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国立循環器病研究センター セミナー
~大阪心不全診療の新たな挑戦 患者さんを支える多角的アプローチとは~

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脳卒中や心臓病などの患者を地域で支えていくための方策や課題について学ぶセミナー「大阪心不全診療の新たな挑戦~患者さんを支える多角的アプローチとは」が2月24日、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)で開催された。同センターは2023年度、厚生労働省のモデル事業に採択されて「脳卒中・心臓病等総合支援センター」を開設しており、セミナーではその運用の現状も報告された。セミナーはオンライン配信もされ、200人を超える医療関係者が視聴した。

飯原 弘二 先生 (国立循環器病研究センター 病院長)

国立循環器病研究センターは2023年度、厚生労働省の委託事業「脳卒中・心臓病等総合支援センターモデル事業」に採択されました。国は循環器病対策推進基本計画で「脳卒中・心臓病等(循環器病)患者を中心とした包括的な支援体制を構築するため、多職種が連携して、総合的な取り組みを進める」としており、脳卒中・心臓病等総合支援センターはその連携拠点となるものです。センターが設置されるのは、「専門的な知識を有し、地域の情報提供等の中心的な役割を担う医療機関」とされ、都道府県と連携を取りながら、地域の医療機関と勉強会を開催したり、支援方法などの情報提供を行ったりして協力体制を強化することが求められています。

当センターでは患者サポートセンター、専門医療連係室、医療福祉相談室、社会実装推進室、医療クラスター戦略室、成人先天性心疾患センター、健診部、両立支援コーディネーター、緩和ケアチーム、リハビリテーション部門などが連携して循環器病患者・家族の相談支援窓口を設置し、総合支援センターとして機能しています。中でも患者サポートセンターは、地域の病院あるいはかかりつけ医との間で情報提供、啓発活動、講習会を行い、患者や地域住民をサポートするものです。

大阪は大都市です。国立循環器病研究センターと5つの大学病院(大阪大学医学部附属病院、大阪公立大学医学部附属病院、関西医科大学附属病院、大阪医科薬科大学病院、近畿大学病院)が連携をとることで、大阪府全体にこの活動が広まることを期待しています。

渡辺 真俊 先生 (国立循環器病研究センター 理事長特任補佐)

当センターでは、大阪府全体に「脳卒中・心臓病等総合支援センターモデル事業」の影響が及ぶよう努力しています。具体的には2023年9月6日、日本脳卒中医療ケア従事者連合大阪府支部と合同でWeb講演会「脳卒中、心臓血管病の患者支援に向けて」を実施しました。

患者さんに向けては、吹田市保健所で週2日、豊能地域の心不全患者さんを対象に相談事業をしています。完全予約制で1回30分ですが、今後も活動を継続していきたいと思っています。また、総合支援センターモデル事業として府内5大学の病院で、患者さんやご家族らが不安や悩みを語り合える場としてピアサロンを開催しています。各会場では毎回多くの議論があり、患者・家族の多様なサポートが必要であると感じているところです。

泉 知里 先生 (国立循環器病研究センター 心不全・移植部門 部門長)

今、「心不全緩和ケア」というものが注目されています。心不全は進行性の病気であり、最終的にどのような最期を迎えるかというところまで踏まえて患者さんと付き合っていく必要があるためです。当センターは重症患者さんが多いため、今回は重症心不全患者さんの在宅診療について考えます。

重症となり、病院での新たな治療が難しい状況では、在宅で強心剤の点滴治療を継続(在宅カテコラミン療法)することが必要となる事例があります。急変される可能性もあるのですが、在宅医(かかりつけ医)、訪問看護ステーションの協力で、自宅で看取りができた事例もあります。

強心剤を持続点滴として投与する在宅カテコラミン療法を行うためには、薬剤など物品のみならず、人的配置、配慮、連絡が院内、院外に必要となります。当院のデータでは、強心剤の持続点滴が必要でACP※が行われた重症患者さん106人のうち、在宅カテコラミン療法を希望された21人全員に、対応できる在宅医(かかりつけ医)が見つかりました。循環器専門医ではない医療機関でも、在宅カテコラミンに対する訪問診療を受け入れてもらっており、その数はこの5、6年で約17施設に上っています。

