低侵襲の先進医療で脊椎・脊髄疾患に挑む
脊椎・脊髄外科 医療の発展を牽引する
頸椎の低侵襲手術(筋肉を温存する椎弓形成術)には顕微鏡が必須である。
頸椎の低侵襲手術(筋肉を温存する椎弓形成術)には顕微鏡が必須である。
脊椎・脊髄疾患の臨床研究施設として医療を牽引してきた村山医療センターは、患者の負担を軽減する手術で、常に低侵襲治療の開発・技術向上に取り組んできた。そんな同院は、これまで蓄積してきた医療技術やノウハウを様々な形で発信しており、今後もさらなる飛躍が期待されている。
院長
朝妻 孝仁
あさづま・たかし/1978年医師免許取得。慶應義塾大学医学部客員教授。日本整形外科学会認定整形外科専門医。第18回日本脊椎インストウルメンテーション学会会長、現在理事。日本脊椎脊髄病学会評議員、日本脊髄障害医学会評議員、日本側弯症学会会員。脊椎・脊髄外科を専門分野とし上位頚椎~仙骨まで幅広く治療を行っている。
副院長
谷戸 祥之
やと・よしゆき/ 1989年医師免許取得。日本整形外科学会認定整形外科専門医。慶應義塾大学医学部客員講師。防衛医科大学校整形外科非常勤講師。慶應義塾大学病院、藤田保健衛生大学病院、防衛医科大学校と3つの大学病院などで臨床、研究、教育に携わり2013年に手術部長として村山医療センターに赴任。2017年より現職。
傷の小ささだけではない患者の負担減が低侵襲治療
骨・運動器疾患に対し、高度で専門的な医療を提供することで知られる村山医療センター(東京都・武蔵村山市)。
同院は1941年に発足し、現在にいたるまで国内屈指の脊椎・脊髄疾患の手術実績を誇る臨床研究施設である。これまでの実績から「村山ならなんとかしてくれる!」と、全国から訪ねてくる患者の悩みに対し、先進の医療を提供することで、信頼できる病院として評価されてきた。
同院が掲げ続けてきたテーマが「低侵襲治療の提供」だ。
「患者さんにとって低侵襲治療といえば、手術の傷が小さいことと考えがちです。しかし我々医師にとっての低侵襲とは、傷を小さくすることはもちろん、出血量、手術時間、筋肉に対するダメージ、骨を削る範囲など様々な要素を含み、患者さんへの侵襲を小さくすること全てを含んで低侵襲治療と言っています」と語るのは谷戸祥之副院長。
同院がいち早く術式を取り入れ、研究・改良を重ね、世界に誇れる低侵襲手術法に仕上げた例がいくつかある。
例えば頸椎疾患の手術。手術用顕微鏡を用いた頸椎後方からアプローチする選択的椎弓形成術(スキップ・ラミノプラスティ)は、今まで当たり前であった筋肉や骨への大きな侵襲を見直し、頸椎後方の筋肉を可能な限り温存するという手術法だ。
「頸椎疾患の手術では顕微鏡を用います。顕微鏡によって術野が拡大されるばかりでなく、モニターに映し出すことで助手や看護師も同じ視野を共有することができ、安全に手術を行うことができます」と谷戸副院長。この手術法により患者の身体的負担が大きく軽減され、社会復帰も早期に実現できているという。
また腰椎脊柱管狭窄症の低侵襲手術としては、椎弓を開く方法として、椎弓の真ん中で開く縦割式椎弓切除術と、椎弓の片側から侵入し全周性に除圧を行う片側侵入両側除圧術があるが、これらはいずれも同院が技術を磨いてきた術式だ。
3Dプリンターがつくる精度の高い挿入ガイド
腰椎固定で行われるCBT(Cortical Bone Trajectory)法も同院で、より安全な低侵襲手術法に改良された。
CBT法は金属のスクリューを用いて腰椎を固定するが、スクリューをより内側から入れ込むことで筋肉や神経を傷つけずに温存でき、術後、起立・歩行も早期に可能となる。
同院の松川啓太朗医長は、
「CBT法はとても固い皮質骨にスクリューを打ち込むので、骨の弱くなった高齢者でも効果のある手術法です。従来はスクリューを骨に正確に打ち込むためにレントゲン映像を確認しながら手術を進めていました。しかし、確認時間が長くなると被曝量が大きくなってしまいます。それを解決するのが、患者適合型スクリュー挿入ガイドです。これは事前に撮影した患者さんのCT画像を基に、3Dプリンターでスクリューを正確に打ち込めるガイドを制作します。それを手術時に皮質骨に被せるように当てて、ガイドの穴の方向に従い打ち込んでいきます。このガイドは患者さんの骨に合わせたテーラーメイドなのでスクリュー挿入精度は99.5%と極めて高く、かつ手術時間を大幅に減らした、患者さんにとってより侵襲の少ない手術です」と説明する。
