万博 未来を、おもろく

読売新聞大阪本社版朝刊

2025年大阪・関西万博の開幕まで、1500日を切った。昨年12月には万博の基本計画が公表され、会場のシンボルロードとなる環状の大屋根など、全体像が明らかにされた。新型コロナウイルス禍の経験を踏まえ、万博が示す未来社会の姿とは――。旗振り役を務める関西経済連合会の松本正義会長や、地元パビリオンの企画を取り仕切る森下竜一・大阪大寄付講座教授らに聞いた。

コロナの先のレガシーに

関経連会長 松本 正義氏 76

 2025年大阪・関西万博で昨年末に決まった政府の基本方針では、温暖化対策やデジタル化に関する日本の技術を世界に打ち出し、新たな技術やシステムを実証する「未来社会の実験場」を目指すことになった。

 展示内容や会場設計の基本計画も公表され、多岐にわたるテーマや課題に向け、政府を挙げて取り組む方向性が示された意義は大きい。知恵や技術を結集し、万博が直接的、あるいは間接的に、世界の様々な課題の解決策を提示できる場になればと期待している。

 運営や展示の司令塔となるプロデューサーには、幅広い分野のプロが集まった。彼ら、彼女たちのアイデアを企業がサポートし、先端的な技術やサービスとして会場で実験し、きっちりと社会に実装していく。アイデアを整理し、大企業だけでなく中小やスタートアップ(新興企業)とも結びつけて花を咲かせるには、大胆な規制緩和が欠かせない。

 大切なのは、万博を一過性の「お祭り」に終わらせないことだ。開催までの細やかな制度設計と組織作りを両輪に、万博後も見据えて成果を確実にレガシー(遺産)として残していく必要がある。

 大阪万博が開かれた1970年、関西の域内総生産(GRP)は、国内総生産(GDP)の約20%を占めた。その後は成長が鈍化し、今は15%前後の水準に落ち込んでいる。

 近年、関西経済を底上げしてきたインバウンド(訪日外国人客)がコロナ禍で急減し、観光産業を中心に大きなダメージを受けている。20年は歴史的マイナス成長に陥ったはずだ。

 25年万博は、関西経済を新たな発展軌道に乗せ、復活につなげるスプリングボード(踏み切り板)としても捉えたい。

 例えば、基本計画には、政府が目指す50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量を実質ゼロにする)に向け、脱炭素化に関する日本の技術を世界に発信することなどが盛り込まれている。関西には二酸化炭素を排出しない水素エネルギーなどの産業集積があり、国内外から投資を呼び込むチャンスになるだろう。

 期間中の来場者数は2820万人を見込み、インバウンドの復調も期待される。ただ、コロナ禍の行方を見通しにくい中では、「量から質」へ転換する視点も必要ではないだろうか。

 大阪・関西万博の会場は155ヘクタールで、10年の上海万博(328ヘクタール)、前回の大阪万博(330ヘクタール)に比べ小さい。それなら資金を賢く使い、世界が抱える様々な課題を解決する「キラリと光る」万博を目指す。そうすることで、持続的な成長につながるヒントが見つかるはずだ。

 開催までの課題もある。既に多くの国や国際機関が参加の意思を表明しているが、主要国は遅れている。約150か国と、25の国際機関が参加する目標を掲げるだけに、招請活動を本格化させなければならない。

 参加の意思確認が遅れると、会場設計やパビリオン建設、配置といったスケジュールに影響しかねない。政府や日本国際博覧会協会、自治体などが連携して活動していく中で、ビジネスを通じて国際的な対話ルートを持つ民間企業が力を発揮する余地もあるだろう。

 会場建設費は、当初予定の1250億円から1850億円に膨らんだ。3分の1を負担する企業はコロナで打撃を受け、負担増が痛手なのは確かだ。しかし、万博はコロナ禍を乗り越えた先にある「新たな時代」を切り開くプロジェクトでもある。未来のために必要な投資と考え、他の経済団体とも協力していくことで、確保はできると考えている。

(聞き手・経済部 杉目真吾)

松本正義氏(長沖真未撮影)

PROFILE

松本 正義 氏
1967年一橋大法卒、住友電気工業入社。欧米での駐在や、中部支社長などを経て2004年に社長、17年に会長。同年に関経連会長に就き、現在2期目。東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会理事や関西観光本部理事長なども務める。兵庫県出身。


「若返る」テーマパークを 

大阪パビリオン総合プロデューサー 森下 竜一氏 58

 大阪府と大阪市が出展する地元パビリオンは「生まれ変わる」を意味する「REBORN(リボーン)」をテーマにしている。来場すると「10歳若返る」ような施設を目指している。

 例えば、テーマパークにあるアトラクションのようなイメージで、乗り物に搭乗し、人体の不思議や生命科学の奥深さを学んでもらう。その中では、様々な計測技術を駆使し、その人の脳や血管、肌の「年齢」を測定する。

