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薬と薬草のお話vol.92 天門冬(てんもんどう)とクサスギカズラ

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.92 天門冬(てんもんどう)とクサスギカズラ

薬用基原植物
Asparagus cochinchinensis Merrill
(Liliaceae)

 今回の薬草は冬の字がつく生薬、天門冬の基原植物クサスギカズラです。

 クサスギカズラは本州から九州、沖縄、台湾、中国などの暖かい海岸の砂地に自生するユリ科(APG植物分類体系ではキジカクシ科)のつる性多年草で、スギの葉のように見える葉状枝からクサスギカズラと呼ばれます。基原植物名にアスパラガスという名前がついているように、芽生えの姿は野菜のアスパラガスみたいなおいしそうな見た目(実際はおいしくない)をしています。春に淡黄白色の小花を咲かせます。

 薬用部位としては根被の大部分を除いた根を湯通し、または蒸したものを生薬名「天門冬」と称し、主要成分にはアミノ酸のアスパラギン、βーシトステロール、サポニンなどが報告されています。

 漢方処方として日本でエキス化されているものには、清肺湯(せいはいとう)、滋陰降火湯(じいんこうかとう)、甘露飲(かんろいん)があります。その中で天門冬はご高齢の方の痰(たん)の切れにくいときや咳(せ)き込むときへの効果を期待して、麦門冬(ばくもんどう)と一緒に配剤されています。

 また甘露飲は、地黄(じおう)、麦門冬、天門冬、枳実(きじつ)、甘草、茵蔯蒿(いんちんこう)、枇杷葉、石斛(せっこく)、黄芩(おうごん)の9種類の生薬で構成されている処方です。体力中程度以下の方の口内炎や舌の荒れや痛み、歯周炎などに使うことがあり、ご高齢の方の口の渇きにも使われることがあります。

 「天門冬」は前記のようにもう一つの生薬「麦門冬(コラムvol.7)」とよく二つ合わせて処方中に組み入れられ、漢方の解説書では「二冬」と言うことがあります。この言葉を初めて知った時、「二つの冬」から寒さが厳しいことを想像してしまいました。けれど昔、初冬に亡父と一緒に植物散策の山道で見たジャノヒゲ(麦門冬)の実を思い出すと今も心が弾みます。


2024年12月3日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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