一方、症例が積み重なると問題点も出てきます。急変時の対応、点滴ルートの閉塞、感染症、注入機械の有無などです。また、在宅カテコラミン療法に対する手技料が算定できないという課題もあります。

在宅カテコラミン療法を行うことによって、患者さんの療養の場の希望を実現できる可能性があります。非常に有用な選択肢ですが、それをかなえるには多くのスタッフ、他職種の人と連携を取り、退院カンファレンスなどで情報を密に共有する必要があります。診療制度や診療報酬上の問題解決が、今後の課題と思われます。

※ACP:アドバンス・ケア・プランニング。人生会議とも。患者の意思決定能力が低下する前に、患者本人や家族が望む治療と生き方を医療者が共有し、事前に対話しながら計画するプロセス全体を指す。

花谷 彰久 先生 (社会医療法人 生長会府中病院 心不全センター長)

私が勤務する生長会府中病院は和泉市にあり、泉州二次医療圏に該当します。泉州二次医療圏は8市4町で構成され、人口は約88万人、高齢化率は28%です。

和泉市では和泉医師会の要望もあり、心不全検査事業が開始されています。特に和泉市医師会では2021年3月に「心不全地域連携推進委員会」を設置し、連携協力医療機関(35施設)と基幹病院(2施設)でハートノートを活用した医療連携を推進しています。

さらに心不全治療連携協力医療機関を中心に、心不全発症リスクの高い患者の調査を目的に、高血圧、糖尿病、心房細動などの既往歴のある患者さんを対象に、BNP値(脳性ナトリウム利尿ペプチド)を測定したところ、高値の方が約11%見つかりました。以上よりBNP値の測定が、要精密検査の対象者を早期発見するための効率の良いスクリーニング検査となる可能性が示されました。

それ以外にも「医療と介護の連携推進専門部会」を設置してもらい、病院看護師と訪問看護師の連携を行っています。またリハビリテーションでは「泉州心臓リハビリテーション地域ネットワーク」を立ち上げて、地域でより良いリハビリテーションを進めること、リハビリテーションの質を上げる取り組みを行っています。まだ薬剤師間、また介護との連携は出来ていませんが、多職種による多角的なアプローチが必要と考えています。今後とも泉州地域の方々に有益な医療を提供できるように頑張りたいです。

阿部 幸雄 先生  (地方独立行政法人 大阪市民病院機構 大阪市立総合医療センター 循環器内科 副部長)

心不全の患者さんは社会の高齢化で非常に増えており、入院、再入院も増えています。ただ、心不全となっても、再入院がなければ比較的元気に生活できます。日本では、心不全で退院後、1年以内に心臓死される方は約10%。再入院率は30日で5%ぐらい、1年では25%ぐらいです。

慢性心不全急性増悪のきっかけの多くは、指導などの介入によって防ぐことができます。そこで我々「Osaka Stops HEart Failure」(OSHEF・大阪心不全地域医療連携の会)は、「ハートノート」「自己管理用紙」「クリニカルパス」を作成し、多職種で連携することによって自己管理を重点的に行い、心不全を地域で予防していこうと活動しています。

大阪市立総合医療センターでは毎週木曜日、多職種で心不全地域医療連携パス会議を行っています。メンバーは医師、看護師、緩和ケア認定看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカー、地域医療連携担当看護師です。2017年2月から23年末までの間、全心不全患者さんの3、4割に相当する426名に地域連携パスを導入しています。

さらに、患者さんに対して意識変容と行動変容ができているかのアンケート調査を行い、「分かってはいるけれど、できていない」原因を探っています。1年以内の再入院に関連する因子は、心房細動、水分摂取制限が実際にできていたかどうか、そして意外なことに、過労を避けることが実際にできていたかどうかという三つでした。「分かってはいるけれど、できていない」という人に、出来るようになっていただくことが重要であると考えています。

竹谷 哲 先生  (医療法人 竹谷クリニック 理事長、大阪心不全地域医療連携の会 代表幹事)

心不全は管理が難しく、再入院率が高い病気だとされています。加えて、循環器領域では大都市圏での広域・複数の中核病院が賛同する地域医療連携が運用されにくいという課題があります。一方、大阪では2017年より「大阪心不全地域医療連携の会」(OSHEF)が活動しています。