 体験後、測定した年齢が実際の年齢に比べて若いかどうかをスマートフォンのアプリを通じて知らせる。どんな運動や食生活を続ければ、脳や血管、肌の年齢が10歳若返るのかも伝える。来場者が若返りを実現しようと、意識を変化させるきっかけになるはずだ。

 体験型施設やレストランも併設し、推奨された運動を試してみたり、10歳若返る食を味わってみたりできるようにしたい。楽しみながら、健康になってもらうのが理想だ。

 予防医学や抗加齢医学を専門分野として長年、研究してきた。超高齢社会となり、元気に過ごせる健康寿命をどれだけ長くできるかは、一人ひとりが充実した人生を最期まで送れるかというだけでなく、労働力を確保し、日本の活力を保つという観点からも重要になる。

 万博開催から5年後にあたる2030年の未来医療を描きたい。人工知能(AI)が患者に問診をし、病院内の清掃や洗濯などはロボットが担う。医師や看護師らは、命を救う仕事に注力する――。そんな先進的な病院の姿をモデルルームとして示せないか。

 次世代を担う子どもたちには、明るい将来に向けたメッセージを受け取ってほしい。職業体験施設のように訪れた子どもが医師や研究者になりきって科学や医療への憧れを育んでもらえるようにしたい。

 1970年の大阪万博当時は小学2年生だった。岡山県総社市に住んでおり、関西の親戚宅に泊めてもらって2回、訪れた。

 会場の中心にそびえ立った「太陽の塔」や「動く歩道」に興奮し、外国人の姿を目にして新鮮な感激を覚えた。フランスパンを初めて口にした。大阪から世界とつながっているという実感があった。

 世界はより身近になり、高度情報化社会を迎えて、万博を開催する意義は薄れたとの意見もあるだろう。

 だが、新型コロナウイルス感染症の影響によって、オンラインでコミュニケーションを取る機会が増えるなか、人と人が対面で会うことや、実際に物に触れることの大切さを感じた人も多いのではないか。現地に足を運んでこそ得られる感動は、今も変わらない。

 もちろん、情報技術の力も最大限活用する。仮想現実(VR)を通じて万博をインターネットで疑似体験できる「バーチャル大阪館(仮称)」を先行して開設する。世界の80億人とつながることができる空間にしたい。「バーチャル(仮想)」から「リアル(現実)」へ実際に会場へ行きたくなる魅力的な仕掛けにしたい。

 今回の万博は「ポストコロナ」の時代に開かれ、世界から注目を集める国家的なイベントになるだろう。コロナに打ち勝った成果を発信したい。

 大阪や関西の優れた医療を世界に知ってもらえば、外国人が治療や診断目的で訪れる「医療ツーリズム」も促進できる。

 70年万博を経験した世代には当時以上の、経験のない若い世代には未来を待ちきれないような、そんなワクワクを届けたい。大阪らしく「おもろい」、そして健康に役に立つ内容にしたいと考えている。

(聞き手・科学医療部 冨山優介)

森下竜一氏(杉本昌大撮影)

PROFILE

森下 竜一 氏
1987年大阪大医学部卒。米スタンフォード大客員講師、大阪大助教授などを経て、2003年から大阪大寄付講座教授。専門は抗加齢医学、遺伝子治療。13年から政府の健康・医療戦略参与。16~19年に規制改革推進会議委員を務めた。


十人十色 このロゴで体現

グラフィックデザイナー シマダ タモツ氏 56

 2025年大阪・関西万博のロゴマークは、僕と事務所のスタッフやコピーライターら計6人の「TEAM INARI(チーム イナリ)」で制作した。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」なので、いのちの輝きをどう出せるかというのが着想だった。いかに動きがあり、シンプルで、かつインパクトやオリジナリティーがあるものを創るか。

 最初は、いのちのつながりをイメージし、同じ大きさ、形のサークル(円)を整然と11個つないだだけだったが、十人十色ということで、形も大きさも変化(個性)をつけた。

 そして「セル(細胞)」というキーワードが出てきた時に、「これで命が吹き込める」という感じがすごくして、それぞれのサークルに(細胞の持つ)核を入れた。

 5歳の時、遊園地感覚で何度も行って大好きだった1970年の大阪万博のシンボルマークは、5枚の桜の花びらをモチーフにしている。今回のロゴマークも、最終的に核を五つに絞った。カラーリングは、いのちを感じる赤と、万博会場の夢洲(ゆめしま)が海に囲まれたイメージの青を用いた。

 完成品はちょっと飛び抜けた印象があり、「さすがに審査を通らへんやろな」と思って出したので、選出されて正直びっくりした。インターネットでも評価が両極端だったが、「1個のロゴマークがここまで話題になるんや」とすごく感じた。「元気が出た」と言ってもらえるのもうれしい。

