、そこを目指して歩みだすきっかけの機会になったらいいなと思います。
小川
うまくデザインすれば、食こそが世界に存在感を示せる日本の産業なんだ、という強い期待を感じることができました。また、海藻のように、まだまだ発見されていない日本の食文化を担っていく人たちが、これからもっと増えていくべきであると思います。

主催:読売新聞社
協力:読売テレビ
後援:大阪府、大阪市、関西経済連合会、関西経済同友会、大阪商工会議所、2025年日本国際博覧会協会、関西SDGsプラットフォーム
協賛: