競争から共創へ~大学再編の時代

読売新聞大阪本社版朝刊

大学間の強み融合 技術革新の種生む

 読売新聞大阪本社主催の大学関西フォーラム第23回懇話会が11月29日、「競争から共創へ~大学再編の時代」をテーマに、大阪市北区の市中央公会堂で開かれた。大学の学長ら約70人が参加。大阪府立大と大阪市立大を運営する公立大学法人大阪の西沢良記理事長が基調講演し、両大学が統合して来年4月に開学する大阪公立大の将来像について語った。パネルディスカッションでは、大学間連携や産学連携で生まれる効果について学長らが議論した。

 

基調講演 大阪府大×市大 多様性進化

西沢良記 氏 公立大学法人大阪理事長

 8月に文部科学省から大阪公立大の設置を認可された。
 国内の大学再編・統合の流れは2010年以降、大きなうねりとなっている。
 その背景の一つに、著しい少子化の進行がある。18歳人口は1990年に205万人いたが、2021年は115万人になり、文部科学省の推計では40年には90万人まで縮小するという。驚きの数字だ。
 もう一つは、アジアの主要な大学が1万人を超える学生規模を誇り、近隣国の留学生を受け入れ、世界的に存在感を高めていることへの危機感がある。

 こうした情勢で、大学の組織、研究分野での規模の拡大は、国内外にかなりのインパクトを与えることになる。

 大阪府立大、大阪市立大の統合で最大のメリットは、複数の分野の知識が組み合わさった高度な融合研究が展開できることだ。ほぼ同じ規模や歴史を持ちながら、伝統が異なる両大学がいかにうまく力を合わせ、その成果という芽を出していくか。前例のないチャレンジになる。

 府大の4学域と市大の8学部を1学域11学部に再編する。唯一の学域の「現代システム科学域」は、学問分野の領域を超えた学びにより、持続可能な社会の実現に貢献できる人材を育成する。情報学、自然科学、人文・社会科学、人間科学の4領域に分かれ、それぞれから必要な分野を組み合わせて学べる。

 「教育」「研究」「社会貢献」といった大学の基本機能に加えて、都市課題を解決する「都市シンクタンク(政策研究機関)」、産業競争力の強化に貢献する「技術インキュベーション(新規事業支援)」の二つの機能を備え、世界に展開する高度研究型大学にしていく。府大では創薬、市大では人工光合成などの次世代エネルギーの研究が進む。医学・工学等を中心にバイオエンジニアリング分野の研究も加速すると期待している。

 これを具現化するのが、2025年4月に大阪城東部地区に開校する森之宮キャンパスだ。このエリアには、多様な人・企業が集い、交流して「次世代型キャンパスシティ」をつくる、という基本理念がある。その拠点を新大学が先導して整備していく。大阪府、大阪市と緊密に連携し、最先端技術を生かした「スマートシティ」の実現にも貢献する。キャンパスの完成を待たずに、それに先駆けた取り組みを来年から始めたい。

 今年の大学関西フォーラムのテーマ、大学や企業が共に価値を創造する「共創」に関わるキーワードとして「多様性×包摂性」「共に積み上げていく大学」「社会との強い連携」が思い浮かぶ。この共創を支えるものが、(分野融合の)総合知だ。総合知を育てる教育はこれからもっと重要視しなければならない。学内での多様性を進化させ、その環境下での教育から学生の総合知を育成し、研究へ展開できる人材を養成していく。個々の努力と実績を積み重ねることで独創性が生まれ、新たなイノベーション(技術革新)に結びつく。多様性と総合知をつくるための仕組みと環境を整えるのが大学の務めだ。

公立大学法人大阪理事長 西沢 良記(にしざわ よしき)氏
公立大学法人大阪理事長。大阪市立大大学院医学研究科修了。医学博士。同大学医学部付属病院副院長、大学院医学研究科長、理事長兼学長などを経て2019年から現職。専門は代謝内分泌病態内科学。日本透析医学会理事長なども務めた。


