万博で「大大阪」

読売新聞大阪本社版朝刊 2020.01.22

オリンピックイヤーの2020年が幕を開けた。関西では、25年大阪・関西万博の開催準備が本格化する。五輪に続く大型イベントとなる万博は、何をもたらすのだろうか。誘致を主導してきた関西経済連合会の松本正義会長や、研究分野が万博のテーマと関連する大阪大の澤芳樹教授らに語ってもらった。

関西経済連合会会長 松本 正義(まつもと まさよし) 氏

 関西には、2025年の大阪・関西万博までの間に、大きなイベントが次から次へと打ち寄せてくる。我々にはこれを起爆剤に、諸先輩方が築いてきた大阪・関西を、「大大阪」「大関西」にしていく責務がある。

 1970年万博は国威発揚型だったが、25年万博は課題解決型になる。命や健康をテーマにした具体的な取り組みとしては、公衆衛生の改善による感染症対策や防災減災、環境の保護のほか、スポーツや食を通じて健康寿命を延ばすことなどが挙がるだろう。

 これらは、国連の「持続可能な開発目標(SDGS)」とも重なる。25年万博では、このSDGSの達成も目指している。

 SDGSの基本概念は、日本企業との親和性が高い。日本には古くから(売り手にも、買い手にも、世間にも満足を与える)「三方よし」と言われる経営哲学がある。万博は世界が直面している課題について、日本企業が解決のための技術的、経済的な能力を持っていることを、世界中の人に認識してもらう場にすべきだ。

 今後は、会場の設備やパビリオンのテーマ設定などを具体的に詰めていく段階に入る。運営主体の日本国際博覧会協会に対し、経済界もサポートを強化する。関西経済連合会と大阪商工会議所、関西経済同友会の3団体が共同で推進会議を2月頃に設立し、外部から有識者を集めてアイデアを提言していく。

 25年までには、国内では大型の国際スポーツイベントが幾つも開催される。今年は東京五輪・パラリンピックが開かれ、21年には生涯スポーツの祭典「ワールドマスターズゲームズ(WMG)」が控える。五輪で日本中が盛り上がれば、WMGに出ようかなと考える人が大勢、出てくると思う。この流れに乗り、22年にも万博の「前哨戦」となる別のスポーツの世界大会の招致も検討したい。

 万博のレガシー(遺産)では、ソフトを残すことになっているが、それだけでは風化しやすい。そこで、万博のコンセプトを具体化し、実現に取り組む調査研究機関(シンクタンク)を夢洲に設けてはどうかと考えている。

 万博の会場建設費1250億円のうち、3分の1は経済界が負担する。そのための寄付を募っているが、非常に順調に推移している。万博の開催を関西の企業は非常に前向きに捉えており、「何かやりたい」という思いが強い。経団連にも積極的な協力を求め、全国的なうねりにしたい。

(聞き手・経済部 白櫨正一)

PROFILE

松本 正義 氏
1967年一橋大法学部卒、住友電気工業入社。社長を経て2017年6月から会長。兵庫県出身。17年5月から関西経済連合会の会長を務め、現在2期目。

  

夢の技術と笑い

大阪大教授 澤 芳樹(さわ よしき) 氏

 1970年の大阪万博が開催された頃は中学生。ボーイスカウトで訪れたが、世界を、未来の姿を見たと感動した。「動く歩道」など会場で披露された設備は現在、実用化されているものが少なくない。2025年の大阪・関西万博も50年後の社会に還元しなければならない。

 その頃には「人生100年時代」が実現している可能性は高い。平均寿命がさらに延び、がんや心臓病など多くの病気の治療法が著しく進歩しているのではないか。一方で、最後まで治療が難しい病気として残るのは、認知症だろう。

 国内人口の3人に1人が認知症になる時代がやって来るとも言われている。それほど多数派を占めるようになるのであれば、社会も変わらなければならない。認知症の人たちも症状に応じて働き、楽しみ、安全に暮らせるようなまちづくりを考える必要がある。