高齢心不全患者さんが再入院する契機の半数近くは、薬の飲み忘れや水分の過剰摂取といった自己管理不足です。再入院を防ぐための自己管理には、セルフケアメンテナンスとセルフケアマネジメントが重要です。OSHEFではその活動を啓発するため、これまで勉強・検討会を11回開催してきました。地域連携を促進するためには、顔が分かるだけではなく、考え方や価値観、人となりが分かるような多職種・小グループでの話し合いの機会を、継続的に地域の中に構築することが有用です。OSHEFではその活動を大阪府内に広め、心不全患者さんが正しい病識を持ち、自身の病態を認識した上で適切な治療を受けられるよう活動しています。

公益社団法人大阪ハートクラブの協力を得て、大阪市内を4ブロック、府内を7ブロックに分割し、国立循環器病研究センター、府内の5大学を含む40の基幹病院で「ハートノート」「自己管理用紙」「クリニカルパス」を用いた地域医療連携を行っています。この活動が評価され、ハートノートの運用は現在、全国131施設にまで広がり、1万例余りの心不全患者さんが使っています。今後も多職種として多角的なアプローチで活動を継続してまいります。

パネルディスカッション

ファシリテーター
阿部 幸雄 先生

パネリスト
泉 知里 先生、花谷 彰久 先生、竹谷 哲 先生

岡本 卓也先生 (近畿大学病院 薬剤部)
小野 めぐみ先生 (医療法人 藤井会 石切生喜病院 看護部)
地域で患者を支えるには
阿部
泉先生の地域では、在宅カテコラミン療法を支える地域のクリニックが多いようですね。
循環器専門医でなくとも受け入れてくださるところが増え、現在20施設弱にお願いしています。退院時に多職種と連携をとって情報共有し、患者さんの症状を緩和できる薬剤の量や種類を当院で決め、基本的にそのまま持続してもらっています。
小野
終末期を迎えた患者さんが在宅療養でカテコラミン療法を希望された場合、当院の近くではなかなか受けていただけないのが現状です。事前の準備などの情報がもっと広まると、在宅カテコラミン療法が可能になると思います。
岡本
近畿大学病院ではまだ、在宅カテコラミン療法はしていないと思うので、連携をしてくださる医療機関が多いのはすごいなと感じました。高齢の心不全患者さんは増えてきていますので、準備は必要になってくると思います。
阿部
我々自身あるいは地域医療連絡室が在宅医療の先生と直接話さないと、どういうことをやっていただけるか分からないんですね。コミュニケーションをとることが大事だと思います。心不全について、岡本先生や小野先生は医師と一緒に勉強する機会はありますか?
岡本
慢性心不全チームのカンファレンスを毎週開いており、その際、必要に応じて循環器内科医から私たちにも情報共有をしてもらっています。
小野
心臓リハビリチームとして多職種による勉強会に参加しています。患者さんから質問される機会もすごく多いので自己研修は必要です。
心不全への理解を進めるために
阿部
ウェブに寄せられたご質問を紹介します。「心不全の二次予防にBNP値の測定を活用するという話がありましたが、循環器の非専門医やスタッフはどのように活用すればいいでしょうか?」
花谷
測定しても症状のない方がほとんどですけれども、病院に来ていただいて医師から説明を聞く中で、予防の重要性に気付くことになります。患者さんに心不全の知識を得てもらう、一つのきっかけとして使ってもらえればと思っています。
阿部
「ハートノートを利用することで、心不全の再入院率、死亡率の改善が見られたでしょうか?」。再入院率は減っていますが、死亡率は減っていないのですよね。
死亡率が減っていなくても、患者さんのQOL(生活の質)という点で、再入院率が減少することには非常に大きな意味があると思います。
竹谷
心不全患者さんを支えようと頑張っているのは僕ら医師だけではありません。心不全を予防しようと、減塩レシピを考えてくれた中学生たちがいます。また、高齢者ばかりでなく、若年層で心不全になる方もおられます。救える命を救えるように、今日のような会をこれからも続けていく努力をしてまいりますので、一緒に頑張りましょう。
花谷
心不全は、医師だけでなく多職種の方が関わることで初めて対処できるものだと思っています。そもそも心不全を知らない方が多く、なったことのない方にとっては全く意識しない状態なのです。心不全について少しでも話し合えるきっかけが設けられるように、私も頑張っていきたいと思います。