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薬と薬草のお話vol.79 知母(チモ)とハナスゲ

広告 企画・制作/読売新聞社ビジネス局

vol.79 知母(チモ)とハナスゲ

薬用基原植物
Anemarrhena asphodeloides Bunge(Liliaceae)

 濃い緑の葉陰から蝉(せみ)の声が聞こえる朝、夏本番が始まりました。青い空に白い雲が浮かぶ夏模様は夏休みに過ごした海や山での思い出がよみがえります。
 
 今回のハナスゲは、蝉の声を聴くと思い出す処方の一つに組み入れられている薬草です。
 
 植物和名のハナスゲは、生薬和名「知母」と称し、中国北部に野生するユリ科の多年草の根茎で、5月から6月に紫色の小さな花を咲かせます。

 薬草の古典書にも掲載され、日本にも江戸時代に渡来したといわれ、私の手元に残っている1960年代の生薬学の教科書には、栽培される産地として群馬県が掲載されていましたが、定着しなかったようで現在は中国産しか使用されていません。

 主要成分はサポニンや配糖体、ビタミン類が知られています。現在エキス化された代表的な漢方処方には、酸棗仁湯(さんそうにんとう)、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)、消風散(しょうふうさん)、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)、滋腎通耳湯(じじんつうじとう)などがあります。
 
 中でも滋腎通耳湯は当帰(とうき)、地黄(じおう)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)、柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)、白芷(びゃくし)、黄柏(おうばく)に今回の知母や香附子(こうぶし)を含む10味の薬味からなる処方で、年を重ねると衰えてくる聴力の低下、体力虚弱な方の耳鳴り、めまいなどに効果があるとされます。
 
 他にも、5つの薬草(酸棗仁、茯苓〈ぶくりょう〉、川芎、知母、甘草〈かんぞう〉)からなる酸棗仁湯は、心身が疲れ、不眠や不安などがあるときに効果的だとされています。
 
 夏の暑さ厳しい毎日、次の季節を元気に過ごすためにも体調に気をつけて乗り切りましょう。


2023年7月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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