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薬と薬草のお話vol.83 遠志(おんじ)とイトヒメハギ

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.83 遠志(おんじ)とイトヒメハギ

薬用基原植物
Polygala tenuifolia Willdenow (Polygalaceae)

 「紅葉、黄葉」といつもの道の落ち葉の彩りに見とれていると、今年の猛暑疲れなのか例年より小さく、下に枝をのばす萩(はぎ)の茂みが目にはいります。
 
 他の秋の七草である尾花、葛などは大丈夫なのかと、寄り道して探したくなります。
 
 薬草の名にハギの名を含んでいるものは、和名・イトヒメハギ、生薬名・遠志があります。日本には自生せず朝鮮半島、中国北部、シベリアに分布する多年草で、薬用には根またはその根皮を用います。
 
 現在遠志を使い製剤されている漢方処方には帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などがあります。中でも帰脾湯は遠志をはじめ人参、黄耆(おうぎ)など12種類の薬草から構成され、体力中程度以下の方で、心身が疲れ、血色が悪い方の不眠症、神経症、精神不安、貧血に効果があるとされています。

 その処方中で遠志は漢方の言葉で「安神(あんじん)作用」と表現されている役割で配合され、心配事のために起こる不眠や動悸(どうき)、健忘症などの状態に対しての効果を期待しています。また主要な化学成分にはオンジサポニンがあり、サポニンの去痰(きょたん)作用が利用される処方もあります。
 
 「遠志」という生薬名について本草学者の李時珍は「志を強くする」力を持つ薬草というところからその名の由来があると記しているそうです。
 
 一方、和名は「糸姫萩」と書き、日本のヒメハギに似て葉が細いことに由来しているそうです。
 
 この秋、秋の七草を思い浮かべながら園芸店に立ち寄ると、元気に咲いていたトキシラズ(金盞花)<きんせんか>の苗のほうが目立って見えました。

 春夏秋冬の移り変わりにも不安を感じる一年でしたが、心を強くしてまた一歩前に進みましょう。元気を出しましょう。


2023年11月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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