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薬と薬草のお話vol.63 コブシと辛夷(しんい)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.63 コブシと辛夷(しんい)

薬用基原植物 Magnolia kobus De Candolle
Magnolia salicifolia Maximowicz 
Magnolia biondii Pampanini
Magnolia sprengeri Pampanini
Magnolia heptapeta Dandy(Magnolia denudata Desrousseaux)
(Magnoliaceae)

 冬、草木の彩りに出会うことがない景色に囲まれると、以前、山道を辿(たど)るドライブ中、空を突き刺すような枝先に白い大きい花を見つけた時の驚きを思い出します。コブシの花です。冬ごもりが続く毎日に疲れたのか、「どこかに行きたい」と家族に頼まれて、目的地を決めず走り慣れた北摂の山々を回っていたときのことです。

 コブシはモクレン科の落葉性高木で、他のモクレン科植物に先だって白い花を咲かせ、春を待ち望む心を元気づけてくれるので、同属種の中には「望春花」という別名を持っているものもあります。薬用にはモクレン類のタムシバ、コブシ、ハクモクレンなど5種を薬局方では定義し、その花蕾(からい※ツボミのこと)を生薬名「辛夷」と称し用います。私が初めてこのことを実感したのは、煎じ薬用の刻んだ辛夷を手にした時で、ツボミの姿がわかる特有の匂いのするものを手にすると、この植物も花咲きたかったのではと、自分の都合とはいえ申し訳ない思いで手の動きが遅くなりました。

 現在繁用されているエキス製剤の漢方処方としては、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)や葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)など、中でも「葛根湯加川芎辛夷」は有名な「葛根湯(葛根〈かっこん〉、芍薬〈しゃくやく〉、麻黄〈まおう〉、桂皮〈けいひ〉、大棗〈たいそう〉、生姜〈しょうきょう〉、甘草〈かんぞう〉の七味)」にこの辛夷ともう一つ川芎を加えたもので、これからの季節、鼻疾患、特に鼻がつまり、通りが悪いときや、蓄膿(ちくのう)できます。成分としては精油のリモネンやシネオール以外にアルカロイド、リグナンなどです。生薬としては花柄がなく大きく充実したものが良品と教わり、煎じ薬を調整していると、辛夷の有効成分は精油だけではなくアルカロイドなどの水溶性物質も大切な成分に思えます。

 暦通りの冷気に触れる大寒の朝は外に出る気力も弱くなります。それでも大寒の次には節分、立春の春の巡りが待っています。春が待ち遠しい、「望春」実感の朝です。


2022年1月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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