脊椎脊髄疾患手術・治療
脊椎脊髄疾患の治療法は日進月歩で進むものの
健康寿命の延伸は予防が決め手
亡くなるその日まで健康でいることを目指し、国を挙げて健康寿命の延伸に取り組んでいます。「認知症」や「脳血管疾患」の克服がその第一要件と思っている方が多いのですが、じつは関節疾患や骨折、加齢などによる運動器の障害が要介護の最大の原因になっています。脊椎脊髄疾患の予防と治療がいかに大切であるか、日本脊椎脊髄病学会の中村博亮理事長に伺いました。
一般社団法人 脊椎脊髄病学会
理事長
大阪市立大学大学院整形外科教室
教授
中村 博亮
なかむら・ひろあき/1983年大阪市立大学医学部卒業。1989年英国ロンドン大学留学を経て、1997年大阪市立大学整形外科講師に。2006年には大阪市立総合医療センター整形外科部長に就任。2009年には大阪市立大学大学院整形外科主任教授。2018年日本脊椎脊髄病学会理事長就任。2018年度第47回日本脊椎脊髄病学会学術集会会長。
要介護になる最大理由は運動器の機能低下
「人生100年時代も目前!」といわれる超高齢社会に突入しています。長寿を誇る一方で、健康寿命の延伸は国を挙げて取り組むべき大きな課題となっています。近年、日本の高齢者に介護が必要になった原因として「認知症」や「脳血管疾患」が挙がっていますが、より多い要因が「関節疾患」「骨折・転倒」「高齢による衰弱」などの運動器疾患です。すなわち、最大の原因は運動器の機能低下であり、全体の約3分の1を占めるのです。
従って、運動器の機能低下につながる脊椎脊髄疾患の予防と治療に尽力することが、健康寿命の延伸に繋がり、医療費の削減にも寄与することになります。高齢者に多い脊椎脊髄疾患は腰部脊柱管狭窄症、変性後・側弯症、骨粗鬆症性椎体骨折の3つです。
腰部脊柱管狭窄症は主に60~70歳歳以上に現れる疾患で、一定の距離は歩けるものの、それを過ぎると足に痛みやしびれが現れ、少し休めばまた歩けるようになるのが特徴です。薬の服用などによる保存療法が第一選択ですが、腰部や臀部痛、あるいは歩行時のしびれがひどくなるようでしたら外科的治療を検討します。
手術には椎骨の一部を除去し神経への圧迫を除く除圧術と、脊椎のぐらつきを金属のスクリューとロッドで固定する固定術の2種類があります。近年では経皮的椎弓根スクリュー挿入法という極めて低侵襲な手術法や、顕微鏡や径をさらに小さくした内視鏡を用いた手術、さらにXLIFやOLIFといった脇腹からアプローチする術式により筋肉組織を温存し、術後の回復を早める効果などで患者さんの負担を軽減しています。
●椎体固定術に使用されるスクリューとロット(側弯症・すべり症・後湾症などの不安定な脊椎を固定する)。 |
●経皮的椎体形成術(椎体圧迫骨折の治療として、バルーンで拡張した椎体内にセメントを注入する)。 |
●患者に負担の少ない低侵襲をめざした内視鏡による脊椎脊髄の手術が普及している。 |
●椎体固定術に使用されるスクリューとロット(側弯症・すべり症・後湾症などの不安定な脊椎を固定する)。 |
●経皮的椎体形成術(椎体圧迫骨折の治療として、バルーンで拡張した椎体内にセメントを注入する)。 |
●患者に負担の少ない低侵襲をめざした内視鏡による脊椎脊髄の手術が普及している。 |
筋肉量が少なくなるほど脊椎脊髄疾患になりやすい
変性後・側弯症は年齢を重ねることで支持組織が弱り背骨が横に曲がったり、前方にかがむように大きく曲がる病態です。
この症状はスクリューというネジとロッドを用い、矯正しながら固定する方法で治療する場合があります。広くネジを打って矯正する方法が一般的ですが、皮膚切開も大きくなり、からだに挿入するインプラントの数も多くなるため、ダメージも大きくその適応はいまだ賛否両論ある術式とも言えます。
骨粗鬆症性椎体骨折は骨粗鬆症に起因する骨折で最もその頻度が高いものですが、明らかな外傷がなくてもおこることがあります。入院によるベッド上安静の必要性あるいは最適なコルセットなど外固定の方法はまだ標準化していませんが、通常は3~4週間ほどで痛みはすこしずつ軽くなってきます。強い疼痛が一定期間続く場合には椎体形成術などの手術を行います。
明らかな外傷や腫瘍などの病気を除き、脊椎脊髄疾患の多くは加齢による筋肉の衰えと骨粗鬆症など、予防が可能な原因によって発症します。このほど、私が教鞭を取る大阪市立大学は千葉大学、北里大学との共同研究により、筋肉量が少なくなった人ほど背骨が前傾することを世界で初めて実証し、国際腰椎学会の優秀論文賞を受賞しました。脊椎脊髄疾患の予防という観点からも、運動の重要性が改めて確認されたと思います。
「脊椎脊髄疾患手術・治療」特集 掲載病院 |