 

パネル討論

 パネルディスカッションでは、大阪公立大学長に就任予定の辰巳砂昌弘・大阪府立大学長、前田裕・関西大学長、力石正子・ロート製薬上級執行役員、米国からオンライン中継で参加した久能祐子・京都大理事が意見を交わした。司会は、沢田泰子・読売新聞大阪本社生活教育部編集委員(現・福井支局長)。

――大学間の連携や統合にどう取り組んでいるか。

辰巳砂 二つの大学を統合し、なぜ一つにするのか。文化の違う大学の融合がダイバーシティー(多様性)をもたらす源泉になり、最大の強みとなるからだ。
 新大学では、全ての新入生が1学域11学部の垣根を越えて履修する少人数ゼミを必修とする。様々な専攻の学生が交じって学ぶ場をつくる。
 研究面では、同じ分野の統合で厚みが増す。また、異分野融合の研究では、例えば大阪市立大医学部と、府大と市大の工学分野との医工連携で、互いの強みを生かしたシナジー効果を発揮させたい。

前田 国内外の多くの大学と連携しているが、ここでは府大と市大、大阪大と取り組む外国人留学生の就職支援事業「SUCCESS-Osaka」を紹介したい。
 国内の労働人口が減る中、留学生が日本で働くお手伝いを大学としてできるのではないか、との思いから始まった。日本語を学び、日本のビジネスに慣れてもらうために、4大学が共同でキャリアデザイン教育や企業へのインターンシップ(就業体験)の機会を提供している。企業もつながることで複数の大学の留学生に接触できる仕組みだ。

――企業の立場で産学連携をどう位置づけているか。

力石 ロート製薬には「企業は公器」とする理念がある。社会課題を解決し、これにより得られた便益を共有することが重要だ。
 これまで、事業に関係する眼科や皮膚科、産婦人科の領域で若い研究者に助成、表彰するなど大学の基礎研究を応援している。基礎研究こそが30年後の未来をデザインするための種だと思っている。

――イノベーション(技術革新)を喚起するにはどのような仕組み、環境が必要か。

久能 米ワシントンで社会起業家を養成する滞在型施設「ハルシオン・インキュベーター」を運営している。異なる専門分野の人たちが5か月間、一つ屋根の下で暮らしながら刺激を与え合い、それぞれの起業プランを練る。ここで一番大事なところは、「やればできる」という自己効力感を呼び起こすこと。そして、予想外の発見を促すために社会との接点を持つようにしていることだ。
 現在、米国の大半の企業は「profit and impact(利益と社会的影響)」というビジネスモデルで事業を進める。利益だけでなく、社会や地球環境によい影響を及ぼす製品やサービスを世界の投資家が求めているためだ。大学も人類の総合知に貢献することが重要だ。

――大学が新たな試みを進めるには、社会の理解、共感を得る必要がある。どのような取り組みがあるか。

久能 米国の私立大学は、卒業生や大学の教育・研究を支援してくれる人たちの寄付で経営している。京都大の卒業生も米国に多くいるが、日本に寄付を送るのは税制上、簡単ではない。そこで、米国で寄付拡大を図る目的でNPO法人「京大コラボラティブ」を設立した。京大の北米拠点や同窓会組織と協働して京大の存在感を高めて、米国内のファンを開拓し、京大と米国の共同事業につなげたい。

――大学との連携から、具体的な製品開発につながっているか。

力石 私たちが発売している妊娠検査薬、排卵日検査薬などは、大学との共同研究なくして実現しなかった。
 妊娠検査薬で解決したかった社会課題は、母体と子どもの健康を守ることだ。日本では、妊娠初期に服用した薬が原因の悲しい薬害事件があった。胎児の器官が形成されていく大事な時期に妊娠をいち早く把握することが重要だ。
 研究のきっかけはお客様の悩みの声。妊娠の高齢化や男性の意識改革も含めた社会課題があり、そこに耳を傾け、大学の知見と融合して共同で研究を進め、製品化し、お客様に届けている。

