第3回 都心緑化が生む新たな価値
「グリーンインフラ」都市を潤す

緑化率40%超 緑のビル
雨水蓄え、ヒートアイランド現象抑制
住友林業緑化が植栽施工・管理

壁面や屋上庭園などの豊かな緑がビルを包む。三井住友海上駿河台ビル(東京都千代田区)

 豪雨や猛暑をはじめとする異常気象、生態系への影響など地球温暖化をめぐる課題がかつてないほど顕在化している。カギとなるのは、木や森の緑に代表される豊かな自然の生態系、そこで育まれる生物多様性のさまざまな働きだ。この自然の恵みを社会資本に生かす動きが広がっている。全3回シリーズの最終回では、東京都心のオフィスビルの緑化の取り組みから、緑と森の新しい価値を考える。

屋上庭園は一般開放し地域の憩いの場となっている。菜園は地域の人にも貸し出されている

皇居と上野の間に


「皇居と不忍池をつなぐ都心の生態系ネットワークづくりを目指した」と語る三井住友海上の浦嶋課長

 東京都心のオフィス街の一角に、メジロやジョウビタキ、ツグミなどの野鳥が飛来し、バードウォッチングを楽しめるオフィスビルがある。三井住友海上火災保険の本社がある三井住友海上駿河台ビル(東京都千代田区)だ。豊かな木々の緑がビルを包み込み、憩いの場として地域の宝物になっている。

 

 このビルは、敷地に占める街路樹や屋上庭園など緑化施設の割合を示す緑化率が40%を超える。1984年に完成した駿河台ビルの建設時に、地域の人々から「緑豊かなビルにしてほしい」との声が寄せられ、緑化に取り組んだ。さらに地域の緑への思いを発展させようと、2012年に完成した新館建設に合わせて緑化を進化させた全体の再開発が進められた。

分断されていた生き物の生活圏をつなぐエコロジカル・ネットワークを生み出すことに挑戦

 

 再開発では、緑地全体を生物多様性に配慮する形で見直し、皇居と、不忍池などがある上野公園の中間地点という立地を生かし、野鳥が羽休めできる中継地点をイメージした。

 

 三井住友海上の浦嶋裕子・総務部地球環境社会貢献室課長は「東京の真ん中には皇居という自然の宝庫がある。それを生かし都心で緑の価値を最大限に引き出した空間を創りたかった」と説明する。

ヤマガラが飛来 多様な昆虫集う

 この緑地を施工し、現在も管理を委託されているのが住友林業緑化だ。緑化の施工とコンサルティング事業を行い、オフィスビルや公園・商業施設、住宅の造園、街づくりなど、幅広く展開している。この再開発では計画段階から携わり、野鳥が好きな実や蜜などを参考に植える木を一本ずつ決めた。隣接する街路には、それまで飛来していなかったヤマガラが好む実をつけるエゴの木を植えて、里山の雑木林のような自然空間を創った。結果、ヤマガラ=写真=が飛来し、緑地では昆虫の種類も増えた。

 毎月1回、三井住友海上と同じMS&ADグループのインターリスク総研など緑地に関係する部署、企業が出席する会議を開催し、生物の観察結果や海外の先進事例などの情報を共有する。浦嶋課長は「住友林業緑化から専門家ならではの知見を頂いている。常に最新の取り組みができる研究プロジェクトとしての運営が行われている」という。

 このビルは現在、自然が持つ多様な機能を活用する「グリーンインフラ」の都市での先進事例として注目されている。ビルの緑地は、周辺エリアに冷たい空気をもたらし、ヒートアイランド現象を抑える効果が確認された。豊かな緑は雨を蓄える機能を持つため、短時間で大量の雨が降った時には下水道への負荷を減らし、都市災害を軽減する役割も担っている。

 ここには、さまざまな生物が生息し、生物多様性を育んでいる。住友林業緑化の伊藤俊哉・生物多様性推進室長は「都市で緑を適切に配置することがグリーンインフラとなり、そこから生物多様性などの自然の恵みが導き出される」と説明する。

 現在、地球が数十億年の年月をかけて育んできた生態系が、崩壊の危機に直面している。地球上の生物は、その1種だけでは生きていけず他の種との共存共栄で生きることができる。伊藤室長は「人間が自然と共生できているどうかを測る健全性の指標が生物多様性。都市で再開発が進む今が持続可能な社会基盤をつくる絶好の機会」と、生物多様性に配慮した開発の意義を語る。

 グリーンインフラの考え方は近年、政府の国土形成計画にも盛り込まれている。日本の国土の約3分の2を占める森林は、最大のグリーンインフラとなりうる。「木・森・緑」の持つ多面的な機能を最大の社会資本ととらえ、持続可能な活用を推進することが、様々な分野が直面している社会課題の解決に向けた確かな道となる。

※グリーンインフラ
自然環境が持つ多様な機能を活用し、持続可能な社会と経済発展をもたらすインフラとして整備する考え方。

住友林業グループの総力を結集して生まれた「フォレストガーデン秦野」

湧き水活用 「緑のまち」に
住宅地にドジョウやカワセミも

 住宅地でも地域の豊かな自然の力を最大限に活用する手法の開発が進んでいる。住友林業グループが手がけた「フォレストガーデン秦野」(神奈川県秦野市)は、富士山など美しい景色が望める場所にあり、住宅地の中心の公園は、昔から地域の人々に利用されてきた湧き水を生かしている。水辺には絶滅危惧種に指定されているホトケドジョウが生息し、カワセミが訪れる。水の音とともに四季の豊かな自然を感じながら暮らすことができる「緑のまち」として、子育て世代に人気を集めている。

森林手帳
 上野動物園は、ジャイアントパンダの赤ちゃんの誕生に沸いている◆子供のころ、遠足や家族と訪れた動物園で、絵本の中だけでしか会えなかった動物たちと直接、対面できたという思い出を持つ人は多いだろう◆動物園では希少動物を含めてさまざまな生き物に触れることができる。だが現在、生物多様性は失われようとしており、このままでは多くの生物が絶滅しかねない◆「人類が豊かに生存を続けるための基盤となる地球環境は限界に達しつつある」(2017年版環境白書)という◆絵本では動物を擬人化し、人間の友達として描かれているものが少なくない。上野の森の緑とともに、動物たちと地球の声に耳を澄ませてみよう。

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