• 海外プロジェクト探検隊~世界の仕事現場を見に行こう!~  「海外プロジェクト探検隊」は、三菱商事が海外で展開しているさまざまなプロジェクトの現場を高校生たちが訪問し、現地の模様や肌で感じたことをリポートするシリーズ企画です。 海外プロジェクト探検隊~世界の仕事現場を見に行こう!~

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vol.5 夏休み カナダ 製紙原料プロジェクト体験ツアー

Alpac社 製紙原料工場

五十嵐 真理(18歳) 聖心女子学院高等科3年
五十嵐 真理

やっとこの時代が来た

 青々とした広大なカナダの空を背景に、日の光に反射しキラキラと舞う、鉄塔から放出された木片チップ。この美しい情景は、そこが製紙原料工場とは思えないほどであった。

Alpac社の末松さんがていねいに工場を案内してくれましたAlpac社の末松さんがていねいに工場を案内してくれました
 私たちが訪れたAlpac社 製紙原料工場は、「工場排水や空気汚染などの環境被害を及ぼす」という、工場に対する私のイメージをくつがえすほどきれいに整備されていた。それは、工場の清潔さという面ではもちろん、視覚的にも美しいものであった。

 Alpac社は環境と経済の調和を図っている会社で、「いかに生態系を壊さずに持続性のある森林管理を行うか」が課題であるそうだ。その環境意識の高さは、予想を遥かに超えるものであった。

 私にとって非常に驚きだったことは、この工場には生物学者が6人もいるということだ。彼らはAlpac社が持つ森林を、保護区とまったく同じ生態系に近づけるために、日々調査を続けているのである。

将来、自分が植林体験をした木を見に行きたいです!将来、自分が植林体験をした木を見に行きたいです!
 私たちは、Alpac社に勤務する生物学者であるShawnさんのガイドによってAlpac社の森林を訪れた。そこには、アルバータ大学の研究生が調査のために来ていたり実験物があったりと、パルプ工場の森林とは思えない様子であり、Alpac社の環境ビジネスのあり方を目の当たりにした。

 その他にも、細かな部分にまで手を抜かずに取り組んでいる。例えば、燃料として化石燃料ではなくみずからの工場で生成されるバイオ燃料を使っていたり、二酸化炭素などの温室効果ガスの削減のために輸送を貨車で行っているということだ。

 一方、経済効率の面では、Alpac社の目標は「世界で一番生産コストの安い工場を目指す」ということだ。日本人としてAlpac社をまとめる斎藤社長は、工場設立から今に至るまでを語ってくれた。

 設立当初、彼は、これからはより環境問題が重視される時代になると見込んだ。その上で将来的にコストを削減するために、最新鋭の技術を盛り込んで環境への影響が少ない設備にした。

工場は驚くほどきれいでした!工場は驚くほどきれいでした!
 そして今、企業の環境問題への取り組み方が問われる時代になった。「やっとこの時代が来た」という斎藤社長の言葉は重みがあり、感銘を受けた。斎藤社長に出会って、リーダーに必要なものは信頼と先見の明であると感じた。

 企業が環境対策をすることが、きれいごとではなく最低条件とされているこの時代に、Alpac社のような企業が増えていけば、環境も変わっていくし、自己中心的な考えを持ってしまいがちなこの世界のあり方までも変わっていくのではないかと思った。

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大谷 香織(16歳) 豊島岡女子学園高等学校1年
大谷 香織

Dream Factory

 「こんな夢みたいな工場がカナダにあるの!?」。これが、私のAlpac社 製紙原料工場に対する第一印象だ。

Alpac社製紙原料工場。スケールがとにかくすごいAlpac社製紙原料工場。スケールがとにかくすごい
 Alpac社はアルバータ州アサバスカにあり、三菱商事と王子製紙が資金を出し合って出来たパルプ生産会社だ。工場周辺の森林から運んできた木を加工して、パルプと呼ばれる紙の原料を作っているのだが、1日トラック400台分というその生産規模もさることながら、行っている事業内容の完成度がとにかくすごい。

 まず、伐採する木の量より木の成長量の方が多いので、木が減らない。また、植林によって工場から発生する二酸化炭素が全部吸収されるので、Alpac社の二酸化炭素排出量はゼロ。しかも、川から引いてきた水を工場で使った後、引いてくる前よりキレイにして川に返している。