――イノベーションを促すため、大学が力を入れるべき取り組みは。

前田 学生に多様な経験をさせることが大切だ。ただ、大学単独でできるのか。大学の強みを持ち寄ることで多くの機会を提供できることから、他大学と協定を結んでいる。
 関西大では、イノベーション創生センターを開設している。産学官連携、共同研究の拠点、そしてベンチャー支援の拠点にしたい。最大の目的は、学生のマインドセット(思考パターン)を変えることだ。学生が起業家や企業と触れ合い、貴重な体験ができる場になっており、この延長線上に起業する学生が出てくるのではないか。

辰巳砂 大阪公立大では「イノベーション・アカデミー構想」の検討を始めた。SDGsや脱炭素といった社会課題の解決に向け、産学官の共創を推進するものだ。企業や自治体の需要、新技術、大学の総合知を融合させて社会に貢献していく。
 構想を具現化するため、各学部・学域の専門性を生かし、全キャンパスに産学官の共創を推進する「リビングラボ」を整備する。森之宮キャンパスを司令塔とし、大阪の都市課題の解決や成長につなげる。

――大学はどのような人材を育成すべきか。

力石 これからの日本に大切なのは女性の活躍と次世代の育成だ。学生は男女関係なく、地域社会で現実を感じ、差別や格差を議論し、歴史を振り返り、未来をデザインする経験を積んでほしい。
 未来をけん引するリーダーはスペシャリストよりジェネラリスト、問題解決者より課題設定者と言われている。大学には多様性を広げる人材教育をお願いしたい。
 人生で大学に3回入ることが当たり前の社会になってほしい。今の仕事でいいのかを迷う30代、残りの人生をどうするかを考える50代後半に大学に戻り、リベラルアーツ(教養教育)に再び触れることは重要だ。創造性は異質な世代や文化、思想がぶつかることで生まれる。大学、企業の多様性が交わるようになればいい。

久能 これからの世界を生き抜くには自分で考え、決めて、やり遂げ、結果を見る勇気を持つ自立型のリーダーが求められる。それぞれの人が異なる背景で育ち、暮らす社会でダイバーシティーを反映するには、ビジョンを示し、シェアする力があるリーダーを生む必要もある。
 単純労働をコンピューターやロボットがこなし、人間に残るものは独創性やゼロから何かを生み出す力、共感する気持ち。そんな人間本来の生命力を、総合知として高めていくことが大切だ。

――新時代を担う人材を関西・大阪から生み出すために大学でどう取り組むか。

辰巳砂 阪公立大では府大と市大の特色と強みを融合させ、総合知を駆使して社会課題に立ち向かう人材を育成する。府大の起業家教育プログラムも継承したい。
 産業界で活躍する研究リーダーの育成に向け、両大学共同で修士・博士の5年一貫教育を行うリーディング大学院の修了生は高い評価を得てきた。授業料が実質免除になる奨励金などで研究に専念できる環境を整え、博士人材の育成にも積極的に取り組む。
 女性研究者向けには上位職を目指したスキルアップ支援などもあり、さらに強化していく。産業界や他大学と共創しながら、新大学が進むべき方向性の基礎を築きたい。

前田 異なる背景を持つ人々が生き生きと活躍できる社会をつくることは大学の使命だと考える。来年、大学昇格100周年を迎える関大では、様々な大学や企業と連携し、多文化共生社会をリードする人材を育成したい。学生には正課の授業だけでなく、いろいろなプログラムを通じて様々な体験をし、好奇心を養ってほしい。
 18歳人口の減少に焦点が当たると大学間の競争になるが、フォーラムを通して、教育の場に無限の可能性があると思った。特色を持つ大学が連携し合い、1プラス1を2以上のものにしていきたい。

