「なんといっても、あたしら、数多い希望者の中から選ばれたリポーターやけんね。さすがと思われるような質問をせんにゃいけんよ」
日本出発前、私たちは、ウキウキしてしょうがない自分たちを何度もこう戒めあった。しかし、総合商社というもののイメージが漠然としかなかったから、「問う」動機は、本や新聞で聞きかじった知識をベースにしたものでしかなく、思い浮かぶ質問事項は、当たり障りのないものばかりだった。
ところが、メルボルンのオーストラリア三菱商事の会議室で、出迎えてくださった社長さんの「私たちは、この会社で働けてよかった、と思ってもらえるような会社を目指しているのです」という、大きなよく通る声と、その言葉にうなずくスタッフの皆さんの笑顔に、ハッと目の覚める思いがした。
(ここに集まってくださった皆さんは、高校生である私たちに、本音で何かを伝えようと思ってくださっている)と直感したのだ。本音で語ろうとする心には、本音で向かい合わなければ! カッコつけの質問は全部捨てて、とにかく皆さんのお話に、素直に耳を傾けることにした。
反日感情の波をくぐり抜けての、オーストラリアでの事業展開のきっかけ、人種の壁を越えて、従業員の会社への帰属意識を高めるための工夫。オーストラリアの生態系を壊さぬ、地域共生型のビジネス発掘。
どのお話も、時代の変化に伴って生じてくる問題点や多様なニーズから目をそらさず、みんなで会社を変革させてきたという誇りに満ちていた。
特に、「つまるところ、三菱商事の仕事とは、世界のあらゆるところのひずみを埋める役割をしているのです」というご説明には、とても感銘を受けた。
この言葉を伺った直後には、(えっ? ひずみを埋める?)と、その真意がすぐには理解できなかったのだが、私たちの?? の表情に気づかれたのか、「つまり、持っていないものがある場所に、それをたくさん持っている場所のものを供給し、助けてあげることができるように、いつでもアンテナを張っている様子をイメージしてもらえたらいいですね」という補足をしてもらい、なるほど、と納得。
円滑な流通のために、いつも世界にアンテナを張っているんだという自負、そこから生まれる世界との結びつき、世界との連帯意識が、営利だけに走った自社本位な事業展開で海外からひんしゅくを買う会社と、一線を画している大事な部分なのだろう。
どんな困難があっても、喜びをもってその歩んできた道のりを語れる会社っていいなぁ。もし自分が大学生だったら、間違いなくこの場で「私をこの会社で働かせてください!!」とエントリーしただろうな、とインタビュアーの本分も忘れて、本気で考えてしまった。
ちなみに、社屋は、どの部屋に入るのもカードによるセキュリティーチェックが万全だったが、それでも機械の力より人の温かさがはるかに勝った、柔らかな印象に満ちていた。訪問できた私たちの胸にまで、その温かみは届けられた。
三菱商事の企業の展開には、3つのタイプがある。1つは、自社の投資で、実際に事業を立ち上げて利益を確保する。今回、私たちが見学に行ったBLACK WATER MINE(ブラックウォーター炭鉱)での事業展開がこれに入る。これはリスクも大きいが、自らが主体となることにより、安定した事業を展開しやすい。
2つ目は、企業と企業の間に入って、エージェントの役割をして利益を得る。3つ目は、他にないものを提供し、その報酬を利益にしていく。この2、3両方に当たる事業が、“MR.SPIROS”が率いる自動車部品部門が行っているものだった。
彼らの仕事は、自動車を作ることでも売ることでもない。ドアやエンジンのふた、大型クレーンなど、現地にないものをオーストラリア三菱商事が日本などから輸入し、自動車会社に提供するのだ。それだけでなく、現場での安全の責任、価格の調整、日本人スタッフのサポートなど、エージェントとしての仕事を行っていた。
そして、こうした代行サービスに対する報酬を、自動車会社から得る。私は、作る会社と、売る会社があればそれでいいのだと漠然と考えていたが、その間でいろいろな人事のアドバイスをしたり、他の国からの部品仕入れ業務を担う、三菱商事のような会社の仲介業務の“質”によって、流通のサイクルが大きく変わることを実感した。