 タクシーに乗りながら、自分の身分を明かさずに「万博ロゴマーク決まりましたね」と聞くと、運転手さんに「あの気持ち悪いやつなぁ」と言われる。そんな反応を聞くのもすごく楽しい。よく行く近所の飲食店でも新聞の切り抜きが必ず貼ってある。そういうちょっとしたことが、万博の機運醸成につながる。

 (ロゴが決定した昨年8月は)コロナ禍でイベントがなくなり、僕らの仕事にも影響が出ていたので、希望をもらえた。(万博会場の夢洲がある)此花区長から連絡があり、「このロゴで街をいっぱいにしたい」と言ってもらえた。大阪中、関西中が、こいつ(ロゴ)で埋め尽くされたらいい。

 万博で自分の生み出したものが会場中にあるのを想像すると、僕は毎日、会場に行くんじゃないかな。いつも試合にいる阪神タイガースの応援団みたいに。

 70年万博の時がそうだったように、皆さんが「こんな未来になるんや」とワクワク、ドキドキしながら、スキップして来られるようなものになってほしい。

(聞き手・社会部 浅野友美)

シマダタモツ氏(宇那木健一撮影)

PROFILE

シマダ タモツ 氏
デザイン事務所勤務を経て、1992年に独立。2003年に現在の「シマダデザイン」を設立し、主幹を務める。ニューヨークADC金賞、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ入選など受賞多数。大阪市東住吉区在住。


大屋根中心に三つのエリア

 2025年大阪・関西万博は、新型コロナウイルスを乗り越えた先の「新時代の国家プロジェクト」として位置づけられている。

 万博の運営組織「日本国際博覧会協会」(万博協会)が昨年12月に公表した基本計画では、施設配置や展示方針が示された。

 四方を海に囲まれた会場(155ヘクタール)には、1周約2キロの環状の大屋根(幅30メートル、高さ12メートル)が、部分的に海にせり出した形で整備される。大屋根の上を歩くことが可能で、来場者は瀬戸内海を一望できる。

 会場は、大屋根や各国・企業のパビリオンが集積する「パビリオンワールド」、水上イベントが実施される「ウォーターワールド」、トークライブやフォーラムを開く屋外イベント広場がある「グリーンワールド」の3エリアに分かれる。

 会場の中央付近は「静けさの森」として、来場者が休憩できる緑地となる。

 「未来社会のショーケース」に見立てた場内では、脱炭素や空飛ぶクルマなど最先端技術を導入。仮想現実(VR)技術を駆使した「バーチャル万博」では、自分の分身となるキャラクター「アバター」を使い、オンライン上で、パビリオンを疑似体験できるようにする。

 会場建設費(最大1850億円)の内訳は、パビリオンや大屋根の建設に1180億円、電力、下水、通信などの基盤整備に670億円で、国、大阪府・大阪市、経済界が3分の1ずつ負担する。運営費は809億円を見込む。パビリオン建設は23年度に始まる。

 会場への交通手段は、シャトルバスや自動車のほか、大阪メトロ中央線を延伸して、夢洲(ゆめしま)駅(仮称)を建設する方向で準備を進めている。前売りチケットの販売は23年度から始まる予定。


SDGs達成へ 「チームエキスポ」

 万博は、温暖化やエネルギー問題など地球規模の課題解決と、持続可能な社会の実現に向け、世界中の人々と考える舞台ともなる。

 その一環として、万博協会は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献するため、昨年10月から「TEAM EXPO 2025」プログラムをスタートさせた。

 このプログラムは企業、教育機関、国、NPO法人、個人など多種多様な団体・個人が参加し、理想としたい未来社会の実現を目指す取り組みで、規模や種類は自由。例えば「ロボット技術で少子高齢化や地方の過疎化を解決する」といった活動内容を「共創チャレンジ」として協会に登録する。賛同する企業や自治体などは「共創パートナー」として、情報発信や資金面などで活動を支援していく。

 今年2月末までに、共創チャレンジは69件、共創パートナーは42団体が登録しており、読売新聞大阪本社も参加している。

 読売新聞では農業機械大手「クボタ」のサポートを受け、大阪大の学生らとチームを結成。「水」をテーマにした中高生向けのSDGs教材の制作を共創チャレンジに登録し、昨年11月から活動を始めた。大阪市の繁華街・ミナミを流れる道頓堀川の水質浄化の取り組みについて、阪大生が市や地元商店会に取材・執筆し、冊子にまとめた。

 冊子はタブロイド判カラーの計8ページで、阪大生による井上万博相へのインタビューや、絶滅危惧種の淡水魚「ニッポンバラタナゴ」を保護する私立清風高(大阪市)の活動なども掲載。事前に申し込みがあった大阪府や兵庫県、愛媛県などの中学校と高校計65校に教材として2万2000部を贈った。