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薬と薬草のお話vol.80 百合(びゃくごう)とオニユリ、ハカタユリ

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.80 百合(びゃくごう)とオニユリ、ハカタユリ

薬用基原植物
Lilium lancifolium Thunberg, Lilium brownii F.E. Brown
var. colchesteri Wilson, Lilium brownii F.E. Brown,
Lilium pumilum De Candolle(Liliaceae)

 ここ数年、夏の出勤時に雑木林の側に来ると、下草の茂みの植物を探してしまいます。近隣のお庭で栽培されていたものが野生化したのかもしれませんが、見つけるとホッとする白いテッポウユリです。
 
 100種類以上あるといわれるユリ属は、現在では観賞用の切り花として年中見かけますが、日本各地や朝鮮半島、中国に分布自生する多年草で夏に開花します。薬用の基原植物と定義されているのは、今回のオニユリやハカタユリで秋に鱗茎(りんけい)(ユリ根)を採取、鱗片葉(りんぺんよう)をバラバラにして蒸し、日干ししたものを、生薬名「百合」と称します。主要な成分としてはステロイドサポニンや微量のアルカロイド、澱粉(でんぷん)やグルコマンナンなどです。

 百合が配剤されている漢方処方としては熱病が回復した後の微熱や動悸(どうき)、煩躁(はんそう)感、不眠、精神不安が見られるときに知母(ちも)や地黄(じおう)などと組み合わせた、百合地黄湯や百合知母湯も古典書にはありますが、現在製薬会社がエキス化し上市しているものは、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)一処方のみです。この処方は辛夷(しんい)、百合以外に麦門冬(ばくもんどう)、枇杷葉(びわよう)、黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)、知母、石膏(せっこう)、升麻(しょうま)、の9味の生薬で構成され鼻づまりや慢性鼻炎などに効果があるとされています。

 普段薬局の調剤棚に向かうと、日進月歩で目まぐるしく変わっていく新薬の棚に比べると、漢方薬の棚は古来のものと思ってしまいがちです。

 以前の教科書には収載されず、百合といえば茶わん蒸しに入っている食用の印象の方が強かったのですが、薬用としての百合の局方収載時期をたどり始めると、忙しい日々の仕事に追われすぎたのか生薬棚が改めて新しく思えました。諸先輩が度々話された言葉、「温故知新」が胸に浮かびました。


2023年8月30日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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