私たちの幸福な生活は、いつも見えない“努力”によって支えられている。
オーストラリア三菱商事の田名社長は、まず私たちに、これからオーストラリア三菱商事について学ぶ上で知っておくべきオーストラリアの基礎知識について教えてくださった。豪州は、歴史の浅い国でありながら、その雄大な自然を生かして、炭鉱業、農業、また観光業が発達し、日本と変わらない生活水準を保っている。田名社長は、オーストラリア三菱商事のこれからを考えて、さまざまな努力をしておられた。
例えば、日本人とオーストラリア人というように、価値観の違う人たちを会社のためにまとめるには、「この会社に入ってよかった」という気持ちにさせ、モチベーションを上げるようにしている。
また資源には限りがあり、ガスや石油はリサイクルできないので、それにとって代わる水素ガスや太陽光発電に取り組んでいる。それだけでなく、今の技術では使えない「ブラウンコール」と呼ばれる石炭を使えるように研究している。
田名社長の言葉1つ1つには、商社という仕事に対する強い思いを感じることができた。この思いこそが、社長をより高い目標へとつき動かす原動力になっているのだろう。
「ひずみを見つけることが仕事です」。
生き生きと話してくださったのは、オーストラリア三菱商事の非鉄金属部で働いていらっしゃる横山さん。世界のひずみを直し、人々から感謝されることで得られる喜びは大きいと、私たち高校生に働くことの意義を教えてくださった。
ひずみとは、世界各地にある資源の偏りであり、またそれが需要と供給の隔たりにもつながるということだ。
「非鉄金属」と聞いても、何のことだかわかりにくいかもしれないが、アルミや銅、鉛、亜鉛のことを指す。アルミはおもにサッシや車両、銅は電線、鉛はバッテリー、亜鉛はメッキ鋼板と、身の回りを見渡せば、私たちの生活している中には多くの非鉄金属が使われている。
オーストラリアでは、さまざまな種類の非鉄金属を豊富に採掘することができるため、オーストラリア三菱商事はそれらの安定供給を図っている。また、日本のオーストラリアに対する非鉄金属の依存度は高い。
日本の現在の発達した工業や高い生活水準は、オーストラリアを始めさまざまな国からの支えがあって成り立っているのだと痛感した。
オーストラリアの酪農産業と日本の乳製品市場は、切り離せない関係にある。オーストラリア三菱商事食品部の方のお話によると、日本の豪州からのチーズ輸入量は世界でも第1位だそうだ。
品目別に見ても、日本で売られているプロセスチーズ、ナチュラルチーズの各40%に豪州のものが含まれている。
ちなみに、プロセスチーズはナチュラルチーズを加熱し溶かして作られるもので、スライスチーズなどがその代表格。また、豪州から日本へのチーズ輸出取り扱いで三菱商事は1位の座を占めている。
豪州が生産する生乳量は、世界第11位とそれほど多くもないのだが、国内での消費が少ないため、その多くが輸出に回される。
私たちが訪れたオーストラリア三菱商事があるビクトリア州では、特に酪農が盛んに行われている。私たちは、オーストラリアのさまざまな種類のチーズをいただいた。とても濃厚な味がして、おいしかった。
豪州全体からの輸入品の中でも、乳製品、乳調製品が多くの割合を占めていることから、これらの製品は、日本・豪州両国にとってなくてはならない存在であるとわかった。
空港から一歩踏み出すと、日本の正月では決して味わえない強烈な日差しと気温が、僕たちを迎えてくれた。とても暑い。そこは、初めて踏んだ異国の地だった。空港から広大な草原を30分ほど走ると、メルボルンの中心街に入った。
巨大なビル群が建ち並ぶ、近代的かつイギリス文化の影響を強く受けた芸術的な建築物が共存する都市、メルボルン。そのビル群の一角に、オーストラリア三菱商事があった。
ところ変わって、ここは東京足立区のとある学校の教室。2人の高校生が、オーストラリア三菱商事について語り合っていた。