この水槽、実は工場で使った後キレイにした水が入ってますこの水槽、実は工場で使った後キレイにした水が入ってます
 おまけに、工場周辺に住む先住民族や地域住民とも信頼関係を築いているというのだ! 聞いても聞いても欠点が出てこない。

 「なぜAlpacには他の会社がなかなか達成できないようなことができるんでしょうか?」。Alpac社の会議室で思わず質問した私に、社長補佐の末松さんはこう答えてくださった。「Alpacは、環境に対する社員の意識が高いからだよ」。

 さらに斎藤社長は、嬉しそうに社員の方に耳打ち。「My answer is “Because you are working here”!」。私はこの言葉を聞いた瞬間、「“完璧なAlpac”のカラクリが分かった!」と心の中で叫んでいた。

 私は工場に来るまで、Alpac社は機械的にパルプを作って、何の苦労もなく完璧な事業内容を達成しているんだと思い込んでいたのだ。だから、現実味が感じられない“夢の工場”というイメージを拭えずにいた。

植林体験にもチャレンジ。意外に難しい!植林体験にもチャレンジ。意外に難しい!
 しかし今回、工場を自分の目で見て、Alpac社の完璧さは、自分の仕事に誇りと責任を持ち、「Alpacをもっと良いものにしたい!」という貪欲なまでの意欲を持つ社員の方一人ひとりの努力の積み重ねによって、気の遠くなるような長い道程の末に成り立っているということに気づいたのだった。

 その後、「でもAlpac社の社員の方がみんな素晴らしいのはなんでだろう」と考えていたとき、私は古典で習った“徳治政治”を思い出した。常に先のことを見通し、環境保護に少しも手を抜かず、社員に全幅の信頼を置いている。そんな斎藤社長の“徳”が、知らず知らずのうちに社員の方々に広がって、今のAlpac社ができていたのだ。

 古典の中だけの世界だと思っていた“理想の統治”が実現されている企業がある。その事実に気づいたとき、私は「世の中まだまだ捨てたもんじゃないな」と思った。

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小槻 瑞木(15歳) 頌栄女子学院高等学校1年
小槻 瑞木

3つの柱を大切にした事業展開

とてもきれいなAlpac社の工場。皆さん、私たちを快く迎えてくれたとてもきれいなAlpac社の工場。皆さん、私たちを快く迎えてくれた
 カナダのアルバータ州北部に、三菱商事が製紙原料プロジェクトを展開しているAlpac社の工場はあった。ここは州政府により、四国と九州を合わせた広さとほぼ同じ580万ヘクタールの森林の伐採権が認められており、紙の原料になるパルプを年間64万トン(量にして1日に大型トラック400台分以上)製造し、北米のほか日本・韓国・中国などに供給している。

 Alpac社では、(1)森林環境の保全(2)環境に優しい生産工程(3)地域社会への貢献という3つの柱を大切にして事業を展開している。森林環境保全のために年間200万ドル以上を投資し、伐採もただ機械的に切るのではなく、自然の生態系に近づけるために、どの木を切るのかコンピューターで慎重に選択している。

 また、伐採量よりも木の成長量の方が多くなるように調整しており、年間1200ヘクタールの植林も行っている。私も植林を体験しながら、「この木がパルプになるのはいつごろだろう」と思いをはせた。

製品が出来上がっていくまでの工程は驚きの連続だった製品が出来上がっていくまでの工程は驚きの連続だった
 2005年には、世界で最も権威ある“FSC森林管理認証”を取得した。これは、「環境・社会・経済のすべての側面に配慮した持続可能な森林経営である」と認められた証である。

 生産工程においても、様々な工夫が行われていた。地球温暖化が問題となっている今、企業には二酸化炭素の排出量を減らすことが求められているが、Alpac社で使う電力の大半は、木材パルプを作る際に発生する“黒液”と呼ばれる廃液を燃料とする“バイオマス発電”によってまかなわれている。

 2006年には、排出した温室効果ガスを、植林することによって相殺する「カーボンニュートラル」を北米で初めて達成した。

 このほか、パルプの運搬に車ではなく貨車を使ったり、漂白工程では通常使用する塩素ではなく二酸化塩素を使うことでダイオキシンの発生を防いだり、排水や排気も厳しく規制している。工場からの排水が入った水槽の中で金魚が元気に泳いでいるのを見て、ここまでできるものなのかと感動した。

