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薬と薬草のお話vol.76 スモモと李皮(リヒ)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.76 スモモと李皮(リヒ)

薬用基原植物
Prunus salicina Lindley(Rosaceae)

 桜の開花が気になりはじめましたね。周辺の家の雪柳の白、沈丁花(じんちょうげ)の香り、連翹(れんぎょう)の黄色の花が、春の空気を纏(まと)いながら一斉に咲き誇るのに目を奪われ、時間を忘れてしまう朝が始まりました。「いけない、急いで仕事に出かけなくては」と歩き始めると、アンズの薄紅色の花です。

 桜より少し早いのが、アンズや桃の花の季節です。去年は見過ごしてしまったので今年こそ見なくてはと立ち止まってしまいます。漢方処方の中にも桃や、今回のテーマであるスモモの名が使われている生薬があり、その一つに李皮があります。

 スモモは中国揚子江を原産とするバラ科の落葉高木です。アンズの後、3月~4月頃に白い花を咲かせます。日本にも古くから渡来し古事記や日本書紀にもその名が記載され、明治時代には果実(巴旦杏〈はたんきょう〉など)を輸出していたこともあったそうです。

 生薬としての李皮は日本薬局方外生薬の一つで、スモモの根皮または樹皮を基原と定義しています。中でも江戸時代、日本で李皮などが加味された処方に、「定悸飲(ていきいん)」が近年エキス化され、上市されました。この処方はめまいやふらつきなどに使うことのできる苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)という四つの薬味に、李皮など三つの薬味を加えた茯苓(ぶくりょう)、桂皮(けいひ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)、李皮(李根皮)、牡蛎(ぼれい)、呉茱萸(ごしゅゆ)で構成されているもので、ストレスや不安感などにより動悸を感じる時に効果的とされる処方です。

 アンズの花、桜の花と次々記憶に浮かぶ景色を思い出すと、長い間諦めていた山道歩きで出会った草木の姿が眼前によみがえり、気分が明るくなります。今朝、ふと箕面の山肌を見上げると山桜が咲き誇っていました。山笑う季節が近づいています。


2023年3月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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