季平 「当初、僕は三菱商事って具体的にどんな仕事をしているのかわからなかったんだ。ネットとかで調べたりしたけど、明確なイメージが浮かばなかったんだよね。だから現地に行って、その活動を知ったときはとても驚いたよ。そもそも三菱って銀行だと思っていたんだけど、そのあまりの活動範囲の広さに驚かされたんだ。」
加藤 「総合商社として、カップラーメンからロケットまで取り扱っているなんて普通知らないよね。その中で、オーストラリア三菱商事は特にエネルギー産業に力を入れているって聞いたけど、世界の石油や石炭がなくなったとき、エネルギー産業はどうするんだろうね?」
季平 「そうそう、そのことについて、オーストラリア三菱商事の社長に質問をぶつけてみたんだ。そしたら、三菱商事は資源が枯渇したときのために、半永久的に使える水素発電や太陽光エネルギーに取り組んでいるんだって。それを聞いて最初、僕は、そんなことは表向きだけで、実際やってないだろうと思ったんだけれど、三菱商事は本当に研究に着手しているんだ。」
「それでも、なんだかんだ言って、企業は目先の利益を追求して後先なんて考えてないだろうと思った僕は、場所は違うんだけれど、三菱商事の炭鉱で、解説してくれた人から納得の一言を聞いたんだ。」
「僕は、石炭を採掘するときに伐採した木の現状回復義務(リハビリテーション)について、本当に行われているのかという失礼な質問をしたんだけど、こんな納得の答えをしていただいたんだ。」
『確かにそういう質問はもっともですけど、一度開発したところをそのままにしておけば、コスト削減につながるというのは、大きな誤解だと思います。例えばです。私たちがこの炭鉱を掘るときに、開発した土地をそのままにしたとしますよね。そうしたら、そこはそのまま砂漠になってしまいます。』
『しかしリハビリテーションをすれば、また放牧ができたり、農業を行うことができたりするんですよね。つまり、確かに短期的な視点から見たら利益になるかもしれませんが、長期的な視点から考えると、それは大きな損失になるのです。』
季平 「僕はこれを聞いたとき、企業の視野の広さに驚いたよ。だから、何十年後のエネルギー問題に、すでに企業が積極的に取り組んでいると聞いて、僕はそれに関して、かなり明るい展望があると思う。やっぱオーストラリアは広大だから、そこに住む人間も視野が広くなるのかな(笑)。」
加藤 「だからって、エネルギーの無駄づかいはしちゃいけないけどね。俺が一番強い印象を受けたのは、オーストラリア三菱商事の社長の言葉で『新規ビジネスの開拓こそ成長の鍵』だったな。今までにないビジネスを開拓し、失敗を恐れずに挑戦したからこそ、今の三菱商事の成功があるんだなって思ったよ。」
「でも、これってビジネスだけじゃなくて、俺たちの生活にも当てはまることだよね。既存の価値観や物事にとらわれるんじゃなくて、新たな価値観の創造や開拓こそ、人生の成功につながるんじゃないかって強く感じたな。」
僕たちは飽きもせず、こんな話を連日遅くまで続けた。この経験が、僕たちの人生に与えた影響は計り知れない。普段の生活では決して味わうことのできない機会を与えてくださった、スタッフやオーストラリア三菱商事の社員の方々を始め、このプロジェクトに関わった多くの人に感謝したい。
今、男子大学生(文系)の就きたい職場ランキング☆第1位☆の三菱商事。僕たちは、その豪州現地法人に行ってきた。まず、第一印象……でかい!……景色がいい!……なんかすごい! と素朴に思った。
僕たちが行ったオーストラリア三菱商事があるメルボルンという町は、ヴィクトリア州の州都。オーストラリアの中ではシドニーに次ぐ第2の都市と言われており、日本に例えると大阪のような人口約370万人の大都市だ。
街を歩いていていると、どれも映画の中に出てくるような風景ばかりでとても美しく、また、実際そこに住んでいるオーストラリア三菱商事の駐在員が言うには、「すごく住み心地の良い町!」でもあるらしい。
街の中では、日本で言う『チンチン電車』がいたるところに走っていて、市内を網羅しており、市民の通勤の足となっている。まるで、古いヨーロッパの街並みのようだった。そんな町を見て、真冬の東京から来た僕たちも、この真夏のメルボルンに住みたくなっていた!
