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薬と薬草のお話vol.86 良姜(りょうきょう)とリョウキョウ

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.86 良姜(りょうきょう)とリョウキョウ

薬用基原植物
Alpinia officinarum Hance (Zingiberaceae)

 物価高のニュースが頻繁に伝えられる昨今、毎日の食材の値上げのプライスカードが目に付きます。先日薬味の茗荷(みょうが)、生姜(しょうが)も少し高くなっていたので節約。なごり惜しく見ながら無理やり気持ちを仕事のほうへ切り替えると、思い出す―つが生薬・良姜です。

 リョウキョウは中国南部、海南島、台湾などの山地の草地や道端に生育しているとされるショウガ科の多年草で、4月から10月頃には白色か淡紅色の花をつけるそうです。さて生薬としての良姜のほうは、根茎を春または秋に掘り上げて水洗い後、ひげ根と鱗片(りんぺん)を取り除いて、乾燥させたものを薬用部分と日本薬局方では規定しています。またその香りがあるものが良品で、芳香性健胃薬として利用されます。主な成分はシネオール、ピネン、オイゲノールなどの精油成分、フラボノイドのガランギン、辛味成分のガランゴールなどです。

 漢方処方では安中散(あんちゅうさん)、安中散加茯苓(あんちゅうさんかぶくりょう)、丁香柿蒂湯(ちょうこうしていとう)などに配剤されています。なかでも現在エキス化され胃腸薬として頻繁に宣伝されている漢方処方が安中散です。
 

 安中散は、構成生薬が製薬会社によって異なりますが、日本で古くから原典として伝えられてきた古典書(和剤局方)では桂皮(けいひ)、延胡索(えんごさく)、牡蛎(ぼれい)、茴香(ういきょう)、縮砂(しゅくしゃ)、甘草(かんぞう)、良姜の七つの生薬の組み合わせです。茴香、桂皮、良姜ともにそれぞれ良い香りがしますが、今回の良姜には止痛作用があるとされています。実際、胃炎、胃酸過多症、胃潰瘍などに用いられることがあります。

 この「薬と薬草のお話」シリーズは主に1970年代からエキス化され医薬品として保険治療用や市販薬として上市され始めた漢方処方を有効に使ってほしいという思いも重なって始めました。安中散の構成生薬は今までに紹介したVol.56(甘草)、57(桂皮)、60(茴香)、65(縮砂)、72(牡蛎)、77(延胡索)と今回の良姜で構成されます。情報がたくさん手に入る現代ですが、時に時代遅れと思われる情報も切り捨てることなく、原点に立ち返って先人の知恵を思い起こしてみるのは良いことです。豊かで健やかな毎日を過ごしましょう。


2024年3月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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