薬と薬草のお話vol.91 木香(もっこう)とモッコウと吾木香(われもこう)
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vol.91 木香(もっこう)とモッコウと吾木香(われもこう)
薬用基原植物
Saussurea lappa Clarke
(Compositae)
空高く澄みわたった空気に触れることができる季節です。体にほどよい秋風を感じると、大山で目にした濃い紅色の吾木香が、ゆらゆらと優雅に風に揺れている姿を思い出します。今回の薬草は、私が以前「吾木香(バラ科)」と混同しそうになった植物和名モッコウ・生薬名「木香」です。
木香は、インド北部のカシミール地方やネパールの高原地帯に自生するキク科の多年草で、現在は絶滅が危惧されワシントン条約で保護されています。夏にゴボウに似た紫色の花をつけ、秋から冬に根を掘りあげ、陽乾したものを指し、その根には蜜のような強い芳香があるそうです。
主要な成分はアプロタキセンなどの精油分で、漢方処方に配剤される場合は、「理気」という言葉で表現される「主に気持ちや胃腸の調子を整える」効果を期待して使われることがあります。実際に現在エキス化して販売されている代表的漢方薬には、帰脾湯(きひとう)、参蘇飲(じんそいん)、芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)などがあります。
例えば参蘇飲は12種類の生薬に木香を加えたものですが、これからの季節、胃腸が弱い方の感冒やせきに使うことができます(製薬会社によっては木香を加えない12の薬味の参蘇飲もあります)。また帰脾湯も木香が「理気」の目的で配剤され、体力が中程度以下で、心身が疲れている方の不眠症や精神不安に処方することがあります。
秋草の季節、私の職場近くの花屋さんでも吾木香を見かけました。バケツに一つに束ねてあった吾木香とは違い、昔、植物採集で出会ったときの吾木香(吾亦紅とも書く)は「香」という字よりも、高浜虚子の俳句「吾(われ)も亦(また)紅(くれない)なりとひそやかに」の「紅色」が印象的でした。その清楚(せいそ)な姿はずっと記憶に残っています。
2024年10月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)