そんなメルボルンの中心地にある、たくさんのビル群の中でもひときわ大きく目立つビルの中に、オーストラリア三菱商事の会社があった。僕たちは、そのビルの30、40階くらいの高さにある会議室で、オーストラリア三菱商事の社長やいくつかの部門の人から、仕事の内容から環境のことまで聞かせてもらった。
僕たちが疑問に思ったことや興味のあることをたくさん質問し、オーストラリア三菱商事の人からていねいな説明を受けて、ある程度事業の内容を把握できた。これによって、僕たちがもっていた三菱商事という会社への漠然としたイメージが、より具体的な理解へと変わったと思う。
オーストラリア三菱商事という会社は、三菱商事の兄弟会社だと思っていたが、そうではなく日本にある三菱商事が出資している子会社であった。そして、正社員のほとんどは現地のオーストラリア人であり、数少ない日本人社員は派遣社員で、会社自体は『現地法人』という形式をとっている。
こうして、日本人が派遣社員としてオーストラリア三菱商事でオーストラリア人と一緒に仕事をしている理由は、日本の三菱商事と、オーストラリア三菱商事で働くオーストラリア人、双方の意向をうまく調整するためであるそうだ。
今、オーストラリア三菱商事で重要なことは、オーストラリア人の社員自身に、いかにして充分に力を発揮してもらうかということだ。そのためには、日本からの派遣社員を現在の人数より減らしながら、現地採用の人を増やし、ビジネスのコアとなる人材を育成していくことが必要らしい。
実際の活動としては、人材を育てるためにコーポレイト(corporate)と呼ばれる非営業部門にも力を入れており、オーストラリア三菱商事の子会社をサポートし、人材派遣のような新規ビジネスの開拓も行っている。
オーストラリアという国は、もともと自国を発展させるために外資を非常に歓迎している国らしく、三菱商事が事業を展開させていくのはそう難しくなかったそうだ。
しかし、そのぶん三菱商事以外にも多くの会社が進出を図ろうとするので、ライバル会社が多くなり、その点では事業展開に失敗するリスクが大きい。その中で三菱商事は成功し、利益を上げていっている。
今、オーストラリアだけでなく世界中が、いつかは資源が底をついてしまうことを恐れ、心配しているが、三菱商事ではその問題について真剣に考えていて、石油やガスを使わない『水素ガスのエネルギー』や『太陽光発電から得るエネルギー』などに取り組んでいるそうだ。
そして今、オーストラリアに最も大きなダメージを与えている大干ばつ。これはやはり、オーストラリア三菱商事のビジネスにも大きな影響を与えている。しかし、日本への輸出に関しては、今のところ大きな支障には至っていない。
そんなオーストラリア三菱商事だが、オーストラリアという国は、たくさんの人種や種族の人たちがいるので、1つの仕事で同じ仲間として協力し合うのは容易なことではない。しかし、そんな仲間たちで仕事を明るくHAPPYにやり遂げられるように、オーストラリア三菱商事は日々努力をしているそうだ。