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薬と薬草のお話vol.81 防風とボウフウ

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.81 防風とボウフウ

薬用基原植物
Saposhnikovia divaricata Schischkin(Umbelliferae)

 朝、窓を開けると涼しい風を感じ、気持ちがはずむ季節が始まりました。生薬にも「風」の字を名に持つボウフウ、「防風」があります。
 
 防風は中国北部から東北部、モンゴルにかけて分布・自生するセリ科の多年草で、夏に複散形花序の淡黄白色のたくさんの小花を咲かせ、春と秋に採取し、乾燥させた根及び根茎を使用します。ただ日本では自生せず、江戸時代に生苗が伝えられたそうですが、むしろ香辛料として民間療法や料理にも使用されてきた日本の浜辺に自生する同じセリ科のハマボウフウ、「浜防風」が当時から防風の代用品として使用されていたようです。現在の日本薬局方にはおのおのの基原植物を定義しています。
 
 現在エキス化されている防風を配剤する代表的な漢方処方には、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)など20数種類ありますが、ほとんどが中国からの輸入品の防風を使用しているようです。

 中でも玉屛(ぎょくへい)風散という処方は黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、防風の3種類からなり、中国では風邪に対して「屛風(びょうぶ)を立てるように防ぐ」という目的やSARS(重症急性呼吸器症候群)のような感染症の予防薬として使われることがあるようです。日本での効能は身体虚弱で疲れやすい場合の疲労倦怠(けんたい)感や、寝汗に対しての効果があるとしています。一方ここ数年、私たちの調剤室で行う煎じ薬としての調整の際は処方によって防風、浜防風の使い分けをします。主要成分としてはクマリン類のフラキシジン、デルトインなどです。漢方としては他の生薬との組み合わせは、例えば防風と荊芥(けいがい)などを組み合わせた処方の十味敗毒湯では化膿(かのう)性皮膚疾患に利用、防風と羌活(きょうかつ)などを組み合わせた疎経活血湯(そけいかっけつとう)では止痛を期待して関節痛や神経痛に利用されることがあります。

 AI(人工知能)、ナノ、ミクロの技術進歩のニュースを目にする日々。これからの未来では生薬の世界、防風の真偽、代用なのかという問題も解明されるかもしれません。また今日も一歩進みましょう。


2023年9月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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