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薬と薬草のお話vol.38 丁子(ちょうじ)とクローブ

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.38 丁子(ちょうじ)とクローブ

薬用基原植物 Syzygium aromaticum Merrill et Perry(Eugenia caryophyllata Thunberg)(Myrtaceae)

 夏の暑さで食欲不振気味、外出先に向かう途中、地下鉄のつり広告にカレーフェスタの案内がありました。そういえば、子供の頃夏休みにキャンプ場で作ったカレーはなぜあんなに食べられたのだろう。

 たくさんのスパイスの組み合わせでできるカレールーは、カルダモン、シナモン、ナツメグ、クローブなどが用いられ、多くは漢方の世界でも薬味としての役目を持っています。

 例えばクローブは、生薬としての呼称は「丁子(丁香=ちょうこう=)」。インドネシアのモルッカ諸島原産の常緑小高木、チョウジノキの花蕾(つぼみ)を乾燥したもので、日本にも古くから伝わっていて正倉院御物にも含まれていたそうですが、生植物が渡来したのは嘉永元年(1848年)との記録があり、風土にあわず枯死したとのことです。また江戸末期には、関西の堺で丁子の精油成分「丁子油」を扱う業者があったそうです。私は、歯痛止めとして今も販売されている液体「今治水〈こんじすい〉」にふれたときに、丁子の香りを思い出します。この今治水の主要成分であるオイゲノールは、丁子の精油に含まれているのです。

 漢方処方での丁子は治打撲一方〈ぢだぼくいっぽう〉、女神散〈にょしんさん〉、柿蔕湯〈していとう〉に配剤されています。丁子の役目は「温」や「理気〈りき〉」という言葉で表現される働きをすると考えられて用いられます。中でも、柿蔕湯は丁子・生姜〈しょうが〉・柿蔕の三つの生薬で構成され、しゃっくり止めの薬として用いられます。

 幼いときの夏休み、祖父母の里に預けられ、普段と違う景色や友達、小旅行など、心躍る時間が待っていました。そうだ、いつもと違うスパイスの効いたレシピに挑戦して、仕事をかたづける元気を取り戻しましょう。


2019年7月30日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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