木の苗が入った袋を背負い、1本1本手作業で植えていく木の苗が入った袋を背負い、
1本1本手作業で植えていく
 斎藤社長の「まず地域のことを考え、地域と共存し理解されるようにすることが、ひいては会社の利益に繋がる」という話が印象に残った。

 現在、森林管理エリアには、2万4000人の先住民が居住している。Alpac社は先住民を不安にさせないように何度もミーティングを重ね、森林管理計画を共同で作成、狩猟活動を妨げない配慮、先住民の学生への奨学金や正社員としての雇用、業務委託なども行っている。

 FSC森林認証を受ける基準項目の中に、「地域住民とどの程度理解しあっているか」というものがあるそうだ。これは人間関係の問題であり、クリアするのがとても難しいそうだが、認証を受けることができたということは、地域社会と厚い信頼関係を築くことができているということなのだと思った。

 工場見学を終えた私たちから自然に出た言葉は「Alpac最高!」だった。

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谷 圭菜(18歳) 富山県立呉羽高等学校3年
谷 圭菜

先住民を重視するAlpac社

 大企業は、生産活動の拠点で地域住民の意向を軽視する傾向が強い。実際に私たちは、住民が不利益を一方的に被るという話を、メディアを通して知らされている。

先住民との共生が進められているカナダ・アルバータ州の森先住民との共生が進められているカナダ・アルバータ州の森
 カナダ・アルバータ州のAlpac社 製紙原料工場は、韓国の国家面積に匹敵する敷地面積の森林を管理しており、その敷地には先住民が15民族生活しているという。私がびっくりしたのは、その15民族とAlpac社の関係である。

 Alpac社は、「先住民との関係は良好である」と胸を張っていたからである。良好な関係を築くきっかけになったのは、第一に、先住民の狩猟機会を確保したり、自然環境を保護したりする“森林管理計画”を、先住民とAlpac社で共同作成したことである。

 第二に、先住民からの理解を得るために、Alpac社が従業員の10%近くを先住民から雇用していることである。さらに、先住民の子どもに奨学金を提供していることである。

カナダ・アルバータ州で植林体験をする海外プロジェクト探検隊員の谷圭菜カナダ・アルバータ州で植林体験をする海外プロジェクト探検隊員の谷圭菜
 先住民の子弟は奨学金による高等教育を受けることで、みずからが育った故郷、すなわちAlpac社が生産活動を行っている地域への愛着とその価値を学ぶのではないだろうか。Alpac社と先住民との信頼関係が、未来に渡って続いていく可能性があると私は思っている。

 21世紀の現在、世界の経済活動は、消費者が安全性や環境に配慮した企業活動を評価し、それが企業の株価に反映する形を取り始めている。利益追求だけが優先されるのではなく、利益も安全性も環境配慮も同時に求める「企業の社会的責任(CSR)」が優先されるのである。

 Alpac社は、パルプ生産工程に、環境に最大限配慮したシステムを採用している。漂白工程に北米で初めて二酸化塩素を使用した結果、塩素を使用した際に出るダイオキシンの発生を抑えることができ、有毒化学物質とは無縁のクリーンな工場にすることができたという。

 さらに、生産工程で発生する不要な樹脂をリサイクルし、工場内のゴミ減量化を進めるために“バイオマス発電”を導入した。これにより、工場内で必要な電力のすべてを、このバイオマス発電が供給することができるようになったそうである。

 そこには、産業から排出されるすべての廃棄物や副産物が資源として活用され、全体として廃棄物を生み出さない生産を目指す「ゼロ・エミッション」の理念が息づいていると、私は強く思った。

水蒸気を排出するAlpac社のバイオマス発電施設水蒸気を排出するAlpac社のバイオマス発電施設
 Alpac社の取り組みに関心を抱いたり、共感したりした企業関係者が、世界各国からAlpac社へ視察に訪れている。独自の生産システムを、「企業秘密」を盾に公開を拒むようなところがないのが、Alpac社の最大の特徴だと私は思う。

