薬と薬草のお話vol.89 檳榔(びんろう)と檳榔子(びんろうじ)と大腹皮(だいふくひ)
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vol.89 檳榔(びんろう)と檳榔子(びんろうじ)と大腹皮(だいふくひ)
薬用基原植物
Areca catechu Linné (Palmae)
セミの鳴き声とともにまぶしく光る朝が訪れる季節が始まりました。昔、海水浴や臨海学校のニュースの時に、ヤシのことを歌った曲がよく聞こえていました。生薬の世界でヤシ科の植物が登場するものに、檳榔の種子や果皮などがあります。
ヤシ科植物は3000種以上あるそうです。そのなかで檳榔は東南アジアや中国海南島などに広く分布する常緑高木です。漢方で薬用とするものは檳榔1種だけで、その果実から分離した1.5〜3㎝ぐらいの種子を生薬名・檳榔子、果皮(繊維質のもの)を大腹皮という別名で使用することがあります。煎じ調剤用の檳榔子はその種子をさらに刻んだものを使用するのですが、断面が丸いチョコ入りクッキーを刻んだような模様をしており、手にすると苦みを感じる匂いを少し感じます。
主要成分としてはアルカロイドのアレコリン、アレカイジンなどです。漢方薬で檳榔子が含まれ現在エキス化されている処方には女神散(にょしんさん)や延年半夏湯(えんねんはんげとう)、九味(くみ)檳榔湯などがあり、そのなかで檳榔子は主に漢方の言葉でいう理気(りき)〈気のめぐりを良くすること〉や利水〈水分の異常分布の調整〉の効果を期待して配剤されています。例えば九味檳榔湯は、茯苓(ぶくりょう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、大黄(だいおう)、厚朴(こうぼく)、蘇葉(そよう)、橘皮(きっぴ)、木香(もっこう)、桂皮(けいひ)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)とともに檳榔子など11種類の生薬からなる処方で、体力中程度以上の方の下肢のむくみやだるさなどに使われることがあります。
夏の海辺に背が高くまっすぐに伸びたヤシ科植物の絵はがきはエキゾチックな遠い国を思わせてくれますが、私の最初に学んだ檳榔子の姿は緻密(ちみつ)な鏡検図(きょうけんず)でした。大理石様の模様と説明された大きな鏡検図の描画(びょうが)で「こんなものがあるのかしら」と思った絵でした。古い教科書を開くと、顕微鏡写真術の発達した今では生薬の描写など無意義なことかもしれないという説明が付記されていましたが、多くの時間と労力を費やされた諸先輩方の姿の方が先に浮かびます。
夏の海辺に背が高くまっすぐに伸びたヤシ科植物の絵はがきはエキゾチックな遠い国を思わせてくれますが、私の最初に学んだ檳榔子の姿は緻密(ちみつ)な鏡検図(きょうけんず)でした。大理石様の模様と説明された大きな鏡検図の描画(びょうが)で「こんなものがあるのかしら」と思った絵でした。古い教科書を開くと、顕微鏡写真術の発達した今では生薬の描写など無意義なことかもしれないという説明が付記されていましたが、多くの時間と労力を費やされた諸先輩方の姿の方が先に浮かびます。
2024年7月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)