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薬と薬草のお話vol.87 サンザシと山査子(さんざし)

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.87 サンザシと山査子(さんざし)

薬用基原植物
Crataegus cuneata Siebold et Zuccarini
または
Crataegus pinnatifida Bunge var.
major N.E. Brown (Rosaceae)

 満開の桜に感激した日々を過ごし、次は五月晴れの空のもと、清々(すがすが)しい風を肌に感じながら職場にむかう季節が始まりました。西洋では5月を思い起こさせるメイフラワーを別名にもつ薬草「西洋山査子(hawthorn)」が知られています。日本では漢方処方に配剤され、利用されてきた薬草「山査子」があります。

 薬用「山査子」は、厚生労働省が医薬品の規格基準を定めた日本薬局方では基原植物をサンザシまたはオオミサンザシの2種類とし、セイヨウサンザシとは異なります。中国から江戸時代(享保年間)に薬用の目的で渡来したものが栽培され、4月から6月にかけて美しい白色五弁花を枝先につけます。そして10月頃、赤色または黄色の果実(偽果〈ぎか〉)をつけたものを乾燥させ、そのままか縦か横に切ったものが生薬「山査子」です。実際に調剤室で煎じ用に使用する山査子を手にすると、乾燥した硬い実を細かく割った状態で薬研の刃が折れそうに思える硬さです。

 主な成分としてはフラボノイドのケルセチン、トリテルペノイドのウルソール酸、オレアノール酸、青酸配糖体のアミグダリンなどです。また現在日本でエキス化されている漢方処方は加味平胃散(かみへいいさん)と啓脾湯(けいひとう)で、どちらも山査子は健胃消化薬の効果を期待して配剤されています。加味平胃散は蒼朮(そうじゅつ)、厚朴(こうぼく)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、神麹(しんきく)、麦芽と山査子の九味からなります。これからの暑くなる季節、冷たい飲み物の取り過ぎや食べ過ぎで胃もたれや食欲不振、消化不良、腹部の膨満感などの症状がある、体力が中程度の方に使用されます。また啓脾湯は胃腸の弱い方の下痢、消化不良、慢性胃腸炎に使用することがあります。

 西洋山査子のメイフラワーという別名は、メイフラワー号という船のお話を思い出します。変化の波にのみ込まれそうな日々が続く昨今ですが、新しい目的に向かう姿を想像します。私たちも新たな気持ちで、新しいことに取り組んで進む次の世代を応援したいですね。


2024年5月16日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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