


富山大学医学部第二内科 教授
絹川 弘一郎氏 富山大学医学部第二内科 教授
(きぬがわ・こういちろう)1988年東京大学医学部卒業。米国で博士研究員を務めたのち、2002年東京大学医学部循環器内科助手、10年東京大学医学部循環器内科講師、13年東京大学重症心不全治療開発講座特任教授を経て、15年より現職。富山大学附属病院の副病院長も務める。
■心不全=心臓が止まっている?
心不全というと、多くの方が「心臓が止まっている状態」と思われるかもしれませんが、正しくは「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命(いのち)を縮める病気」(2017年に日本循環器学会、日本心不全学会が定義)です。つまり心不全とは、高血圧や虚血性心疾患、不整脈といった心臓疾患の終末の状態です。心臓のポンプ機能が低下するため、血液のうっ滞(※)による症状と、全身に血液を送れない血流低下による症状が表れます。
※血液が流れにくくなる
■気になる症状が出たら まず検査を
体重の増加やむくみ、食欲不振、夜間の呼吸困難などは血液のうっ滞による症状であり、息切れや尿量の減少・疲れやすい・手足が冷たいといった症状は血流の低下によるものです。気になる症状が表れたら、まずかかりつけ医で心電図やレントゲン、心不全かどうか採血で診断できるBNP検査などを受けてください。その結果、心不全の疑いが強いと診断された場合は、専門医を紹介されます。
■投薬やカテーテル治療 進行を抑制
心不全はいったん発症すると、4人に1人は一年以内に再入院し、後戻りできない厄介な病気です。それは、人間の体が低下したポンプ機能を維持させようと各種のホルモンが活性化し、弱った心臓にむちを打つような悪循環を引き起こすからです。事実、心不全発症後5年生存率は約50%であり、大腸がんと同程度に重大な病気といえます。ただし最近は、そうした悪循環を抑える薬剤など様々な新薬や、不整脈や弁膜症におけるカテーテル治療などにより、進行を抑制することも可能になってきました。
■心臓移植まで約4年待機 補助人工心臓で日常生活
一方で重症化が進むと、補助人工心臓や心臓移植といった外科的な治療を行わなければ救命できません。近年、法改正もあり心臓移植希望者が急増していますが、日本は臓器提供数が少なく、平均して約4年程度の待機日数が必要です。そこで、移植手術までの間、患者さんには血液循環を補助する小型の人工心臓を装着していただきます。これは、患者さんの生活の質を十分に担保できる非常に優れた治療です。体の外にドライブラインと呼ばれるコントローラーやバッテリーなどが出ているため、入浴など多少の制限はありますが、ほぼ普通に生活し、仕事をすることも可能です。
■重症心不全の治療 日本も世界水準に
米国では、移植を前提としない補助人工心臓の装着が幅広く運用されており、日本でも昨年5月から移植適応対象にない、例えば65歳以上の患者さんも、植え込み型補助人工心臓の治療ができるようになりました。日本の重症心不全の治療も、ようやくグローバルスタンダードになったと実感しています。

2010年に「改正臓器移植法」が施行され、生前の本人の意思が不明な場合でも家族の承諾があれば脳死の人から臓器提供が可能になり、年齢制限(生後12週未満の小児を除く)も撤廃され、15歳未満の子どもからの提供も可能になった。

- 絹川 弘一郎氏
- 富山大学医学部第二内科 教授
- 小野 稔氏
- 東京大学医学部附属病院 心臓外科 教授
- 遠藤 美代子氏
- 東京大学医学部附属病院 看護師長
- 大橋 未歩氏
- フリーアナウンサー
補助人工心臓から心臓移植へ 患者さんのお話

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