こうした低侵襲手術の中には海外から入ってきた術式もあるが、村山医療センターではより信頼度の高い術式に改良し、日本の医療の発展のために研究を積み重ね、術式の普及に貢献している。
「低侵襲手術は当院で多くの患者さんが良好な結果を出していますので、中国や東南アジアからの患者さんや医師の受け入れが始まっております。今後はより広く、米国や中国をはじめとした海外の患者さんや医師達にも知ってもらい、脊椎・脊髄疾患に悩む人たちの助けになるように広報していくつもりです。同時に、海外の患者さんや医師をより多く、きちんと受け入れられる体制も整える時期に来たと思っています」とグローバル展開の必要性を説くのは朝妻孝仁院長だ。
図① スキップ・ラミノプラスティの低侵襲性 頸椎後方の筋肉をできる限り温存しつつ、必要な箇所の神経の圧迫をとる新しい術式。 |
図② CBT法の低侵襲性 従来のスクリューの入れ方と異なり、内側からスクリューを入れるため筋肉と神経をできるだけ温存する術式。 |
図① スキップ・ラミノプラスティの低侵襲性 頸椎後方の筋肉をできる限り温存しつつ、必要な箇所の神経の圧迫をとる新しい術式。 |
図② CBT法の低侵襲性 従来のスクリューの入れ方と異なり、内側からスクリューを入れるため筋肉と神経をできるだけ温存する術式。 |
眼鏡型高画質モニターも活用ウェアラブルディスプレイ
整形外科医長
松川 啓太朗
まつかわ・けいたろう/2004年医師免許取得。防衛医科大学校病院、08年防衛医科大学校病院、自衛隊中央病院を経て、防衛医科大学校医学研究科を修了。陸上自衛隊第13旅団司令部医務官。自衛隊中央病院整形外科医長。17年より現職。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医。
また村山医療センターは先進的な医療研究を行い開発する役割を担っている。現在、同院では松川医長を中心に、眼鏡に小型ディスプレイを装着して、そこに手術に関わるあらゆる情報を選択表示しながら手技を行うことができるウェアラブルディスプレイの開発を行っている。
近年、手術を支援するナビゲーションシステムを活用する医療機関が増えてきた。しかしナビゲーションの欠点を挙げるとすれば、手術の最中は手元に集中するため、そのモニターに目を移すことができない点だ。その不便さを補い、術者を手術に集中させるために開発されたのがウェアラブルディスプレイだ。
ウェアラブルディスプレイの優位性を松川医長は次のように語る。
「手術中に、眼鏡の片側に取り付けた小さなディスプレイには、必要に応じて患者さんのレントゲン画像、CT画面、心電図、電子カルテなどを表示させることができます。小型カメラも取り付ければ、術者と同じ視野をディスプレイに投影することもできるため、術者と同じ視野を他のスタッフも共有することができます。また助手や看護師もウェアラブルディスプレイを装着すれば、手術の手順や次に必要な手術具を表示することもでき、よりスムーズに手術が行えたり、正確で安全な手術へのステップアップも可能になります」
現在、村山医療センターの整形外科は脊椎を専門とする医師が12名、関節を専門とする医師が4名、手外科2名、一般整形外科1名の総勢19名という充実した陣容で先進医療の提供に取り組んでいる。「脊椎・脊髄疾患に関する当院の実績を礎として、これからも新しい技術を作って行かなければなりません」と朝妻院長は語る。
また同院は脊髄損傷の治療をはじめとするiPS細胞の活用や成果の発表を通して、手術法の改良・改善に取り組む先進医療の研究機関であること、さらには患者のQOL向上を図る親身な病院であること、そして脊椎外科を志す若い先生方をエキスパートに育てる教育機関などとして、多方面に機能する中核施設としての重要な役割を担っている。
ウェアラブルディスプレイを装着して手術に向かう松川啓太朗医長。術野から眼を放さずにモニターの画像を確認できている。 |
ウェアラブルディスプレイを装着して手術に向かう松川啓太朗医長。術野から眼を放さずにモニターの画像を確認できている。 |
独立行政法人 国立病院機構
村山医療センター
東京都武蔵村山市学園2-37-1TEL.042-561-1221
FAX.042-564-2210
http://www.murayama-hosp.jp/
月~金 8:30~11:00
■休診
土曜、日曜、祝日、年末年始
■診療科目
内科・呼吸器内科・外科・整形外科・リハビリテーション科・歯科