災害・コロナ BCPの支えに
緑地に事務所 止水板や給電器

読売新聞東京・大阪本社版朝刊

企業や自治体の事業継続計画(BCP)への意識が高まっている。従来は台風や地震など自然災害を中心に想定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、感染症対策を盛り込む動きも活発になってきた。BCPを支えるビジネスも広がりつつある。

事業継続計画(BCP=Business Continuity Plan)

自然災害やテロ、システム障害など不測の事態に備え、企業などが策定する。限られた人員や設備で最低限の業務を継続するための具体的な手順や、復旧作業の優先順位を盛り込む。必要に応じて見直していくことも重要とされる。

事業化へ実験

「うめきた2期」の緑地で行われた仮設オフィスの実証実験(10月5日、大阪市北区で)=宇那木健一撮影

 建機レンタル大手の西尾レントオール(大阪市)は10月、JR大阪駅北側の再開発エリア「うめきた2期」内にある緑地で12日間にわたって、BCPに関する実証実験を行った。建設現場で事務所などとして使われるトレーラーボックスやキャンプ用テントなど、自社のレンタル機材を組み合わせて仮設オフィスを構築。総務や広報など本社部署の一部を移し、来春入社する学生の内定式を開いた。

 都市再生機構(UR)や新興企業2社も実験に参加し、事務所を構えた。

 実験の目的は、仮設オフィスで業務が円滑に進められるかを検証し、BCP支援ビジネスの可能性を探ることだ。インターネット環境も整え、ほぼ通常と変わらずに業務を継続できた一方、課題も見えてきた。ビル風でテントが大きく揺れたり、周辺ビルからの電波干渉で通信が不安定になったりした。西尾レントはこうした課題をふまえて、来春にも再び実験を行い、事業化を目指す。

  

労力軽減

BCPに関連した商品やサービスが紹介された展示会(11月11日、大阪市住之江区で)

 11月中旬、大阪市で開催された防災用品の展示会では、様々な企業がBCP関連商品を売り込んだ。

 フジ鋼業(兵庫県加古川市)は、自動車部品にも使われるABS樹脂製の止水板を出展した。建物内への水の浸入を防ぐため、緊急時に入り口などに設置する。1台の重さは4.4キロ・グラムと、一般的な土のうの6分の1程度。一人でも短時間で設置でき、耐久性が高いことが特徴だ。

 草刈り機の刃の製造が本業だが、藤井健吾社長が昨年の台風による浸水被害をテレビで見て開発に乗り出した。藤井社長は「被害だけでなく、人にかかる負担も軽減したい」と話す。来年以降、発売する予定だ。

 コンデンサー大手のニチコン(京都市)は、電気自動車(EV)と接続して家電やスマートフォンの電源として使える給電器を展示した。2017年の発売だが、EVの普及もあり昨年以降、急激に売り上げが伸びているという。

  

中小をサポート

 コロナ禍は、自然災害を主な対象にしていたBCPの姿も変えつつある。
 
 関西広域連合は7月に新たに策定したBCPに、出勤人数を必要最低限に絞って業務を継続するなどとした感染症対策を盛り込んだ。

 帝国データバンクが今年5月に実施した調査では、BCPを策定済みか、策定中や検討中とした関西企業は前年比7.1ポイント増の53.4%に上った。2016年の調査開始以来、過去最高だった。

 だが、人手不足などのため策定していない中小企業もまだ多い。こうした企業を対象に、関西電力は7月、BCP策定の支援や、緊急時に必要になる発電機や非常照明などの商品をまとめて提供するサービスを始めた。関電が蓄積してきた災害時のノウハウを生かす。近畿経済産業局は、大阪府と全国初となるBCP策定支援の協定を結び、中小企業を対象とした相談会を充実させる。

 BCP策定とその支援策の重要性は今後も高まりそうだ。

  

水害2.1兆円損失 昨年

 自然災害が、経済に与える影響は大きい。

 国土交通省の統計によると、台風や大雨による水害での被害額は、2019年は2兆1500億円(暫定値)に上り、1961年の調査開始以来、最大だった。10月に東日本を襲った台風19号による被害が特に大きかった。ここには交通網の寸断による二次的被害などは含まれておらず、実際の影響額はさらに大きい。

 地震は一度に大きな被害をもたらす。内閣府の試算では、11年の東日本大震災で16兆9000億円、16年の熊本地震では、最大で約4兆6000億円の被害が出たとされる。

 新型コロナウイルスによる被害も甚大だ。経済産業省によると、緊急事態宣言の発令期間を含む今年3~5月の家計に関する調査を基に試算したところ、国内総生産(GDP)は年間13兆円のマイナス影響が見込まれるという。

  

「仮設のチカラ」SDGsに貢献

西尾レントオール 西尾公志 社長

 BCPは、災害対応というだけではなく、何があっても雇用を守り、社会に貢献できるように考えなくてはいけない。成長や効率だけでなく、持続性を考える必要がある。

 BCPの内容を実際に試してみれば、計画を見直すいいきっかけになる。「うめきた」に仮設オフィスを設けた実証実験は、避難先で通常通りに業務を続けるには何が必要かを洗い出すために行った。例えば、通信環境の整備では、普段の機材をそのまま持って行くだけでは、ほかに多くの電波が飛び交っている中では安定せず、対策を講じる必要があることが分かった。

 台風や地震だけでなく、新型コロナウイルスと、次から次へと新しいタイプの災害が起き、BCPへの意識は社会的に高まり続けている。うめきたでの実証実験も思っていた以上に注目され、地方自治体からの視察も相次いだ。憩いの場でしかなかった緑地や公園を、にぎわい創出とBCPの両方で活用しようという大きな動きを感じる。

 11月に公表した我々の中期経営計画は、「仮設のチカラ」を柱にし、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に貢献することを掲げている。発電機やトイレ、給水車などのレンタルやシェアリングを活用することによって、コストを抑えつつ災害に備えられ、社会的課題の解決にもつなげられると考えたからだ。そこに、新たなビジネスチャンスも生まれてくるだろう。

PROFILE

にしお・まさし
1985年東大経卒、建機大手の小松製作所を経て、87年、西尾レントオールに入社。経営計画室長、東京支店長などを歴任した後、父親で創業者の晃氏の後を継いで94年から社長。大阪府出身。60歳。