 大阪・関西万博では、理想の高齢社会の様子を体験できるパビリオンを設けてはどうか。

 認知症の人が気軽に利用でき、働くこともできるレストラン。適切なケアを行うロボット。利用しやすい交通機関や住宅――。人工知能(AI)や次世代通信規格の「5G」、仮想現実(VR)といった最新のITを駆使して、実際にその場にいるように感じられる展示ができるといい。

 さらに、認知症の人を招待し、仮想空間のまちを歩いてもらう。そこで生じる行動パターンなどのデータを収集できれば、将来の都市空間整備に生かせる。

 欧米で導入が進み、国内でも関心が高まりつつある「リビングラボ」の試みとしても有効ではないか。研究者が市民や企業などとともに技術開発や実証実験をする取り組みで、万博で実施できれば、国内でも普及が促進されるだろう。

 もちろん、若者にとって魅力のある未来社会も提示しなければならない。行きたくなる、体験したくなるような万博にするには、エンターテインメント性が大事だ。大阪らしい「笑い」も取り入れたい。

 我々は現在、様々な細胞に変化するiPS細胞(人工多能性幹細胞)から心筋細胞のシートを作り、重い心臓病患者に移植する治験を準備している。この心筋シートを大阪・関西万博に出品してほしいと提案された。当時の宇宙開発の象徴とも言える「月の石」が大阪万博で大きな関心を集めたように、日本が世界に誇る医療技術を広くアピールする機会になると嬉しい。できる限り協力したい。

(聞き手・科学医療部長 木下聡)

PROFILE

澤 芳樹 氏
1980年、大阪大医学部卒。独マックス・プランク研究所留学などを経て2006年から大阪大教授。15年から日本再生医療学会理事長。

  

プロデューサー選び大事

日本国際博覧会協会事務総長 石毛 博行(いしげ ひろゆき) 氏

 関西は大阪を中心につながり、日本経済の一極を構成している。海外からも人が往来する万博は、大阪・関西がさらに伸びる機会になりうるだろう。成功に向けて、地元と一緒に私自身も努力したい。

 今年は、いのち輝く未来社会のデザインというテーマを表現するプロデューサーを、なるべく早い時期に選びたい。建築家の丹下健三や芸術家の岡本太郎がプロデューサーを務めた1970年の大阪万博を見ても、誰を選ぶかは重要だ。国民や世界の人々にメッセージを上手に送れる思想を持ち、チームを束ねられる人でなくてはいけない。

 70年万博は、移動するのも満員電車の状態だった。2025年の万博では1日最大28万人と想定される来場者が、スムーズに会場を行き来できるようにする方法も検討したい。

 昨年12月に「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(大阪市此花区)を視察し、人の流れをどう制御するかやバックヤードの物の運び方など洗練された手法に感銘を受けた。万博の場合、パビリオンを出展する企業などはそれぞれ独立しているため、人の流れを調整するのは難題だと実感した。今後も民間のノウハウを学んでいきたい。

 会場の夢洲は海に囲まれているので、海が見える場所をつくりたい。全体を高くするのはお金がかかりすぎるので、建物の位置などで工夫することになるだろう。実際に開催機運が高まるのは開催の1年前くらいだろうが、それに向けてロゴマークの選定など様々な取り組みを進めていきたい。

 万博はかつて半歩先の世界を示す場だったが、今はすぐ実現できてしまう。展示を担う企業などには、何十年も先の世界を見せてほしい。教育の機会でもあるから、子どもたちが参加して競う甲子園のような場にするのも面白い。

(聞き手・社会部 西山幸太郎)

PROFILE

石毛 博行 氏
1974年東大経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。中小企業庁長官などを歴任し、2019年5月、日本国際博覧会協会の事務方トップである事務総長に就任した。

  

来場者2800万人見込み

大阪・関西万博の会場イメージ図(いずれも経済産業省提供)

  

 2025年大阪・関西万博は、4月13日~10月13日に大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)で開催される。150か国・地域の参加を目指しており、総来場者は2800万人を見込む。

 テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。最先端技術による健康と長寿の実現や、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGS)」達成への貢献も目標に掲げている。

 会場(155ヘクタール)は「空(くう)」と呼ばれる5か所の大広場を、メイン通りでつないで構成。中央の「パビリオンワールド」、野外イベントも可能な「グリーンワールド」、花火なども行える「ウォーターワールド」の三つに分かれる。

大広場「空」のイメージ図

 コンセプトには「未来社会の実験場」を掲げており、最新の情報通信技術(ICT)を随所に活用した参加・体験型展示を目指すとされている。

 国は昨年末、開催計画を記した「登録申請書」を博覧会国際事務局(BIE、パリ)に提出した。今年6月のBIE総会で承認されれば、参加招請活動が可能になる。10月からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される万博で、各国への働きかけを本格化する予定だ。万博の運営主体「日本国際博覧会協会」は春にもロゴマークを決定する見込みだ。

ワールドマスターズゲームズとは?

生涯スポーツ 誰でも参加可

2017年のニュージーランドでの大会で行われたマラソンの様子(WMG2021 関西組織委員会提供)

 ワールドマスターズゲームズ(WMG)は、おおむね30歳以上の人であれば誰でも参加できる生涯スポーツの祭典だ。1985年のカナダ・トロントでの第1回大会以来、ほぼ4年に1回のペースで開かれている。2021年5月の関西大会は10回目で、アジアで初めてとなる。

 開催期間は5月14~30日の17日間で、全35競技59種目が用意されている。競技は年齢別などのグループに分かれて実施し、それぞれ金・銀・銅のメダルを授与する。

 会場は、近畿2府4県に福井、鳥取、徳島、岡山を加えた2府8県に及ぶ。これほどの広い地域での開催は史上初という。開会式は京都市の平安神宮周辺、閉会式は大阪市の大阪城ホールで予定する。

 今年2月から競技への一般参加申し込みが先着順で始まる。締め切りは来年2月までだが、各競技とも定員に達し次第、締め切る。

 大会期間中、国内から3万人、海外から2万人の計5万人が参加する予想だ。前回大会の参加者は約3万人で、関西大会の参加者は史上最多になる見通しだ。

 過去の大会では、国内選手は平均で9.4日、海外選手は15.8日、開催地に滞在した。関西大会の組織委員会では、出場選手らの宿泊費や飲食費など直接的な経済波及効果だけで1461億円を見込む。知名度の向上に伴う訪日客の増加などを含めると、大会終了から29年末までの「レガシー(遺産)効果」は1兆868億円に達すると試算している。

リビングラボとは?

病気予防へ 市民と病院連携

 どれほど有用な技術や知見であっても、研究室の中だけにとどまっていては、実際に社会で役立てられることは難しい。実用化されるには、社会の担い手によって検証され、改良されるといった過程が必要なのではないか――。こうした考え方から、市民や企業、自治体などが計画段階から参加し、意見を出し合って、研究機関とともに実証実験などを進める手法が「リビングラボ」だ。国内でもここ数年、各地で様々な取り組みが始まっている。

 市民に身近な健康や医療の分野でリビングラボに取り組もうと、電通と阪急阪神不動産、読売新聞大阪本社の3社は昨年秋、一般社団法人「健康医療クロスイノベーションラボ」(大阪市北区)を設立した。大阪大の澤芳樹教授が理事長を務め、心臓病や認知症、生活習慣病の予防に向けた事業を展開する。

 第1弾として手掛けているのが、心不全患者が病院と連携しながら自らの体調を管理する「ハートノート」の普及支援だ。

 心臓のポンプ機能が弱った患者に、脈拍や体重、体調の変化などを点数化して専用ノートに記録してもらう。症状の悪化を点数によって患者自身が把握できるので、緊急度が高い場合に救急外来を迅速に受診することにもつながる。

 北野病院(同)の医師らが考案し、大阪府内の一部病院が採用。地域社会でさらに広げるために、同ラボでは多くの企業に協賛を募っているほか、ノートをスマートフォンのアプリで利用できるようにする事業などに取り組んでいる。