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薬と薬草のお話vol.82 黄苓(おうごん)とコガネバナ

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.82 黄苓(おうごん)とコガネバナ

薬用基原植物
Scutellaria baicalensis Georgi(Labiatae)

 澄み切った空の色と、朝の空気が心地よい季節が始まりました。通い慣れた通勤路に枝をのばす桜も何とか酷暑をしのいだ様子で、少しずつ秋色の黄色、紅褐色へと冬支度を急ぎだしています。今回のコガネバナは花の色と、名称から思い描く色が異なる生薬です。

 コガネバナ(別名コガネヤナギ)は中国、モンゴルなどに分布するシソ科の多年草で、生薬名「黄芩」と称し薬用部位は根の周皮を除いた部分です。

 日本には江戸時代に種子が輸入され、栽培開始後数年経(た)った春または秋に根を掘り取り、周皮を除いて乾燥させた根を刻むと黄色の断面が出てきます。

 私が初めて手にした黄芩は少し繊維質が残った黄色の刻み生薬で、触れるとチクチクするような形状でした。後に夏に美しい紫色の唇形花の開花写真を見たときは少し驚きました。

 黄芩の主要成分はフラボノイドのバイカリンなどで、多くの漢方処方中に清熱(消炎や解熱)、解毒などを期待して配剤される要薬の一つです。

 例えばエキス化された漢方には地黄や麦門冬(ばくもんどう)などと共に黄芩を組み合わせ、9種類の生薬からなる甘露飲があり、体力中程度以下の方の口内炎、舌の荒れや痛み、歯周炎に使用されることがあります。

 また半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)という処方は、半夏や人参(にんじん)と共に7つの生薬からなる処方でみぞおちがつかえ、お腹(なか)が鳴って嘔吐(おうと)や下痢、胃弱、二日酔いなどの症状に使われることがある処方です。自分のお腹の調子が悪くて困った時に短期間の服用で効果があったように思います。その他、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などエキス化され上市されているものだけでも数十処方に使われています。

 草木染の手法の一つにコガネバナ染めという染め方があるそうで、やはり根の方を使用して色褪(あ)せにくい黄色の彩りになるようです。

 北摂の山肌も、そろそろモミジやカエデの紅葉で錦色の彩りの時期。今年は短い秋かもしれませんが、紅葉狩りを楽しんでみたいですね。


2023年10月30日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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