 ライバル会社にノウハウを盗まれたり、発想を横取りされたりする恐れがあるにもかかわらず、Alpac社は一貫して視察を受け入れる「オープン・マインド」を徹底している。

 その理由について、Alpac社の斎藤社長は「私たちの企業秘密を盗もうとしても、それは無理である。個々の技術は工場全体の技術と結びついており、ひとつの技術を移転したとしてもパーツに過ぎないからである。何かひとつを盗もうと思ったら、Alpac社全体の技術を移転せざるを得ないでしょう」と語った。

 Alpac社の利益は、かなりの高水準であるという。私は、効率や利益を追求するあまり公害を生み出したり、消費者の安全性を損なったりする企業が後を絶たないことを知っているだけに、利益追求と環境優先が矛盾しないモデルが存在することを知らされて、目を丸くした。

 「矛盾したものを同時に追求しながら現実化してゆくための最大の秘密は、斎藤社長の話から何度も伝わってきた『熱心さ』と『たゆまぬ努力』である」。私はそう学んだのである。

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大庭 直也(17歳) 福岡県立筑紫丘高等学校2年
大庭 直也

キーワードは「持続可能な森林開発」

大草原の中にあるAlpac社製紙原料工場。敷地面積は成田空港の半分ほど。さすがに広い!大草原の中にあるAlpac社製紙原料工場。敷地面積は成田空港の半分ほど。さすがに広い!
 Alpac(Alberta-Pacific Forest Industries Inc.)社は、アルバータ州にある製紙原料工場である。三菱商事は1960年代からカナダを中心に製紙原料事業に関わっており、1988年には実に韓国の国土面積に匹敵する大規模な森林伐採管理権を得た。そこから採れる木材でパルプ生産を行うAlpacプロジェクトは1991年に着工し、工場は1993年に操業を開始した。

 製紙の現場を見せていただいた。木材を細かく砕いたチップを高温高圧で煮溶かし、繊維を取り出す。繊維はボッシング(ほぐし、汚れを取り除く)や漂白の工程を経て、濡れた脱脂綿のような木材パルプになる。それを薄く広げ、圧縮を繰り返し、水分を抜いて紙にする。この過程では、再利用できるものが多くある。

 パルプにならなかった木材の残りは、バイオマス発電に使われる。チップから繊維を取り出すときに同時に出る“黒液”は工場の燃料として使われ、燃焼の際に出る蒸気でタービンを回せば発電ができる。その発電量は、工場で必要な電力を超える。

 最終的に川に戻される排水は、その川から取り入れる水よりもきれいで、環境基準を大幅にクリアしているそうだ。工場はどうしても環境を悪化させるイメージがあったので、この技術力には驚かされた。

植林に挑戦。土が堅い! なかなか掘れなくて大苦戦植林に挑戦。土が堅い! なかなか掘れなくて大苦戦
 環境保護の努力は、森林の中にも表れていた。11年前に伐採した森林を見せていただいた。伐採の方法は「山火事のような切り出し方」といわれ、すべての木を伐採するのではない。現在は、伐採されなかった古い木と、伐採後に生まれた新しい木が混ざっている。

 木の年齢によって近づく生物種が違うので、森林には多様な生物がいる。さらに、倒木や切り落とした枝葉も除去しない。これらは小動物の住みかになる。大切なことは、森林やその生態系がありのままの状態に保たれていることである。

 Alpac社での話の中には、「持続可能な森林開発」という言葉が繰り返し使われた。環境を守るためには、ただ伐採量を減らせば環境に優しいということではない、「ありのままの自然」を保ち続けられることの方がよほど大切なのだということを感じた。

 Alpac社所有の森林の中には、まったく手を加えていない保護区(Ecological Benchmarks)がある。ここと比較することで、自分たちがありのままの自然に影響を与えていないかどうかを調査するそうだ。

Alpac社の森林に住むカエル。生態系が保護されている証拠Alpac社の森林に住むカエル。生態系が保護されている証拠
 このような努力の結果、Alpac社は2005年には世界的な環境基準であるFSC(Forest Stewardship Council)による森林管理認証を取得した。非常に厳しい基準で、カナダ西部では初の取得だった。実は、FSCには意外な審査基準がある。「先住民と共存」していることだ。Alpac社社長の斎藤氏は、私たちにこのように話してくださった。