大阪公立大学長就任予定 辰巳砂 昌弘(たつみさご まさひろ)氏
大阪府立大学長。来春開学する大阪公立大の学長に就任予定。大阪大大学院博士前期課程修了。工学博士。

京都大理事 久能 祐子(くのう さちこ)氏
京都大理事。起業家を支援するS&R財団(米国)の理事長兼CEO。京大大学院博士課程修了。工学博士。

ロート製薬上級執行役員 力石 正子(りきいし まさこ)氏
ロート製薬上級執行役員、チーフヘルスオフィサー。大阪大薬学部卒。点眼薬や妊娠検査薬の開発に携わる。

関西大学長 前田 裕(まえだ ゆたか)氏
関西大学長。大阪府立大大学院修士課程修了。工学博士。関大システム理工学部長、副学長などを歴任した。


「取り組んでいる」92%

 文部科学省の中央教育審議会は少子化を背景に2018年の答申で大学の連携や統合を促した。文科省はこれを踏まえ、地域の国公私立大の枠組みを超えて連携を推進する新法人の設置を可能にするなど制度改正を進めている。
 読売新聞が9~10月、近畿・中四国など15府県の国公私立大215校を対象に大学の統合・連携について尋ねたところ、回答した182校の92%(169校)が「取り組んでいる」と答えた。多くの大学が他大学との連携にメリットを感じ、切磋琢磨(せっさたくま)しながら互いの強みを伸ばそうとする姿が明らかになった。

 

参加者の声

学術・文化の発展に寄与

田中敏宏・大阪大副学長

 2007年に大阪大と大阪外国語大が統合し、外国語学部が誕生した。総合大学の阪大と、国際的なコミュニケーション力を持つ外語大の個性が合わさることで、学生や教員に良い刺激を与えている。1年生必修で学部横断のゼミを設けており、教育における多様性をより膨らませていきたい。阪大は、大阪の地域と経済界からの多大な支援の下で設立された『庶民的な帝国大学』が始まりだ。大阪公立大とも連携し、大阪・関西を盛り上げ、学術・文化の発展に寄与していきたい。

中高含めた連携を推進

西村泰志・常翔学園理事長

 国際社会で活躍する人材の育成を目指し、大阪工業大では交流協定を結ぶアジアや欧米など海外55大学の学生らと共に学ぶ環境を整えている。『共創』の方向性として、学園が運営する摂南大や広島国際大との大学間に限らず、中学・高校も含む連携を進め、教育・研究の進展の可能性を探りたい。産学連携では、学生・生徒約2万5000人のスケールメリット(規模効果)を生かし、若者視点のアイデアを提案するなど、学生の成長につながる正のスパイラルを生みたい。

学生 異文化に触れ成長

加藤映子・大阪女学院大学長

 学生数約600人の小規模校で『英語で学ぶ』を合言葉に一人一人に目が行き届く実践的な教育に力を入れている。米国やカナダ、韓国などの約20大学と協定を結び、多くの日本人留学生を送り出してきた。紛争などで派遣が難しい地域の大学とも連携し、今年3月にはパレスチナの大学の学生とオンラインで交流した。学生たちは異なる価値観や文化に触れて成長する。コロナ禍にあっても、諸外国の大学と『共創』することで、魅力を高めていきたい。

自治体・企業と地域貢献

松重和美・四国大学長

 18歳人口の減少は地方ほど深刻で、県外からも進学したいと思われる大学づくりが重要だ。地元の自治体や企業との連携で地域活性化への貢献も求められる。大学のある徳島県には、県庁に消費者庁の出先機関が置かれていることから、環境に配慮した消費行動『エシカル(倫理的)消費』や消費者教育に力を入れている。また、中国の大学と学術交流協定を、女子サッカーのプロチームとパートナーシップ協定をそれぞれ結び、芸術・スポーツ分野の人材育成に取り組んでいる。