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薬と薬草のお話vol.34 ヤマザクラと桜皮(おうひ)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.34 ヤマザクラと桜皮(おうひ)

薬用基原植物 Prunus jamasakura Siebold ex Koidzumi
または Prunus verecunda Koehne(Rosaceae)

 この国に育つと誰にでも忘れられないサクラの風景があります。私もその一人。心に焼き付いている風景は、満開のサクラと一緒に見た両親の笑顔です。

 サクラの種類は非常に多く、また分布も広範囲ですが、薬用には主にヤマザクラの樹皮を「桜皮」と称し、古くから民間療法でも多くつかわれてきた生薬で、サクラはセンブリと同様、中国から漢方としての使用法を導入したものではなく、日本育ちの生薬です。

 また、桜皮単独の薬効としては、フラボノイドのサクラニンなどに鎮咳去痰(ちんがいきょたん)の効果が認められています。薬局で育った私は子供時代、忙しく薬を調製している母の手にあった美味(おい)しそうなチョコレート色の液体が後におやつではなく桜皮エキスと知りました。

 一方、漢方処方として桜皮を使用しているのは「十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)」と「治打撲一方(ちだぼくいっぽう)」の2処方だけで、十味敗毒湯は、江戸時代の医師華岡青洲が変方して作ったことで有名です。

 ただし現在主流のエキス剤の十味敗毒湯は、メーカーによって桜皮でなく「樸樕(ぼくそく)」(クヌギの樹皮)を使用していますが、双方とも「十味敗毒湯」として軽度の化膿(かのう)性湿疹や皮膚炎、蕁麻疹(じんましん)などに効果を発揮してくれます。特に、これから汗ばむ時期の化膿しやすい皮膚疾患には有用な処方です。漢方処方中で使用されている桜皮の薬能(薬効)は鎮咳・去痰薬ではなく、主に排膿(膿=うみ=を体の外に出す)や解毒の効果がある薬味として、他の薬味、例えば桔梗(ききょう)と桜皮の組み合わせで配剤されています。

 時計の森に囲まれているような毎日、精いっぱい仕事に取り組んでいても思わぬところで悲しいことやつらいことに出会うときがありますね。そんなとき、亡き父母から「忘れること」と諭されました。

 十数年前の春、両親を連れて上京、その行く先すべてで見た満開のサクラと笑顔を「忘れないこと」で、また次の日に向かう元気がでます。


2019年3月28日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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