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薬と薬草のお話vol.22 モモと桃仁(とうにん)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.22 モモと桃仁(とうにん)

薬用基原植物 Prunus persica Batsch
または Prunus persica Batsch var. davidiana Maximowicz(Rosaceae)

 毎日同じ風景の中でも、春の節句が近づいていたのか、外出先の待合で隣に座られた方の買い物包みに薄紅色の桃の花を目にしました。

 私たちになじみの深い植物「桃」は、食用、観賞用として世界各地で栽培されていて、日本の民間療法では花や葉も薬用としています。

 一方漢方の薬味としては、桃の熟した果実から私たちが普通タネと呼んでいる部分を取り出して、核と呼ばれる硬い皮を割った中にある褐色の薄い種皮をかぶった種子を生薬名「桃仁」として使用します。

 代表的な漢方薬には大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)や潤腸湯(じゅんちょうとう)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などがありますが、現在日本で繁用されているエキス剤としては桃核承気湯(桃仁・桂皮(けいひ)〈原典は桂枝〉・大黄・芒硝(ぼうしょう)・甘草)があり、比較的体力がありのぼせや精神不安(イライラ)、更年期障害、便秘などに使用されます。お薬の使い方で体力のことにふれているのは、漢方では同じ便秘という症状でも体質が異なれば違う処方を選ぶことがあります。

 桃の花枝を目にすると北摂の千里丘陵がニュータウンになる以前、両親に連れられて行った一日を思い出します。その日見た小高い丘陵には、時代劇映画の撮影に使った茶店と、その下に薄紅色の花が柔らかな空気を漂わせていた桃畑が朧気(おぼろげ)に浮かんできます。もしかすると伝説の郷、水に浮かんだ桃の花を共に飲んで三百年の齢(よわい)を重ね憂いのない時が流れる、人の世の理想郷「桃源郷」に向かう一日だったのかもしれません。


2018年3月14日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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