 「自分たちの都合だけで決めた伐採地域は、実は先住民の聖地かもしれない。このようにならないため、私たちは先住民と相談して伐採地域を決め、先住民を社員として採用し、信頼を得るのです」

 FSCやAlpac社が先住民を重視するのは、彼らが自然と共存してきたからではないだろうか。彼らが自然とともに永く暮らしてきたように、自分たちもこれから自然と永く共存しないといけない。その点で、先住民は見習うべき存在なのだろう。

 ありのままの自然を保ち、共存していかないと「持続可能な森林開発」は達成できない。Alpac社の先見性は、地球環境に貢献している。

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加藤 利幸(17歳) 早稲田大学高等学院2年
加藤 利幸

工場見学~百聞は一見にしかず

 Alpac社の製紙原料工場では、アルバータ州北東部の森林資源を利用してパルプの製造を行っている。工場の北側には森林が広がっているが、南側は木が少なく広大な草原になっている。その中を貨物列車が走り、パルプを港へと運んで行くのである。

パルプを運ぶ貨物列車パルプを運ぶ貨物列車
 バスに乗って移動していた僕たちが工場を見てまず気になったのは、工場からモクモクと立ち上っている白い煙だった。一体何が含まれているのか一瞬不安になったが、そんな心配は無用であった。

 煙の中に含まれているのは、ほとんどが水蒸気。ダイオキシン等の有害なものはほとんど含まれていないそうだ。この工場の建設が始まったのは1991年。最新鋭の環境技術によって作られたこの工場に、僕たちは最後まで驚かされ続けた。

工場の中の様子工場の中の様子
 会議室で説明を受けた後、ヘルメットと耳栓を着用した僕たちは工場へと向かった。工場と聞いて油まみれの場所を想像していた僕だったが、予想とは裏腹に、工場の中は意外にきれいで清潔であった。

 工場の方のお話によれば、Alpac社の工場は他社に比べると圧倒的にきれいであり、それは安全性を高めることにもつながっているそうだ。このような地道な努力によって、地域住民の理解も得られ、工場の運営が可能になっているのだと思う。

 もちろん、Alpac社の工夫は工場の中だけにとどまらない。原料である木を伐採する際にも、様々な活動が行われている。

外から見た工場の様子外から見た工場の様子
 まずは、環境を破壊しないようにすること。木を切った森林が元通りに再生することだけでなく、そこに住む生物や植物による生態系の研究まで行い、最善の伐採方法を考えているというから驚きだ。また、森の中に住む先住民の生活に問題が出ないようにすること。さらには、森林内におけるほかの産業との共存……。

 Alpac社は、持続可能な森林開発を行うために、僕たちが想像もできないようなところまで研究を行い、話し合いを行い、実際にそれらに取り組んできたのである。

 僕は、Alpac社の工場を見学し、またお話を聞くことによって、日本にいるだけでは知ることができなかったことをたくさん知ることができた。Alpac社の方々を始め、今回お世話になった方々に深く感謝したい。

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行徳 圭太郎(19歳) 福岡大学付属大濠高等学校3年
行徳 圭太郎

アサバスカの財産

 私は、製紙原料工場というものに関してほとんど知識がなかった。Alpac社に行ってみると、まず日本では絶対に見ることのできない土地の広大さに度肝を抜かれた。カナダ政府(正確にいうとアルバータ州政府)から認められた伐採地域は、なんと韓国とほぼ同じ面積なのである。

大規模なAlpac社の工場外観大規模なAlpac社の工場外観
 次に、工場のきれいさである。製紙原料工場ということで、私は「紙クズやチリが積もっているのかなぁ」と予想していたが、実際はゴミひとつないのである。この点は、従業員の方々も誇りに思っていることで、この清潔さが仕事をするときのやる気や意欲にかかわってくるのだそうだ。

 また、同社は地域社会と共存しており、三菱商事と王子製紙の合併会社であるにもかかわらず、日本人従業員はわずか2名。残りの数百人の社員は、ほとんどすべて現地採用なのである。この街は人口わずか3千人の小さな街なので、地域住民の大きな支えになっていることは間違いない。

