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薬と薬草のお話vol.71 キバナオウギと黄耆(オウギ)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.71 キバナオウギと黄耆(オウギ)

薬用基原植物 Astragalus membranaceus Bunge
または
Astragalus mongholicus Bunge (Leguminosae)

 台風一過の翌朝は、爽秋の空気が昨晩までの不安を取り去る風を運んでくれます。暦の上では重陽の節句や長寿を祝う祝日が目に付き、健康に年を重ねることに感謝する思いを運んでくれる季節です。薬草の世界でも普段身近なものではないのですが、「老いる」と「日」の字を使っている生薬名に「黄耆」があり、私はこの「耆」という字を知ったのは仕事を始めてからです。

 黄耆はマメ科の多年草で中国の東北部、内蒙(ないもう)などで分布または栽培されるキバナオウギ(黄花黄耆)、ナイモウオウギ(内蒙黄耆)などを日本薬局方では基原植物とし、数年栽培した根を用います。煎じ薬用の刻んだ黄耆は、繊維のような手触りで、あまり香りはしません。その主要成分はフラボノイドのホルモノネチンやサポニンなどで、黄耆エキスには利尿、強壮、降圧などが報告されていて、生薬のニンジンとともに参耆剤(じんぎざい)という組み合わせで、元気を出す力(補気)処方として配剤されることがあります。

 例えばエキス剤の代表的処方としては補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)は、長引く疲労や体力回復、食欲不振、発熱疾患後の体力回復等に使用することがあります。また、帰脾湯(きひとう)という処方は体力中程度以下の方の不眠症や貧血に用います。さらに近年エキス剤が上市(じょうし)された処方には、黄耆、白朮(びゃくじゅつ)、防風(ぼうふう)の3味の生薬で構成された玉屛風散(ぎょくへいふうさん)があります。止汗(しかん)作用を期待して配剤され、身体虚弱で疲れやすい方の寝汗や疲労、倦怠(けんたい)感等がある場合に使用することがあります。

 ここ数年、災害や感染症のニュースを聞いていると、高齢の方はいち早く対応をと警鐘を鳴らされることが多くなったように思えます。私が両親を世話していた時、本人たちは祖父母の時代の寿命と比べて「もう年だから」と長生きを遠慮する時がありました。どうぞ、元気に過ごしてこられたことに自信をもって、長寿を祝ってください。


2022年9月30日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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