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薬と薬草のお話vol.85 龍眼肉とリュウガン

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.85 龍眼肉とリュウガン

薬用基原植物
Euphoria longana Lamarck(Sapindaceae)

 元日の朝、タツノオトシゴや想像上の生き物「龍」が描かれた年賀はがきを受け取る年が始まりました。漢方処方中の生薬で「龍」が出てくるのは果実としても利用されることのある龍眼肉(リュウガン)です。

 リュウガンは中国南部、台湾、インドなどに分布し、果樹や街路樹としても栽培されているムクロジ科の常緑小高木です。春に細かい黄白色の花が開き、夏にたくさんの黄白色の球形の実が熟します。その内部、果肉は白いゼリー状で、中心部に暗褐色の種があり、これを龍の眼(め)にたとえた和名が龍眼だそうです。薬用には、その果実の種を除いた甘い味がするゼリー状の仮種皮(果肉)の方を龍眼肉として使用します。実際私が調剤室の煎じ生薬としての龍眼肉を手にすると、甘味を感じる独特の匂いがあり、ドライフルーツに似た粘りが少し手に残り、口にしてみたくなることがあります。主な成分としては糖類のスクロース、グルコース、酒石酸、ビタミンAなどです。

 また、龍眼肉は古典書「神農本草経」にも収載され、現在でもエキス化され使用される漢方処方には、帰脾湯(きひとう)と加味帰脾湯(かみきひとう)があります。二つの処方中で龍眼肉は、漢方の言葉で「養神安心」と表現される薬味の一つとして配剤され、体力虚弱な方の貧血や不眠症、精神不安、神経症などに効果を期待して使用されることがあります。

 年の初めは誰もが穏やかな時間を期待して過ごそうとしていましたが、今年は能登半島地震などの心静まることのない不安な出来事から始まりました。

 困難に遭遇されている方々には言葉をかけるだけでは申し訳ないようなニュースが流れていますが、どうか無理をせず、いつか元気を取り戻すよう心から願います。


2024年1月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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