チリひとつない工場チリひとつない工場
 そして、同社の環境に関する意識の高さに驚愕した点が2つある。第1に、同社の製紙原料工場は伐採からパルプ生産まで行う大規模な工場であるにもかかわらず、森林資源のことまで考えているのである。

 年間の伐採量に対して、針葉樹、広葉樹を足した森林の成長量の方がはるかに多いのである。これは言い換えると、同社が伐採している地域で森林がなくなるということは、理論上あり得ないということになる。しかも同社が実際伐採しているのは、伐採可能な地域の41.9%しかない。その伐採方法にしても山火事の焼け跡を模範にしたもので、地域の生態系の維持まで考えている。

 第2に、有害ガスの排出量だ。これは地球温暖化問題を抱えている全世界にとって、もっとも重要な点といっても過言ではない。そこで同社は、工場から排出される水蒸気を使って発電する“バイオマス”と呼ばれる方法を用いている。

工場排水で飼われている金魚工場排水で飼われている金魚
 それによって、同社の基準は世界的に見ても厳しいカナダの環境基準を大きく下回っており、その技術はアメリカ政府などからも注目されている。工場排水にも気を配っており、バクテリアを使って有害物質を分解している。工場排水で金魚が飼えるほどである。

 以上のような点を評価され、Alpac社は、2005年にもっとも厳しい世界的な森林認証基準を持つ“FSC”による森林管理認証を取得した。同社はFSCが認証する、世界最大面積の伐採地域を誇る企業となった。

 このように、世界でもトップレベルの技術を誇るAlpac社を三菱商事が運営していることを、日本人として誇りに思った。

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小宮 友輔(15歳) 開成高等学校1年
小宮 友輔

Alpac社~世界一の製紙原料工場

 2日目、この旅の目玉のひとつAlpac社の訪問があった。着くまでは、正直心配だった。バスから見えるのは草原と森ばかり。スーパーも家もほとんど見当たらないし、道路はガタガタだし。この先にパルプ工場があるとは想像できなかった。

巨大な工場巨大な工場
 しかし、着いてみて驚いた。その光景は、僕の中のパルプ工場のイメージを完全にくつがえすものだった。見上げるような木材の山、轟音を立てて動く巨大クレーン。斎藤社長の言う「世界一のパルプ工場」の説明に、後で納得することになった。

 会議室に入ると、そこは広い窓から外が見えるきれいな部屋だった。僕たちが席につくとすぐに始まった説明の内容は、主に森林保護のことだった。

Alpac社の排水は金魚を飼えるほどきれいAlpac社の排水は金魚を飼えるほどきれい
 Alpac社の特にすごいところは、徹底した環境対策と地域社会への貢献だ。前者に関しては、まずAlpac社が植林をし、カーボンニュートラルを達成していること。驚くべきことに、これは世界でおそらく唯一だという。

 次に、ダイオキシンの発生を防ぐため、漂白に塩素を使っていないということ。さらに、Alpac社で使う電気のほとんどをバイオマス発電でまかなっているということ。同社では完璧な環境対策をしているのだ。

 もうひとつの、地域社会への貢献という点では、まず従業員の70%を地域から雇い、地域一番の雇用主となっていることが挙げられるだろう。さらに、Alpac社はファーストネーション(先住民)との関係も良好だ。これは伐採の際に彼らに相談し、彼らの雇用も行っているからだ。

 このような話を聞いた後、僕たちは工場見学に行った。まず工場を動かす中心、最新鋭の機械を持った中央制御室に行き、パルプを漂白するところ、乾燥させたパルプの形になって商品になるところ、の順に見学した。

巨大な漂白機械巨大な漂白機械
 工場の中は想像をはるかに超える広さで、自分がすごく小さく感じられるほどだった。全体的に清潔で、機械の音も静かで、工場と聞いて想像していたような不快感はまったくなく、落ち着いて工場見学ができた。

 うれしかったのは、漂白途中のパルプを見て実際に触ることも出来たことだ。色も手触りも、最初は木だったというのが信じられない気持ちだった。長い工程の後、最後に商品になって積み上げられるのを見たときには、なんだか感動してしまった。

 Alpac社で学んだことは多い。自然と、そこで働く人を大切にすること。そして妥協せず、目標を高く持ち、そのための工夫をし続けること。そして、斎藤社長の人柄や情熱にも魅せられた。素晴らしい経験になった。

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