私たち人間には、十人十色であるはずの人々を十把一絡(じっぱひとから)げにカテゴリー化し、ラベリングして、隔離、偏見、差別を行う、認知や行動の癖のような現象(スティグマ)があります。障碍(がい)を抱える人は、こうした偏見や差別を社会や周囲から様々な形で受けますが、特に厄介なのは、当事者が自分自身にネガティブなレッテル貼りを行う現象です。そこから抜け出すための対処行動にはいろいろありますが、その中で重要なのは、理解ある他者と一緒に自分の価値を取り戻し、他人の評価から自由になるという方法です。
偏見や差別は、それらを負った者とそうでない者が、対等な関係で共通の目標に取り組み、それをバックアップする体制が整えられたときに減らすことができます。マジョリティーもマイノリティーも弱さを抱えた当事者です。弱さをオープンにできる組織は心理的安全性が高く、組織全体のパフォーマンスやウェルビーイング(幸福度)を高めることも証明されており、近年はこうした見地からの組織マネジメントも始まっています。
難病患者さんの中には、学校や職場において十分な支援や理解が得られず、退学や退職を余儀なくされたり、婚約相手の家族に遺伝性疾患が見つかって結婚を諦めた方がおられます。希少疾患に遺伝性疾患が多く、偏見の原因となっていることは事実ですが、遺伝因子と環境因子との関わり合いで発症する生活習慣病などの普通の病気(コモンディジーズ)も、発症原因として遺伝的背景が関与しているということがわかってきました。
現在、希少疾患の研究は未来の医療を変える大きな潮流となっているとともに、不治の病とされてきた疾患においても様々な治療法が開発されつつあります。こうした医療の進歩に比べ、希少疾患の患者さんを受け入れる社会はまだまだ発展途上といえます。すべての人がより良く生きるためには、ただ生きるだけでなく、生活の質(QOL)の向上が大切です。「健常者が当たり前にできることをできない人がいる」ことを社会の当たり前として認知し、多様性のある社会を広げていくことが課題だと考えています。